第16話 触らぬモノに
「ッー~!すまないがもう少し丁寧に頼む」
「そう言われてもな、これでも十分優しくやっているんだが」
椅子に座るリーン・クロークがそう言う。
俺は、彼の上半身に付けられた傷を観察しつつ治していく。
ガッラン!
「はいよ!お待ちどーさん」
医療器具を置き、手袋を外す。
治療を受け終えたリーンが立ち上がり
「ありがとう。助かった」
「仕事だからな。…で、誰にやられた?」
リーンの感謝の言葉を耳で受け取った俺は、医療器具の片づけに手を付けると同時に傷の原因について聞いた。
リーンとちょっとした縁のある俺
俺がここに到着した時点で隣の部屋では、既に彼の仲間が数名ほど治療を終え横になっていた。治療の順番は全て部下を優先に行っていたため、遅れて到着した俺がリーンの担当になった。
彼の部下たちの症状を確認したが、誰も彼もがとても悲惨な状態だった。
「…厄災だ」
「厄災?」
リーンの口からでた聞き覚えの無いその答えに、聞き返すように俺は復唱していた。
リーンは視線を俺に向けると一瞬考え込み、考え込んだかと思えば制服のポケットからスマホを取り出し視線をそちらに向け操作し始めた。
ピコン!
小さな通知音が鳴る。
俺は身に着けている白衣のポケットから取り出したガラケーを開く。
ガラケーに1件のメールが届いていた。
俺は1度リーンのほうに視線を送ってからそのメールを開いた。
【極秘】
研究施設から生命Uが脱走。これの捕獲または処分を命じる。
生命Uは人間の子供のような見た目だ。
リーンから送られてきたメールには、そう綴られていた。
「なるほど。その厄災ってのにやられたと。で」
「で、って?」
俺の言葉にリーンは首を傾ける。
「捕獲とか処分できたのかってこと」
俺はリーンに質問し直す。それを耳にしたリーンの顔が下を向く。
「出来る。…はずだった」
だった。リーンの口から零れたその言葉を俺は慎重に救い上げる。
「何があった」
俺の問にリーンはゆっくりと説明を始める。
「厄災の捕獲には成功した。そして私が厄災に向かって弾丸を放った時だ。ヤツが、刀を持った男が厄災を守ったんだ。」
「その後はそいつのせいで、厄災を取り逃がした」
説明するリーンの言葉にはいつの間にか怒りの感情が籠っていた。
「そうか」
事の顛末に俺は一言残し、リーンの話しを聞いている間に荷物をまとめたカバンのチャックを閉める。
カバンを担ぎ、扉のほうへ足を進める。
「もう行くのか?」
扉の前に立つ俺の背中にリーンの声が届く。
「ああ、仕事終わったしな」
視線をリーンのほうへ移しながら返答するも俺の手はドアノブに掛かている。
「すまいな。急に呼んで」
「全然、今は弟子もいるからな」
「そうか」
リーンは優しく微笑む。
「じゃあな。最後に医者としての指示だ!」
「ゆっくり休め」
古い付き合いとかではなく1人の医者としてリーンに忠告する。
俺の言葉にリーンは無言で頷く。
「じゃあな」
もう1度別れの言葉を口にし、ゆっくりと扉を閉め、俺はリーンのいる部屋を後にする。
建物を出て、帰り道を歩く。
ポケットからガラケーを取り出し、さっきのメールを開く。
メールには、先ほどの文。…に、1枚の写真が添えられていた。
写真には、誰かの袖を掴みながら笑顔を見せる少女が納められていた。
その写真を見ていると今朝見た夢が、俺の頭の中で流れる。
屋敷にある1つの部屋を開けるとそこには、刀を持った男が眠っているこの子を看病している姿が。
「ホント…嫌な……だ」
ガラケーをポケットに入れ、振り向かず俺の視線は前を向く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます