時の部屋

 真っ白な部屋の中央に大きく目立つ円卓。

 大きい割に椅子の数はたった3席だけ。その円卓に真っ白の服を上下に合わせる青緑色の髪をした男が1人。大判サイズの本を手元で広げている。円卓にはさらに2、3冊の本が積まれていた。

 ペラ、ペラ、ペラララ、

 男は本のラストを読み終えたのか?最後のページから頭のページに巻き戻るように本を鳴らす。

 パタン!

 ブオン!

 男が手元にある本を閉じたと同時に部屋の一角に置かれている転送装置から2人の男が現れる。


 「…また向こう側に行ってたのか?」


 男は、転送装置から部屋へ戻ってきた男たちに飽きたように言う


 「い、いや〜ね。急にハンバーガー食べたくなっちゃって」


 部屋に戻ってきた男のうちの1人。既に椅子に座っている彼と同じように真っ白な服で上下を合わせいる黄色の髪をした男が、バレたと言わんばかりの表情を見せながら円卓の席に腰を下ろす。


 「悪い私も止めたんだが聞かなくてな。1人で行かせると何しでかすか分からなかったから」


 最初に返事をした黄色髪の男の後ろで、彼と一緒に戻ってきたもう1人。同じように真っ白な服を身に着けた赤紫色の髪をした男が、苦労したような表情を浮かべつつ自分の席に座る。


 「…まぁいい」


 男2人の理由を聞き納得したのか?椅子に座っていた男は彼らの行動を許した。

 黄色髪の男が手に持っていた袋を円卓に置き中のモノを広げ始めた。


 「はいこれ、パラの分な!」


 黄色髪の男は、袋から取り出したモノの一部を円卓の上で、青緑色の髪の男のほうへ滑らせる。

 パラと呼ばれる彼のほうに来たモノは、ストローの刺さったカップが1つと温かいパイの入った紙の容器だ。


 「っ、ありがとう」


 送られてきたモノに対して一瞬目を輝かせるもパラは、表情を戻し冷静にお礼を口にした。


 「おう!ドックスも」


 黄色髪の男は、袋から取り出したモノをさっきと同じように円卓の上を滑らせ今度は、赤紫色の髪をした男のほうへ。


 「ありがとうございます。レル」


 ドックスと呼ばれた男は、彼がレルと呼ぶ男へ丁寧にお礼を言う。

 レルは、円卓の上に残ったモノに手をつける。小さな容器からフライドポテトを一本摘み、それを口に運ぶ。


 「うまっ!やっぱポテトは最強だわ」


 うんうんと頷きながらポテトの味を堪能するレル。ふとレルの視線が、パラの手にする絵本に向く。


 「パラ。またその本読んでたのか?好きだよなそれ」


 「ああ、また読みたくなってな」


 パラは手元にある絵本の表紙を撫でる。


 【続・島の探検隊】


 絵本の表紙には、そのタイトルが記してある。


 「同じ閲覧してて飽きねぇのか?」


 1つ。また1つとポテトの容器に手を伸ばすレルが聞く。


 「…飽きるよ」


 レルの質問にパラは声を落とす。

 パラの回答に勢いよく同意するレル。


 「だろ!」


 その同意するレルに対してパラは続ける。


 「だけど何でか?気づくとページをめくってるんだ」


 「そういうもんか?」


 パラの答えにレルは腕を組み首を傾げる。

 視線を手元の絵本に落としていたパラが何かに気づいたのか?顔を上げる。


 「…お前ら、向こうの人間に不用意に干渉してないよな?」


 カップに手を伸ばしストロー越しに飲み物を口にするパラが、ドックスとレルに聞く。


 「……」


 「…え~とですね」


 パラの問に言葉を失うレル。

 なんて切り出せばいいか分からず、ドックスは自身のこめかみを掻きだす。


 「…まさか」


 2人の反応にパラは、嫌な予感を頭に浮かべる。


 「わりぃ、ちょっと干渉しちゃった。…てへっ」


 てへぺろ。と少し舌を出し、レルがパラに謝る。

 彼の反応にパラは、額に手をあてる。


 「すまん。私も注意してたんだが、少し目を離してしまい…」


 天井に視線を送るパラにドックスが頭を下げる。


 「いや、お前が悪い訳じゃねぇから」


 謝るドックスにパラは、視線を上に送りつつも手で大丈夫だ。とサインを投げる。


 「で、でもよ。干渉したって言っても1人だけだぜ。それもほんの少し」

 「ロボットもののガチャガチャを回してた子がいたからすこ~しな」


 手で少しのサイズを表現しながらレルが弁解する。


 「少しでもダメなんだよ。俺たちは」


 弁解するレルにパラは続ける。


 「お前も分かってるだろ。俺たち3は、やろうと思えば何でもできる。それこそ過去を変えることも未来を変えることも」

 「現の世界の秩序さえ変えかねないだ。ただでさえお前は、既に前例を作ってしまっている。それは忘れて無いな」


 「…ああ、」


 パラの重い言葉にレルはただ…頷くしかなかった。

 さきほどまで元気な表所を見せていたレルも下を俯き始める。


 「お前の好奇心も理解しているつもりだ。下手に歴史に影響を与えなければいいさ」


 俯くレルに少し言い過ぎたと感じたのか?パラは制限付きで許可を出す。


 「ああ、ありがとう」


 そう口にしたレルは、それでも俯いていた。

 俯きつつも彼の手は大好きなフライドポテトの入った容器へ伸びる。

 それからは少しの間3人はお互いに言葉を交わすことはしなかった。ただただ沈黙が、その場を覆ていた。

 

 



 

 


  

 

 

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見えないモノは、見えないままでいい 春羽 羊馬 @Haruakuma

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