第3話 見られた影

 ドクン!ドクン!ドクン!

 拙者の心臓部から通常より3倍のスピードで流れてくる震えが、全身に伝わっていく。

 枝を折った音に気を取られ気づくのが遅れたが、背後からものすごい気配を背中から感じた。

 重苦しい空気が、敏感びんかんな身体を部位ごとに刺激しげきしてこおらせようとしてくる。

 心の中のうつわは、恐怖の水であふれそうなほどで、気配を感じてからその場を一歩も動けない状態におちいっていた。でも器から恐怖は、溢れてない。

 拙者はほんの少しの勇気を絞り出し、恐る恐る身体を背後からくる気配へ向けるよう振り返った。

 そして拙者の目に映ったのは、

 先ほどまで背中姿しか見えていなかった赤黒い血に濡れていた少女。その少女がこちらを向いていた。

 (……あ~だよね~。バレてるよね!)

 (そりゃそうだよね。こんだけ静かな場所であんなに目立つ音立ててりゃな~)

 拙者と少女の間で一定の距離が空いているもののお互いの眼は、お互いの姿をしっかりととらえていた。

 風のもなくただただ沈黙ちんもくが、その場をおおっていた。が、その沈黙を壊すように音が発生した。

 ガサッ‼

 地面と乾燥かんそうした落ち葉がり破れる音が、濃い色をした小さな足の一歩によって鳴り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る