第21話 石竹律という男

 「あの~これは?」


 部屋で少女と待っていると話を終えたのか?石竹さんと彼女が戻って来た。

 戻って来た彼女は、手に持っていた袋から少女のために買って来たヨーグルトやスポーツドリンクなどを取り出し、食事の準備を始めた。それを気に石竹さんが拙者と話をしたいと言うので、部屋のことを彼女に任せ、石竹さんと別室へ。

 部屋を出る際、少女が寂しそうに置いて行かないで言うように拙者の袖をギュッと握りしめていた。


 「大丈夫。ちゃんと戻ってくるからその人と一緒に待っててな」


 拙者は少女にそう言い、部屋を後にする。



 石竹さんとともに入った別室は、台所や冷蔵庫があり、中央に大きなテーブルが1つと背もたれの無い椅子が幾つか部屋の脇に積まれていた。

 

 「ちょっと待っててね~」


 そう言いながら石竹さんは台所に立ち、水をいっぱい入れた鍋をコンロの上に置き、それを温め始めた。

 テーブルの傍で椅子に座り待っていると、やがて出来上がったモノがテーブルに置かれた。

 透き通ったスープ、スープの中で輝く黄色い麺、厚く切り分けられたチャーシュー、脇に添えられたほうれん草。

 置かれたのは、どんぶりに入った一杯ラーメンだ。


 「あの~これは?」


 「あれ、ラーメン嫌いだった?」


 「あ、いえ、そういうわけでは」


 石竹さんは、拙者と対面になるようにテーブルに着く。


 「「いただきます」」


 お互いに目の前にあるラーメンに手を合わせる。

 どんぶりに入ったラーメンを箸で掴み食べ進めていく。


 「そうだ君、え~と、なんて言ったけ?」


 ラーメンを食べ進めていると拙者の耳に石竹さんの声が届く。

 一度箸を止め、拙者は答える。


 「目録もくろくです。道外みちそと目録もくろく


 「目録くんは、あの子とどこで出会ったの?」


 「あの子とは、灰色の森の中です」


 「その時、あの子はどんな状態だった」


 石竹さんの質問は、止まらず続く。


 「……ッ、」


 開こうとした口が、閉じられる。

 出会った時のことを正直に説明するか。この時拙者は迷っていた。

 この人は、医者だ。あの子が患者である以上情報はそれなりに必要だ。


 「…元気な状態?」


 「そうか。では何故あの子はあんな怪我を」


 「…同じ服を着たよく分かんねぇ奴らが現れて、それで」


 拙者は、少女と出会った時のことは喋らなかった。ただ怪我の理由だけを答えた。


 「あいつらは、あんな幼い子に容赦なく銃を向けたんです」

 「拙者は、目の前で起こる出来事に立ち尽くすだけでした」


 遮ることなく石竹さんは、黙って聞いてくれている。


 「でも君がいたからあの子は今、ここにいる」


 「はい」


 石竹さんの言葉に拙者は、ただ頷く。

 一瞬の沈黙が流れる。


 「目録くん。君はこの世界の人間じゃない」


 !


 突然だった。

 意味が分からなかった。

 石竹さんの口から出た言葉に拙者の手から箸が落ちた。


 

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