第8話 嘘
「すいませーん」
枯葉を勢いよく踏み進めこちらへ近づいてくる。
拙者は、声の主が誰なのか確かめようと振り返った。
目の前に立っていたのは、2名の男性だった。色違いのジャケットを身に着け、お互いに大きなリュックを背負っている。
男たちは、1度少女に視線を送った後、目の前にいた拙者にその視線を移した。
「突然すみません。僕たちその子の保護者代わりのみたいな者でして、この森に散歩に来たところ急な霧で視界が悪くはぐれてしまい。」
「捜索していたところ貴方と歩いているところを目撃しまして跡を追ったしだいです。本当に見つかって良かった」
もう1人の男が続きを話す。
彼らの話しを聞いている最中、少女は拙者の後ろに隠れ裾を掴んでいた。
保護者代わり。散歩。霧。
拙者の眼に映ったそれらの言葉は、紫色の
紫。嘘の色だ。どうしてか分からないが、紫色の靄が見えた時それを知っている。既に理解している。かのように頭の中で、それが嘘であることが判別できた。
この男の存在だけならば拙者は、この少女を引き渡さず全力で守っただろう。がしかしもう1人の男が話したことには、紫色の靄が掛かっていなかった。
捜索をしてた。
この言葉に拙者の判断は迷った。この子はどこぞの王族で攫われてしまうところだったのでは。誰かに追われてたのか?それとも秘匿されている存在なのか。様々な仮説が拙者の頭の中を駆け巡っていた。
たった1秒にも満たない思考の末に拙者が出した答えは、
「そうでしたか。」
拙者の視線が目の前に彼らから後ろの少女に向く。
少女の頭を優しく撫でる。
「…元気でな」
拙者の手に促されながら少女が、ゆっくりと前に出る。立ち止まりどうしていいか分からない様子の少女。
「君の家族だって、行ってきな」
目線を少女に合わせ、彼らのいるほうを指差し、少女の身体を進む先に向かせる。やがて少女は、拙者の言っていることを理解したのか?ゆっくりと3,4歩の距離を進む。
拙者から少女が離れていく。気づいたとき心の中に少し寂しい気持ちがあった。
段々と離れていく少女の背中。好奇心と恐怖から始まった出会いが終わろうとしている。
ゆっくりと足を進める少女。
少女と男たちの距離が拳一個分くらいになった時だ。そこからの出来事は、一瞬だった。
答えを間違えたこと。気づいた時には、遅かった。
拙者と出会った時同様匂いを嗅いだのだろう?男たちの前で、少女の口から出た言葉が強く耳に流れて来た。
「この匂い…違う。嫌い。大嫌い!」
少女の手が伸び、1人の男の腹を突き刺した。刺された男は、嘘を言った男だった。男の腹から、口から、目から赤黒い血が流れでる。
もう1人の男は、少女の手が伸びる瞬間、素早く後退していた。
「隊長。プランBで」
男は耳に手を当てると、息つく間もなく拙者と少女は、森から出て来た謎の集団に包囲された。
やばい。まずい。
その光景を目の前に拙者の頭の中は、ただ焦りの感情でいっぱいだった。
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