序章第2話 お姫様グッツの買い物

 有給休暇を取った今日。楽しみにしていたお姫様グッツを買おうと街へ向かう。


 朝は働く社員が多い。平日ということもあって人通りは多い。それにお店の開店も午前9時からで、早く来すぎても良くない。行列にならぶだけ。


 そこで時間潰しにファーストフード店で朝食を済ませてから向かうことにした。


 そこで時間を潰している間にもお姫様グッツの情報をスマホで調べる。


 こういったことは調べることに尽きる。何しろ最新情報は見ておきたい。


 俺はお姫様情報を見て考え事をする。


『おお~、いいぞこれは。期間限定の黄色いドレスか。こいつは俺が持っている巨大マネキン人形に着せられる』


 着せ替え人形を楽しんでいるつもり。本来ならお姫様の格好をしてほしい人を求めているが、童貞な俺にはそんなの夢物語というもの。叶えられるものではない。


 だから1人でマネキンに着せるお姫様ドレスを探す。


 こういう店には普通女性の人が入る。だから男性が入れば怪しまれる。


 しかしそういった店の常連にもなれば怪しまれたり気持ち悪いと思われるのもなれる。


 そんな感じだったが1人の身長145センチの女の子がドレスを眺めているのを見て俺はつい声をかける。


「これがいいのかな?」


「はい? おじさんは?」


「おじさん? 違う。俺はお兄さんなんだ。ここのドレスを買いに」


「お兄さん? あの……ここのドレスを買うの? お姉さんに着てもらうの?」


「まあ、そんなところ。でも着てくれるかどうか分からなくて。君は?」


「私、さゆりっていうの。このドレス買いたいんだけど……」


「お金がないんだ」


「うん」


 悲しそうな感じ。だが、この子がもしこのドレスを着ればきっと似合う。それにお金がなくてドレスを着れないなどもったいない。


「分かった。そのドレスお兄さんが買ってあげる」


「えっ? いいの?」


「もちろんだって。女の子はいつだってお姫様なんだから」


 喜んでいるのかさゆりちゃんは泣いていた。


「ああ~どうしたの」


「ごめんなさい……嬉しくて……」


 周りの人には女の子泣かせたと勘違いされている。もちろんそれを見ていた店員さんにも誤解される。


「あの、これはどういう?」


「ああ、ええと~」


「誘拐か何かですか?」


「いえ、この子にドレスを買ってあげようと」


「親子か兄妹?」


「違いますが、似たような関係です」


「親戚かな。でもあまり騒がないように。他のお客様だっているんだから」


「すいません」


 こういう空気がすごく辛い。だから俺はドレスを買ってさゆりちゃんと一緒にお店を出る。


 さゆりちゃんはドレスを買ってもらったお礼で家に連れて行ってあげると言ってきた。


「どうせならうちにおいでよ」


「家に行っていいの?」


「うん。どうせ両親共働きでうちにいないし」


「分かった。お兄さんも仕事ないし……」


 俺はさゆりちゃんに案内されてさゆりちゃんの家に入った。


「リビングで待っていて。お兄さんの買ってきてくれたやつに着替えてくるから」


 さゆりちゃんは2階の部屋に戻る。そして10分後、リビングにやってくる。


「どうかな?」


 あまりのかわいさで言葉も出ない。本物のお姫様が目の前にいるようだった。


「あ~、似合っているよ。本物のお姫様みたいだ」


「嬉しいな。そうだ、お兄さんってこういうお姫様のドレスってたくさんあるの?」


「ああ、一応は?」


「じゃあ、私をその家に連れて行ってよ」


「ええっ? でも幼い子を家には?」


「大丈夫、私こう見えて高校生だし」


「そうなんだ。でも学校は?」


「それがね、昨日のゲーム仲間の人とお姫様の会話していて、それで何かお姫様の格好したくなっっちゃって」


「あれ? それって?」


 俺はもしかしてと思い昨日やっていたゲームの話題をさゆりちゃんに振ってみる。


「もしかして、そのゲーム仲間の人って、レーモン?」


「何で知ってるの?」


「それで、まさかさゆりちゃんがやってるゲームのキャラって男アバターのアッポーさん?」


「それも知っているのって……そんなの知っているのレーモンさんしかいないし……まさか……」


「ああ、やっぱりそうなんだ」


「ああ! 思い出した! レーモンさんお姫様のグッツ買いに行くって! あんたがレーモンさんか」


「ああ、そう。はじめましてだね」


「エロ親父だって思っていたけど、思いの他若いのね」


 いきなりツンデレになったさゆりちゃん。彼女は俺が50代くらいのエロ親父かなにかだと思っていたのだろう。


 一方で俺もアッポーさんがまさかこんな女の子だなんて思っていなかった。


 おまけに高校生で小柄。お姫様にもってこいだった。


「ところで、俺の家には?」


「何よ……行ってあげない事もないわ。でも少しでも変なことしたら通報するから」


 態度を変えてきたさゆりちゃんに対して俺は呆れる。


「何だよその言い方。ドレスおごってあげたのに。それに高校は本当に行かなくていいの?」


「もしかして学校ちゃんと行ってると思っていたの? そんなの嘘! いつも引きこもっているか親の金使いたい放題よ」


 小柄でかわいい女の子のふりしてさゆりちゃん改めアッポーさんはそれなりに悪だった。

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