1章 農民の6女による美容

1章第1話 農民の6女に転生

 不審者に刺されて命を落としたこの俺、蜂見檸檬。あれからどれくらい眠っていたか分からないが、目が覚めたら赤ん坊のようだった。


 1人の美人というか貧しい感じの農民女性に抱かれている。この人は今の俺にとっての母親というわけか。


 そう、最近でもおなじみの異世界転生というやつだろうか。それとも転生したといっても別の国の人間に転生っていうやつもある。


 それはこれから赤ん坊として学べばいいだけの話。


 赤ん坊は上手く行動できないから不便。筋力はないしミルクしか飲めない。あと今の俺は女の子だった。


 まさか女の子に転生するとは思わなかったけれど、しかしこれはチャンスでもあった。


 転生前はお姫様好きだった俺にとってもし女の子に転生したら、お姫様を将来の夢にしようと考えていた。


 おかしな夢のように考えられるが案外変な夢ではない。特に異世界ともなればその夢を叶えられる可能性は大きいはずだ。


 ここからは自分の事を「俺」ではなく「私」と言っておく。この世界で女の子になってしかもお姫様を夢とするなら女の子らしく振舞っておかなければいけない。


 私はお姫様を目指すためにこの世界で努力しようとするが、赤ん坊では何も出来ない。しかし会話を聞いたりは出来る。偶然にも私にとっての母と父の会話を聞いて有力な情報を得る。


「あなた、今日の収穫はどう?」


「ああ、ダメだな。野菜は腐るし果物も虫に食われてる」


「困ったわねえ。一番売れている檸檬はどう?」


「檸檬も最近になって腐ってきた。これも土や水不足。虫に魔物の害の影響だろうか?」


「隣町もゴブリンやスライムの群れが畑を荒らしていると聞くわ」


「だから全く売れないわけではないが」


 私が転生した農民の家は裕福な暮らしとは言えないようだ。野菜や果物は育たないし、隣街では魔物が畑を荒らしているようだった。そのためここでも魔物が畑を荒らして生活に支障が出てもおかしくない状況だった。


「私達の娘達が、貴族が偉い人や貴族に嫁いでいるから援助はあるけれど、それもいつまで続くか。心配だわ」


「あっちも魔王のことで慌ただしくなっているみたいだな」


「ところでパイナはどうしている?」


「あの子がねえ。長女でもう20歳を超えたのにこんな時に仕事をさぼって」


「他の4人の娘は人質という名の嫁入りをしたのにあいつと来たら。この畑を守る気があるのか?」


 私には5人の姉がいるようだ。長女の名前はパイナというそうだが、この農民の家族の後継者なのに仕事をせず遊んでばっからしい。残りの4人は他家に嫁に出ていた。


 そのおかげで生活は一時的に安定しているようだが、それも魔王の出現で怪しい感じみたい。


 ちなみに話を聞くところ、いつかは私も嫁に出されると思ったがそうでもなかった。


「ところで、このレーモンもどこかの嫁に出すの?」


「さあな。あのパイナのことだ。俺たちが亡くなった時にこの家が心配だ。パイナじゃなくきっとこのレーモンに家を継がせようと思う」


「そんなこと。この子に辛い思いをさせるのね」


「仕方ない。俺たちが頑張ってこの子を立派に育てないとだ」


 そう言って私の父は私の頭を撫でる。母も私のほっぺを撫でる。母と父は私に期待しているようだ。


 私の名前がレーモンだと分かり、転生前の名前と被ったがこれは運命なのだろうか。


 そしてお姫様の夢が叶うかも心配だ。何しろ長女のパイナが仕事をせず遊んでばっかで残り姉達は他家に嫁いでいる。それで金銭面は問題ないというもの。もしもの時は私にこの家を継がすというのだからお姫様とは無縁だ。


 むしろ姉のほとんどがお姫様になっている感じだろうに自分だけ慣れないのは悲しい。


 それでも私は努力を重ねてお姫様になってみせるつもりだった。


 3歳になった私は母に檸檬畑を手伝わされた。この家は檸檬の売りを重視しているようで、先祖代々檸檬は売り続けてきたみたい。


 檸檬ジュースに檸檬サワーといった檸檬関連の飲み物や調味料を売って生活しているようだ。


 私にレーモンという名前をつけたのも檸檬が育ってたくさん売れることを祈ってのことだったようだ。


 また、遊んでばっかの私の姉、パイナとは違って私は真面目に働くことから両親は私を溺愛していた。


 ちなみにこの頃、私は会話をするようになる。


「お母様」


「お母様ってどこで学んだのやら、普通にお母さんと呼びなさい」


「はい、お母さん」


 そんな話をしながら檸檬畑の収穫をしていると、パイナがやってくる。


「ママ、どういうことよ⁉」


「パイナ、それはこっちのセリフ。妹が畑仕事をしているのにあんたは大人になって遊んでばっかり! どういうことよ」


「うるさい! 私は王子に嫁いで贅沢な暮らしをしたいのよ。それなのにその王子と連絡が取れなくなったわ」


「私とお父さんがそうしたのよ」


「何でよ。何で余計なことを!」


「あんたに真面目に働いて欲しいからよ」


「この!」


 パイナは母を殴る。私は母を慰めながらパイナを叱る。


「お姉様、なんてことするのですか?」


「レーモン。お姉様と呼ぶなと言っているでしょ! 私の事は姉貴と呼ぶのよ! あんたもこんな仕事するより王子に嫁いだ方がいいわよ。こんな汚くて辛い生活はダメよ!」


 そう言ってパイナは去っていった。

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