第18話 それは冷静に
部屋の扉が開き、廊下に立つ男と拙者の眼が合う。
男は大きめの白衣の着ており、左手には茶色の大きめなカバンを下げている。
拙者と男の間で数秒の沈黙が流れる。やがてその沈黙を破るように男は口を開いた。
「どうも、ゆっくりしていってくださいね」
男からすれば拙者たちは勝手に屋敷に居る身。なのに男は、何も問題無いかのように拙者に対して優しく声を掛けて来た。
拙者は、その男の予想外の行動に戸惑ってしまった。
「あ、すいません。申し遅れました俺…じゃない。私はこの屋敷【
男は、こちらに丁寧に自己紹介し頭を下げる。
「あの~?」
拙者の声に石竹さんは「何でしょうか」と丁寧な口調で返す。
「その~、ビックリしないんですか?」
「…何故?」
石竹さんは、何の疑問も無いように聞き返す。
「いや、客観的に見れば勝手に屋敷に入ってて、勝手に使ってるんですよ。なんでそんなに落ち着いてるんですか?」
拙者の疑問に石竹さんは、「あ~」と反応しつつも自身が落ち着いてる理由を語り始める。
「理由は色々あるのですが、そうですね~。確かに最初に目にした時は驚きましたね。ですが強いて言うならば、そちらに寝ている子を目にして大体の予想がついたから。ですかね」
「大体ですか?」
「そうですね。例えば~、弟子が連れて来た患者。または、その子を治療しようと急いでたところたまたまこの屋敷を見つけた。とか、他にも考えれば可能性は幾つもあります」
「…凄いですね」
「いえ、こんなのはただの慣れですよ」
石竹さんの状況判断能力に圧倒し、ただただ感想が拙者の口から漏れる。それすら彼は、笑顔で返す。
「すいませんが、少しこの子を診てよろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
拙者に許可を取った石竹さんは、横になっているこの子の窓際へ回り腰を下ろす。
「あ!起きてるんだ。おはよう。ちょっとだけごめんね」
石竹さんは、この子が少し起きているのに気づくと少女にも断りを入れ、少女に掛かっている掛布団を半分ほど返す。
「少し汗をかいてる。ちょっとごめんね。…でも熱は無さそうだな」
少女のおでこに手を当てたあと石竹さんは、カバンから聴診器や血圧測定器を取り出した。
聴診器を耳に着け、測りの部分を少女のお腹にあてる。それを終えると次に少女の血圧測定を始めた。
「問題なし。ちなみにこの子の治療は君が?」
少女の体調を調べ終えた石竹さんの眼がこちらを向く。彼からの質問が拙者へ投げられる。
「いえ、ここに連れてきてくれた女性が」
「そうですか。ありがとうございます」
再び少女のほうへ視線を戻す石竹さん。「少し失礼します」と言い少女の身体の傷を隠していた絆創膏をゆっくりと剥がし傷の具合を観察する。
(あいつが一人でか。よくやったな」
(でも、やっぱりか)
石竹さんが何かボソッと口にしたようだったが、わずかに聞こえなかった。
「大丈夫ですね。治療が行き届いている徐々に回復していきますよ」
「ありがとうございます」
拙者は、少女を診てくれた石竹さんに感謝する。その時だ。遠くのほうから扉の開閉音が素早く2回聞こえてきた。
拙者は、聞こえてきた音を耳で理解していた。
彼女が帰って来たようだ。
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