第14話 急患
―――――馬車が到着する少し前。とある屋敷にて。
プルルルル。
固定電話のコール音が屋敷内に響き渡る。
固定電話の元へ行こうと屋敷内をスタスタと足音が通る。
プルルルル。プルル、ガチャ!
男は、固定電話の元へとたどり着くと手に取った受話器を耳に当て応答する。
「はいもしもし。こちら
受話器から入ってくる声に耳を傾けていると徐々に男の顔が青ざめていった。
男は、受話器越しに数回ほど頷くと「わかった」と一言残し、電話を切った。
男は、受話器を元の場所に戻すと駆け足で屋敷の奥へ行き、部屋の扉を開ける。部屋にあったロッカーから白衣を取り出し、棚から幾つかの薬品をカバンに詰め込む。
奥の部屋からカバン片手に駆け足になりながら男は白衣に袖を通す。
簡単な身支度をした男が屋敷の扉に手を掛けたとき、何かに気づき振り返る。
「おっと、あいつに書置き残さないと」
男は扉の前にカバンを置き、白衣の胸ポケットから一本のペンを取り出す。目の前にあるカウンターに備えられていた紙の切れ端を1枚取り、その紙にペンを走らせる。
「おし!これでいっか。」
書置きを終え、男はペンを戻しカバンを担ぎ屋敷を後にする。
ガチャン!と、男は屋敷の扉の鍵を閉める。
―――――
パカラン。パカラン。
馬が地面を蹴り、道を進んで行く。やがて馬車を操縦する私の眼に小さな建物が映り始めた。
建物の傍まで馬車を進ませ、馬を止めるために掴んでいた手綱を引いた。
馬は、勢いよく動かしていた足を私の指示を聞いて止めてくれる。
「着いたわよ!」
私は馬車の操縦席から後ろに目を移し、後ろの荷台で少女を抱えながら座る彼に呼びかける。
私の声に反応し、彼は荷台を降り始めた。
「ちょっと待っててね。今先生呼んでくるから」
彼にそう言って、屋敷の扉に私は手を掛ける
「先生!大変なんです。ちょっと来てくだ…」
手に加えた力が弱かったのか?扉に何かが挟まているのか?開こうとする扉が、ガシャン!ガシャン!と音を鳴らす。
屋敷の扉が開かないことに困惑し、言いかけてたが止まった。
一旦と扉から手を離す。少しして再度扉を開けようと手を掛ける。しかし…
ガシャン!ガシャン!音を響かせるだけで、屋敷の扉は開かなかった。
「え~⁉ちょっと、なんでよ」
開かない扉の前で私が戸惑っていると、その隣で屋敷を見てた彼が言う。
「これさ、もしかしなくても誰もいなくね?」
「そんなハズないわ。私が帰ってくるまで先生、居るって言ってたもの」
彼の発言に速攻で否定しつつ、私は必死に扉を開けようとしている。
「そんなこと言われても、室内真っ暗だぜ」
「…へ⁉」
彼は扉に着けられているガラス越しに屋敷の中を見ていた。彼に言われ、私もガラス越しに屋敷の中を見始める。しかし私は背が低いので、精一杯の背伸びをして屋敷の中を覗き込んだ。
さっと、ある程度確認して私は背伸びをやめた。決して背伸びしているのが、疲れたからではない。それより、
「えー、マジでどうしよう!」
目の前の現実に頭を抱える。本来いるはずの先生の存在が居ない事もそうだけど、今は何より彼が抱える傷だらけの少女を治すため焦っている。
「少しこの子を頼む」
隣で私の様子を見ていたのだろう。彼は一言口にし、少女を預けてくる。
訳も分からないまま、私は彼から少女を抱きかかえる。
「少し離れてろ」
彼の言葉に私は、その場から少し後ろに下がる。
私が離れたのを確認してか?彼は、扉から距離を取り両手で腰に差してる刀の鞘と柄を掴み構えた。
「ちょっと!まっ…」
彼の行動に私はまさかと思い、咄嗟に声が出る。が時すでに遅く。
「断層『変』」
彼の手によって抜刀された刀が扉を切る。しかし切れらたはずの扉には、傷一つ付いていなかった。
(まったく、なにがしたかったのよ)
彼の行動にそう思っていると、彼は自身が切った扉へ近づき手を掛ける。
ガラガラガラ。
「開いたぞ」
扉が開いた。
刀を鞘に戻す彼と目の前で起きたことに私の目が点になる。
「あんた今!え、なにしたの」
「…知らん」
「知らんって、えー?まぁいいや。まっすぐ行った先に治療室があるからそこまでこの子お願い!あたしは先に行って準備してるから」
何が起こったか?分からないけど屋敷の扉は開いた。
私は抱えていた少女を男に預け、奥の部屋へと走った。
後ろで開いた扉が閉まる音と彼の歩いてくる音が、部屋に急ぐ私の耳に聞こえている。
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