序章第3話 お姫様キモオタ野郎、刺される。

 さゆりちゃんを俺の家に招待したがさゆりちゃん本人の反応は悪いものだった。


「マジキモい。こんなのを趣味にしていたなんて」


「あ~、そんな~」


「まあいいわ。私が着てやらない事もないけどね」


 ドン引きしたり嫌がっている感じのさゆりちゃんだったが、お姫様の格好になってみるや結構喜んでいる。


 青くてキラキラしたドレス、紫色のきらびやかなドレス、踊り子のセクシーなドレスなど様々。


 小柄でもお姫様らしさがあるのが良い。


 そんな着せ替え人形のようなさゆりちゃんをいくら見ても飽きない。


 そんな時に、俺のMMORPGゲームのもう1人のゲーム仲間であるフルーチェさんから誘いのメッセージが来た。


「レーモンさん、今日って有給休暇の日だよね。実は俺もなんだ。もしよければお姫様がメインのテーマパーク行かない?」


 このフルーチェさんの誘いに俺は乗る。さゆりちゃんをお姫様として輝かせるいい好機だ。


「いいとも。それで待ち合わせ場所はどうしようか?」


「そうだなあ?」


 フルーチェさんから待ち合わせ場所を指示され、俺はその場所を記憶する。そしてさゆりちゃんをテーマパークへ連れて行こうとする。そんなさゆりちゃんはお姫様の格好にすっかり夢中だった。


「どう? これも私に似合っているでしょ?」


「いいね。この感じでお姫様のいるテーマパークでも行こう」


 そんな俺の提案にさゆりちゃんの反応は当然、嫌がる。


「なにそれ? そういって私を誘拐するつもり?」


「いや、そんなことは?」


「あんた人生終わるわよ」


「人生か。でも俺はお姫様のために人生を捧げている。それで人生終わっても本望だ」


「じゃあ、通報しても?」


「おおい、待て待て! 違うんだって」


「アハハハハ、おかしいの。そんなあんたが私を誘拐とか酷い目にあわすとか出来ないもんね」

 俺がお姫様のテーマパークに連れて行くことについては気持ち悪がっても行くこと自体は賛成のさゆりちゃんは、そこで着替えるための俺があげたお姫様ドレスを持って俺と一緒にテーマパークへ行く。


 フルーチェさんと連絡を取り合いつつ待ち合わせの場所につくとフルーチェさんと思われるおっさんが声をかけてきた。


「もしかして、レーモンさん? 俺だよ。フルーチェ」


「フルーチェさんか。初めまして」


「こんなに若いとは思わなかった。ところで、その子は?」


「ああ、紹介するよ。ゲームでは夫のアッポーさん」


 これにさゆりちゃんは反応する。



「現実でそういう呼び方はよして、さゆり。私の名前はさゆり」


「さゆりさんね。あのアッポーさんがまさかこんなかわいい女の子だなんてな」


 これにさゆりちゃんはキレる。


「はあ? なんだおめえ? その言い方キモイんだけど」


 俺以上に怖い表情と口調で言ってくるものだからよほどフルーチェさんがキモかったのだろう。


 だからと言ってそれを俺は否定しない。


「ごめんフルーチェさん。こんな子で。俺も今日出会ったばかりで」


「そうなんだな。レーモンさんもお姫様を趣味とすればこんな子とも知り合えるんだな。うらやまし」


 からかってくるフルーチェさん。そういえば本名を聞いていなかった。


「からかうなって。それでフルーチェさんの名前は?」


「ああ、高川(たかがわ)だけど」


「高川さんね。俺は蜂見っていう」


「蜂見君ね。これからよろしく」


 男同士の友情に付き合っていられないさゆりちゃんは2人に声をかけてお姫様のドレスに着替えてくる。


「私ドレスに着替えてくるわ」


 俺と高川さんは「いってらっしゃい」どだけ答える。


 しばらくして着替えて戻ってきたさゆりちゃんを見て俺と高川さんは興奮する。


「いいねいいね。高川さん」


「ああ、蜂見君。君がお姫様好きなのも分かるわあ」


「ああうざい。いいから楽しむわよ!」


 さゆりちゃんの本心はきっとお姫様になった気分を味わえるというものだろう。


 そしてこれから楽しむぞという時に事件が起こった。


 それは近くでお姫様の格好をした少女が不審者に襲われているということだ。


 これを見たさゆりちゃんと高川さんは怯える。


 俺も怯えるところだが、お姫様のピンチを放ってはおけない。


 当たって砕けるつもりで不審者に立ち向かう。


「やめろ、嫌がっているだろ!」


「何だお前は⁉ お前には関係ねえ」


「どんなつもりでお姫様襲ってんだ」


「幼女の写真を撮って何が悪い。これから人質をとって誘拐してやる」


「警備員に狙われているか。なら罪を重ねるな」


「うるせえ!」


 不審者はナイフを取り出して俺の腹を刺す。激しい痛みに襲われて倒れこんだ俺を見た不審者は刺したことの罪悪感なのかその場から逃げ出すそうとする。


 しかし追ってきた警備員に取り押さえられた。


「畜生! 何故なんだ! 俺は悪くない! 俺の邪魔をするやつが悪いんだ!」


 適当なことを言いふらす不審者を無視してさゆりちゃんと高川さんが俺を心配する。


「ちょっと! あんた何やってるのよ。いくらなんてもあんな無茶するなんて」


「はあ……いいんだって……お姫様助けられたし」


 高川さんは必死になって救急車を呼ぼうとする。


「今救急車を呼ぶ。だから耐えろ!」


「高川さん……そんなのいい……もう助からない」


 これにさゆりちゃんは大声で俺を説教する。


「バカ! 私のためにこんなところ連れてきて勝手に死ぬんじゃないわよ! 私はこんなのいいから!」


「さゆりちゃん……君の夢はお姫様になること?」


「こんな時に何よ! そんなの……私は……」


「もしそうなら……きっとなれるよ……いい……お姫様……に……」


 さすがに腹の痛みが激しくなり意識がなくなっていく。


 高川さんとさゆりちゃんの大声が聞こえるがそれも次第に聞こえなくなっていく。


 俺は暗い闇の中へと引きずり込まれていった。

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