落ちこぼれヒーロー《クローバー》
猫の手を借りる①
──ん…………
あれ……私……寝てた……?
なんかヤな夢見てた気がする……
取り敢えず私は眠気眼を擦って体を起こす。ソファーで寝てたせいか、体が痛い。
体を起こすと、窓から午後の西日がオネムな半目に差し込んでくる。トテモマブシイ。
「あ、やっと目ぇ覚めた?ヒーローさん」
嫌味ったらしく
「うーん……?私……いつから寝てた?」
「知らないわよそんなの。こちとらお昼寝ヒーローさんに代わって仕事してたんだから」
耳も痛くなってきた。
「あ、今何時?」
「3時半」
もっと寝てればよかった、なんて言ったらきっとグーが飛んでくる。
「全く、マネージャーに雑用ぶん投げて自分は優雅にお昼寝なんていいご身分ですね」
「うっ。ごめんって。寝るつもりなんてなかったんだよ」
「はいはい。じゃあ目覚ましに簡単な依頼受けてきなさいよ」
「げ、依頼ー?」
「あんたねぇ、ただでさえうちの事務所にはお金がないんだから。お昼寝の後ぐらい働きなさいよ」
うへぇ。反論の余地がない。ここでゴネたらストライキを起こされそうだし。やるかぁ。
「わかったよぉ。それで、どんな依頼?」
「猫探し」
「またぁ?」
「いいじゃない。もう"猫探しのクローバー"で名前が売れちゃったんだから。それに、子供達の笑顔って言ったらヒーローの大好物でしょ?」
「そんなこと言ったってぇ……。まぁいいや、受けるよ」
「はいよ。じゃあ依頼主のとこ行ってきな。スマホに詳細は送っとくから」
「はぁーい」
そう言って、私は意味もなくヒーロースーツに着替えて出動する。見た目だけはヒーローにしないとやってられない。最後に怪人倒したのいつだっけなぁ……。
──────────
…………見つからない。全く見つからない。いや、それどころか野良猫すら見当たらない。もはや事件性を疑うレベルだ。
依頼者、ヒロトくんとそのお母さんが言うには、名前はミケちゃん、名前の通り三毛猫で、性格は人懐っこいらしい。居なくなったのは3日前からで、よく野良猫の集会に行ってたという。
ならばその集会で捜せば見付かると思ったんだが……。野良猫すら見当たらないとなれば手詰まりだ。今時聞き込みなんてほとんど意味がないし。おまけに暗くなってきた。もう6時だ。今の季節じゃほとんど真っ暗になってしまう。
さぁて、どうしたものか……。いっそ鳴き真似でもしてやろうか。
「……にゃーん」
返事なんかあるわけもなく。
「にゃーん」
あった。マジか。
私は時々鳴き真似をしながら鳴き声を追って夕暮れの町を駆け回る。なりふりなんか構っていられない。屋根の上や誰かの家の庭を突っ切って、一心不乱に追いかける。人様の家の敷地に入っても、ヒーローだからきっと許されるはず。
追いかけた末に、家と家の人が通れるギリギリの隙間を抜けると、そこには20匹程の猫がいた。おそらく、この辺りの猫は全てここにいるのだろう。
猫の群れの中心には一際大きく、そして、光輝く猫がいた。
……おそらくボス猫だろう。このボスに惹かれてみんなここに集まっていたようだ。光って見えるのはきっと太陽の反射の
集会の猫達は見知らぬ客人に警戒しているようだった。すると、ボス猫が周りの猫をかき分けて私の方に寄って来た。
よく見ると、ボス猫の額には、丁度第三の目くらいの場所に菱形の宝石がついていて、どうやらそれが光っているみたいだ。
私の足元に来ると何か言いたげにこっちを見てくる。
「えっと……、にゃーん?」
「?」
ボス猫は不思議そうにする。……なんか恥ずかしい。
「えーっと、私はこの子を探しているんだけど……」
そういって私はダメ元で依頼の猫の写真を見せる。
するとボス猫は群れの方を見て一鳴きする。そしたら群れから一匹の猫が来た。探していた猫だ。
「おぉ!ミケちゃん!おいで」
名前を呼ぶと、私に飛び付いて来た。かわいいやつだ。
にしてもこの光る猫は、私の言ってることがわかったのだろうか。変な石も付いてるし、つくづく不思議な猫だ。……研究機関にでも売ったらいいお金になりそう。
そんな、ヒーローどころか人間の風上にも置けないことを考えていたが、目的は達成したので、そろそろ依頼者の所に戻ることにした。
「ありがとうね、ボス猫ちゃん」
そう言うと私は、ミケちゃんを抱えて集会を後にしようとした。
すると、おもむろにボス猫が私の足元に付いてくる。どうやら懐かれたようだ。
「……えーっと、ボス猫ちゃん?どうしたの?」
「?」
ボス猫はキョトンとした顔でこっちを見てくる。
……もしかして、家まで付いてくるつもりなのだろうか。
まぁ、無理に追い払うこともないか。きっと、その内どっかに行くだろう。
──────────
「わあぁ!!ミケ!!よかったぁ!!」
依頼者、ヒロトくんにミケちゃんを引き渡すと、ヒロトくんはすごく喜んでくれた。これを見ると、猫探しも悪くないと思ってしまう。
「本当にありがとうございます。この子、ミケが居なくなってからずっと気が気でなくて。ほら、お礼しなさい」
「うん!ヒーローさん、ありがとう!!」
「いえいえ。こんなに喜んでくれて、私も嬉しいよ」
「それで、依頼料の方はいくらでしょう?」
「えっと、一万円になります。現金で大丈夫ですよ」
「あら、現金でいいのね。じゃあはい、ぴったり」
「ありがとうございます。じゃあね、ヒロトくん。今度はミケちゃんがどっかに行かないようにね」
「うん!じゃあね、ヒーローさーん!」
そう言って私は事務所兼家に帰ることにした。
「……ところでヒーローさんが連れていたあの光る猫はなんなんだろう?」
「さぁ?猫探しの相棒なんじゃない?」
──────────
「ただいまー。げ、もう7時じゃん。ごはん食べてくればよかったかなぁ」
「その格好で外食するのはやめなさいよ。大体…………」
三緒が何かを言いかけて止まった。
「……あんた、その猫、なに?」
「?何って、ただの光る猫だよ?」
「にゃー?」
三緒は頭を抱えて唸ってしまった。
そう。結局ボス猫は事務所兼家まで付いてきてしまったのである。その風格は、さながらヒーローの相棒のようだった。
「あんたねぇ……。ただでさえ貧乏なうちの事務所で猫を飼う余裕なんかあるわけないじゃない……。それに、なに?光る猫って?」
「なんかねぇ、おでこに光る石がついてるんだよ。なんか第三の目みたいでカッコよくない?」
「んなことどーでもいいわ!!なんでそんな変な猫連れてきたのよ!!」
「いやぁ、なんかぁ、懐かれちゃってぇ。ほら、無理に追い払うのもなんか違うじゃん?そしたら、なんか付いてきちゃった」
「付いてきちゃった、じゃないよ!全く……呆れて物も言えない」
「まあまあ、お世話は私がするから」
「あったりまえよ。はぁ、とにかくシャワー浴びて着替えてきなさい。ごはんは私が作っておくから」
「わーい!ミオミオの手料理だぁ!」
「その呼び方止めなさい、腹立つから」
かくして、この「《クローバー》ヒーロー事務所」に仲間が一人?増えたのであった。
ホップ・ステップ・ジャンプ!! 睦月 ハルサメ @haru-55
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