第15話 待つこと。~分

 ガラガラガラ。タン!


 屋敷の中へと入り、内側から扉を閉める。

 両手で少女を抱え直し、目の前を先行く彼女のほうへと足を進める。駆けらずそれでいて遅すぎず抱える少女に負担を与えないようゆっくりと奥の部屋へ。

 徐々に近づくにつれ部屋の光が、暗い屋敷の中を歩く拙者を照らしていく。やがて彼女が先に入って行った奥の部屋へと足を踏み入れる。

 幸いなことか?この部屋には扉が存在せず、抱きかかえる少女から一時的でも手を離さなくて良かったことに拙者はホッとした。


 「ありがとう。準備できてるよ」


 扉の無い部屋から彼女が、こちらを確認する。

 彼女は白衣を身に纏い、廊下ごしに見える銀色の台車やベットに薬品やタオルなどを準備していた。

 部屋から出て来た彼女は、拙者から少女を抱きかかえる。そのまま彼女は少女と共に部屋の中へと入って行った。拙者も部屋へ入ろうと一歩目を踏み出した時、彼女がこちらを振り返った。


 「ダメ!この部屋は、患者と医者しか入れない。あなたは向こうの広間で待ってて」


 彼女の口から出たに言葉は青色の靄が見えた。真剣な言葉だ。

 拙者は彼女の言葉にただ…「分かった」と答えるしか無かった。

 段々と遠ざかっていく少女。ふと拙者の口から声が出た。


 「あの!」


 その声に再び彼女が振り向く。彼女の真剣な眼差しが拙者を射す。


 「その子のこと。よろしくお願いします」


 拙者は彼女に対して深々と頭を下げた。ただ少女の怪我が治って欲しい願いを込めて。自分に出来ないことを彼女に頼んで。


 「はい、大丈夫です。お任せください」


 頼れる彼女の声が拙者の耳へ届けられる。

 頭を上げると廊下越しに見える部屋から彼女は見えない位置へと進んでいた。そして拙者は、広間のほうへ向け足を進める。


 カチコチカチコチ


 広間に着き並べられた椅子に座る。

 視線の先にはカウンターがあり、そこに置かれている置時計が小刻みに針を動かす。

 壁に貼られている手書きの絵。余ったスペースが目立つ本棚。2つのヤカンと一緒に紙コップが置かれている給水所。

 目が慣れていき真っ暗な広間の光景を徐々に認識していく。


 「…なんか、見たことあるんだよな」


 目に映る光景にふと拙者の口から言葉が漏れる。

 視線が左手薬指に向く。そこには今もなおはっきりと赤い糸が結ばれていた。糸は少女のいる部屋のほうへ伸びている。

 拙者の頭の中をここに来るまでの出来事が巡り始める。

 身に覚えのない場所で寝てて、起きたらよく分からん赤い糸が結ばれてるし、好奇心任せに探ればあの子と出会った。最初は怖かったけど今はただ…あの子のことで心がいっぱいだ。

 それからも色んなことが起きた。そんなことを考えていると奥の部屋から出て来た影がこちらに迫ってくる。

 白衣を着た彼女だ。

 考え事をしていたからか?いつの間にか時間が経過していたようだ。


 「お待たせ。終わったよ」


 彼女は椅子に座る拙者を前に視線を落とし、そう伝える。


 

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