第17話 夢のあと
「皆様。最後にこちらへ」
何も見えない。けど聞こえる。
「じゃあね」
「またな」
「寂しくなるよ」
手足が動かない。でも聞こえる。
「……」
「これ入れとくね」
「……は、いっつもお腹空かせてるから途中で食べてね」
「ごめんね。…最後に渡せるのがこんなので」
喋れない声も出せない。まだ聞こえる。
「ごめんね。こういう時にも作ってこれなくて」
傍で誰かが泣いてる。強く感情を揺らしながら泣いてる。彼女の声が僕の耳に届く。
「192*41」
聞こえてくるその声に俺は空っぽの声を送る。
―――――
真っ暗な光景に断続的な背景が差し込まれていく。
(あれ?声が聞こえてた気が)
瞼を開け、目の前には少女が1人横になっている。
目に映るその現実にぼやけた目とぼやけた頭が、段々とはっきりしていくのが分かる。
(ふぁ~寝てた)
大きな欠伸が出る。そのまま腕を伸ばし軽く身体を動かす。
少し音を立ててしまったが少女は、まだすやすやと布団の中で寝ている。
「少し貰うな」
少女の傍に置かれているお盆。お盆には水の入ったペットボトルが1つと逆さまの紙コップが2つ用意されていた。
紙コップを1つ起こし、ペットボトルの水を1口分注ぐ。
拙者は、コップに注がれた水を口へと運んだ。
コップをお盆に置き、胡坐のかいた膝の上に肘をつき拳に頬を乗せる。
窓から指す白い光が布団の上を通し拙者の身体に重なる。
(朝か)
口から零れる言葉が今を表すものなのは、拙者が何も考えていないからだろう。
考えていないは語弊があるか。治療が終わったとは言え、少女の元気な姿を見ないと落ち着かない自分がいるからだろう。しかし…
森を抜けて出会った最初の人間が医者だったというのは、奇跡なのか?不幸中の幸いか。
そんなことを考えていると廊下を足早に進む音が段々と近づいてきていた。
さぁーと部屋の扉がゆっくり開く。
「あ!起きた。私、ちょっと町まで買い物に行ってくるからその子見といて」
「わかっ…」
「よろしく!」
拙者が返事切る前に彼女はそう言って、また足早に廊下を歩いてった。
少しして遠くのほうから扉の開閉音が、素早く2回聞こえてくる。
騒々しい女だな。そう思いつつ扉へ向けてた視線を少女のほうへ戻す。
扉や会話はまだしも、女の足音でも起きないか。
ぐっすり眠る少女の傍にもう一歩ほど近寄ろうと畳の上で膝を引きずろうとした時だ。遠くの扉の開閉音が、また2回聞こえてきた。
(忘れもんか?慌ただしいヤツだな)
そう思い扉のほうに視線を向けたが、違うこれは彼女のじゃない。すぐにそう感じた。
廊下を歩くスピード。扉の開閉もゆっくりだ。
部屋の外を確認しようと拙者は、畳から膝を離す。拙者の身体は立ち上がらなかった。
畳に付いてる手に視線を送ると布団からはみ出た小さな手が、裾を掴んでいた。
「……な…で」
小さく聞こえてくるその言葉に拙者は、畳から膝を離すのをやめた。やがてゆっくりとした足音の主が、部屋の扉を開いた。
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