第10話 無着色の刀身

 離れた位置で少女へ向け放たれた弾丸は、小さな煙を上げ、木に埋め込まれた。本来通るはずの軌道からは、想像のつかない位置に着弾した。

 灰色の空に覆われた森は今、静寂に包まれている。弾丸が着弾する直前に鳴り響いた金属音によって。

 隊長と呼ばれる男を含めた彼らは、その信じ難いあり得ない光景を目に停止していた。その一瞬の出来事に。

 腰に差さっている空になった鞘。男の射す視線。両手で構えられたガラスのように透明な一本の刀。

 隊長と少女の間に、少女に背を向ける形で、拙者は立っていた。


 「さっきから黙って見てりゃ、1人の少女相手にこの数。どういうつもりだ」


 拙者の突然の介入に目の前に男は動揺を見せるも構え直したライフルの引き金を引きつつこちらに接近してくる。

 放たれる弾丸を後ろにいる少女に当たらぬよう拙者は、構えた刀を最低限に動かし防ぐ。やがて男のライフルと拙者の刀が鍔迫り合う。


 「…貴様何者だ」


 互いに押し合う中、男が拙者に問いかける。


 「ヒトの名前を聞くときは、まずてめぇから名乗れよ」


 「失礼した。私は、リーン・クローク。この部隊の隊長を務める者だ」


 「ご丁寧にどうも!」


 刀に力を込め、後方へ勢いよくリーンを押し返す。

 押し返されながらもリーンは、体勢を崩さぬよう地面に力を入れていた。

 リーンへ向けている刀を構え直し、拙者は頭の中で浮かんできた名を口にした。


 「拙者の名は、道外みちそと目録もくろく。この子の…」


 構えていた刀を逆手に持ち直し、身体の重心を少女のほうへ向け、刀を少女の足元に突き刺した。

 ガキン!と刀によって出された金属音が、再び森の中を震わせる。

 電源の落ちたような機械音が後を追うように鳴り、少女を苦しめていた電流が収まる。

 電流から解放される少女。地面に突き刺した刀から手を離し、拙者は両手で少女を抱きとめる。

 少女の体温が命の弾みが、拙者の腕を通し、胸を通し響いてくる。

 拙者の眼が、後ろにいるリーンをゆっくりと捉える。


 「…だ」


 拙者の口から出た言葉は、赤色の靄を纏っていた。

 リーンがライフルを構え、引き金に指を掛けている。


 「そうか。初めまして、そしてさよならだ」


 リーンのライフル。そしていつの間にか周りを囲っていた男たちライフルから弾丸が、リーンの言葉を皮切りに一斉に放たれた。

 幾つもの位置から弾丸は、一直線にこちらへ伸びている。

 避けることが不可能に近いこの状況で、頭の中から浮かぶ言葉が拙者の口から零れ出る。


 「来い。大蛇おろち


 弾丸は、また拙者たちへは届かず。突如として現れた鋼の塊によって、その全てが遮られた。

 男たちの前に森から空へはみ出すくらいに大きいが姿を現す。



 


 




 

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