第20話 物語
「先生!どこに行ってたんですか」
部屋で話すとあの子の回復に良くないと考えた私は、律先生を屋敷の広間へと連れだした。
「どこって、出張所だよ」
私の質問に律先生は、自身の後頭部を掻きながら答える。
出張所。正式名称:政府直属特別組織 島支部出張所
この島の調査を目的とした政府直属の組織が拠点している場所だ。
「そこにも医者はいるでしょうに、何で先生が」
国が派遣している組織だ。当然その場所にも医者は常時何人かいるはずだ。なのに何で先生が呼ばれたのか?
「他言するなよ。厄災が出たんだと」
「厄災?ってなんですか」
律先生が口にした聞き覚えのなに単語【厄災】。
私が聞き返すと律先生は、広間にある本棚のほうへ足を進める。
本棚から1冊の本を取り出し、それを私のほうへ持ってくる。
「この本読んだことあるか?」
「いえ、無いです」
私がそう答えると先生は、読めと言わんばかりに本を突き出してくる。
私なんだか分からいまま、本を受け取る。
【タイトル:島の探検隊】
【作者:石竹 連】
固めの表紙をめくるとポップな絵が広がっていた。
絵本だ。
私は、ただただその絵本を読み進めた。
・・・・・・
数分後、絵本を読み終えた。
「読み終わったか?」
「はい。でもこの絵本とその厄災というの何の関係があるんですか?」
私が絵本を読み終えたのを目の前で確認する律先生。
絵本の内容は、1人の青年が島を探索していくというただの冒険物語だった。それが、その厄災というのにどういう関係があるのか?読んでも私には、分からなかった。
「物語の最後に龍が出てこなかったか?」
「はい。出てきましたね」
絵本の最後、青年は龍と出会う。
龍との戦いが始まり、その結果お互いに命を落とす。
青年がその命と引き換えに龍を倒したことを村の人たちに称え、青年を村のとある場所へ埋葬した。
「簡単に言うと、その龍が今向こうで寝てる少女だ」
「まさか~、そんなこと言っても騙されませんよ」
律先生のその言葉に私は冗談交じりに嘘だと指摘する。が目の前で見せる律先生のその表所に冗談や嘘をついている様子は、無かった。
「…本当なんですか?」
「正確には、その本の続きが今この島で起こり始めていることだ」
その言葉を聞いて私は気づいた。
私のしたことは、この島にとっては良くない事だった。でも目の前で苦しんでいる子を見逃すのは医者としてできる訳も無かった。
「先生。私のしたことは間違いなのでしょうか?」
「いいや、なんも間違えちゃいねぇよ」
私の言葉に先生は、そう答える。
「でも私は、!」
「命。お前はただ目の前で消えそう命を救っただけだ。たとえそれが善だろうが悪だろうが、医者とってそんなことは関係ないと俺は思っている」
「だからこそお前のやったことは、医者としていいことだ」
先生は私にそう言う。
いつの間にか私の眼からは、葉っぱ1枚ほどの涙が流れていた。
「変なこと言って悪かったな」
先生は、泣いてる私の頭をゆっくりと撫でる。
私は甘えるように先生の白衣で、涙を拭いた。
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