第5話 直感

 ……。

 (あれ?おそわれてない)

 拙者は、閉じたまぶたを恐る恐る開いた。

 ……?

 スン。スン。

 少女は、拙者の身体に顔を近づけて拙者のにおいをいでいた。

 (…なんで?)

 「似てる。お兄さんあたしと同じような匂いがする」

 匂いを嗅ぎながら少女は、おかしなことを言う。同じ匂い?訳が分からん。ともかく襲われてないなら今の内にこの子から離れよう。

 「そ、そっかー。それじゃ、拙者はこれで」

 少女の言葉に適当な返事を返し、少女に背を向け足を動かし走り出した。

 ダハッ⁉

 そして一歩目でこけた。

 いってー!

 躓いたとかでは無かった。一応足元や頭上に注意を割きつつ動いたのだから。理由は、こけた時点で分かっていた。動き出す直前、全身が何かに引っ張られるような感覚に襲われた。地面にぶつけ泥の付いた顔を上げ、少女のほうを振り返った。

 少女の手に布がにぎられていた。

 「あ、ごめんねお兄さん。でもそっちはダメ。こっち」

 少女は、拙者の身に着けている上着のすそを引っ張りながら言う。少女の言葉を聞き、地面から立ち上がる。服に着いた泥や枯葉を払っていると少女は上着の裾から手を離し、払っていた拙者の手をつかんできた。

 少女は手を掴むと急かすように手を引っ張てくる。この子から逃げることは出来ないと感じた拙者は、口から小さなため息を零しつつ流れるように少女の言う「こっち」の方向へと歩きだした。

 

 

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