2章 スプリング王国の王子
2章第1話 成人したストーム王子
ストーム王子は成人したとはいえ未だにスプリング王国の国王にはなれない。
それはウィングの弟の息子が王の座を狙っていたからだ。
ストーム王子にとっては従弟であると同時に因縁の敵。だからこそどこかで決着をつけなければいけない。
そのためにストーム王子は政治と経済で力をつけていた。
そのストームは側近のタイフーンと共に町を行動し、新たなる温泉を見つけていた。それは魔物が多い危険な山奥にあった。
「タイフーン、見てみろ。透明な温泉だ。こんな温泉は見たことない」
「山奥の温泉は、普通の水と比較しても分からないくらい透明だと聞きます」
「しかし、その効能は万能であろう」
「はい、疲労回復、腰の痛み、魔力回復に切り傷などには有力と言われています」
「入ってみるか?」
「ご冗談を! このあたりは魔物が多いのです。入浴などすれば真っ先に魔物の餌食です」
「こういう時に魔物避けランプだろうが」
ストーム王子が取り出した魔物避けランプだが、これはGランク以下の魔物に有効なものでストーム王子達のいる場所はFランクの魔物が生息する場所。
そのため効果はない。
だからタイフーンはそのことをストーム王子に説明する。
「そんなもの、このあたり一帯の魔物には無意味です。このあたり一帯の魔物はFランクの魔物なのですぞ」
「あ~、少しでも効果があれば奴らも弱くなると思ったのによ」
「そんなわけありませぬ。それに魔物が弱くとも温泉に入っていれば我らは丸腰です。魔物の標的となるのですぞ」
「それもそうか。ならこの温泉を持っていくか?」
「温泉を持っていくですと? そんなこと可能なのですか?」
「無理だな」
「では、諦めるしかありませんな」
「くそ!」
しかし、ストーム王子にはそれしか選択肢はなかった。魔物がいる危険な状態で温泉などに入っていられない。
引き返す際もFランクの魔物と戦闘して帰らなければいけないのもあり疲れる。
せっかく見つけた温泉でも1日ゆっくりできなければ意味はなく、ストーム王子はスプリング城へ戻った。
そこでストーム王子は叔父のファルコンと相談する。
ファルコンはストーム王子の母であるバードの弟。バードはストーム王子の父であるウィングが亡くなってから徐々に体を弱らせていき病気となってしまった。
そんな母に変わってストームを補佐しているのがファルコン。
ストーム王子はファルコンに森の中の温泉のことについて相談する。
「ファルコン叔父上。例の森にはFランクの魔物が多くとてもあの温泉でゆったりできるとは思えないな」
「そうでございますか。それではいくら奇跡の発見とはいえど温泉で温まるということは出来ませんな」
「困ったものだ。どうすればいいか?」
「お湯を大量の壺に入れて運んではどうでしょう?」
「水の重さを甘く見るな。10リットルの水でも10キロあるんだぞ。あの温泉は少なくとも1000キロリットルの量だ。持っていくにしても大量の壺が必要であるしどれほどの人数を必要とするか。ましてや坂道がきつくFランクの魔物もいるんだぞ」
「まさに鬼畜というか不可能と言うほかありませんな」
「簡単に諦めるな」
諦めないストーム王子だがファルコンの言う事は正しい。
小さな風呂でも250リットルから500リットルは必要となるのに、それを大きな壺で分けて持っていけば体力的にも精神的にもきつい。
ましてや坂道を通ったりFランクの魔物に襲われる可能性の中で持っていくなど無理ゲー。転生前の私がそんな作業をする企業に入社すればすぐに超ブラックだと思う。
そんな状況の中で楽に安全に温泉の湯を持っていくにはどうしたらいいかをストーム王子は考える。
しかし結論は出なかった。ストーム王子にとって温泉を探し出して経済の発展に利用することも大事だがそれ以外にも彼にはやらなければいけないことがある。
それは、ウィングの弟の息子のことだ。
ストーム王子とは因縁の敵だからこそ、温泉の問題以上に頭を悩ませる存在。しかもウィングの弟の息子、ガーゴイル・スプリングは既に高級な黄金の温泉を発見し、ストーム王子以上の経済力を持っていたのだ。
ガーゴイルは自分の側近と共に黄金の温泉に入りながらもスプリング王国の王位について話している。
「この黄金の湯に多くの民がやってくるな」
「この温泉こそ、ガーゴイル王子のお力を象徴するものでございます。遺産もスプリング総本家以上となった今、ストーム王子を討伐し総本家の主となるのです」
「王位につくのは楽じゃない。ストーム王子は我よりも数多くの温泉を独占し、民はもちろんのこと、獣の耳や尻尾が生えた亜人にも平等に温泉に入らせているとか」
「それはいけませんな」
「そうだな、ストーム王子も落ちたものだ。亜人の9割は闇組織の者ばかりで残りの1割はホームレスにチンピラ。ただの泥棒ではないか。そんな奴らに風呂に入らせるとかどうかしている」
「はい。闇組織を救うことは、闇組織の行いを許すも当然です。これまでやつらは強盗に暗殺、違法薬物の密売に悪人の護衛といった悪事を働いておりますからな」
ガーゴイルは亜人を受け入れるストーム王子のやり方を批難していた。
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