第12話 戻った1枚。そして偶然が、

 森の中を駆けだしてからどれくらい経過しただろうか?

 段々と森に生息する小動物や小鳥たちを目にするようになってきた。


 (同重の効果が切れたか)


 そんなことを考えながら少しずつ速度を上げ、先を急ぐ。やがて光の射す場所が見えて来た。

 その場所が眼に見えた時、光までの距離を拙者は一気に駆け抜けた。


 (よっしゃ!森を抜けた…)


 森を抜けた安堵の息も束の間、森の傍を通ていた馬車の騎手と目が合う。


 「え、⁉」


 このままだと馬車と衝突する。それはマズい。と一瞬のうちに辺りを見渡した。そして拙者の片足が、まだ森の中であることに気づく。

 その片足で一本の木を蹴り、馬車とぶつかるギリギリを避け、離れた位置に着地することが出来た。


 (あっぶなかった~)


 「ちょっとあなた!いきなり危ないじゃない!」


 ホッと一息するも後ろからくる女の声が耳に響いてきた。

 振り返ると馬車を止められており、さきほど一瞬目が合った騎手がこちらに近づいてくる。


 「何考えてんの!急に飛び出してき…」


 女は、こちらに詰め寄るも拙者が抱えている少女を目にするなり、


 「ちょっとこの子血まみれじゃない。しかもこのやけどの数…。何があったの。まさかあなたが⁉」


 もの凄い勢いで少女の安否を確認してきた。


 「違う。説明してる時間が惜しい。わりぃけどこの辺に町か医者がいる場所知らないか!この子を治してほしいだ」


 「…分かったわ。馬車に乗って!」


 「助かる」


 女は一瞬、拙者に疑いの目を向けるも分かったてくれたのか?馬車に乗せてもらえることに。

 女は駆け足で馬車へと戻る。拙者も女の後を追う。

 女の指示に従いながら馬車へ乗り込む。


 「はいこれ」


 女の声に反応して、とっさに何かをキャッチした。

 手に持ったのは、水の入ったペットボトルだ。


 「時々、その子に飲ませてあげて。あなた何も持ってないみたいだから」


 「わかった。ありがとう」


 女は皮肉を言ったのだろうが、事実だし今はそんなことどうでもよかった。拙者は、無いモノをくれたことにただ感謝した。


 「それじゃ行くよ。揺れるからしっかりその子抱いといてね」


 「ああ」


 馬に繋がれた手綱が弾かれ、馬の高らかな声とともに馬車が動き出す。

 どれくらいの時間が掛るか分からないけど絶対に直してやる。胸の内は、その思いでいっぱいだ。


 「大丈夫だからな」


 聞こえていないだろう声を少女に送る。

 


 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る