【Track2】リスト1「いっしょに家事」


  ◯自宅・キッチン(昼)


  SE 水の流れる音

  SE 蛇口を捻る音

  【DHM/右・中】



「さて! やりたいことリスト一つ目はこれ! 『家事』でーす!」



「憧れだったんだよねー。ほら、二人でキッチンに立って一緒に皿洗い! なんか同棲してるカップルって感じしない? するでしょ? へへ」



「ま、といっても私は触(さわ)れないから見て話すだけなんだけどね。私、ユーレイですから!」



「とにかくやるよ! はいはい、手動かす~」



  //あなた、皿洗いを始める

  SE蛇口を捻る音。流水が流れ始める。

  SE皿洗いのガチャガチャ音が途切れ途切れに聞こえてくる。



「もー、こんなに洗い物貯めて。前、私のこと家に泊めた時はそんな感じ全然無かったじゃん。ちゃんと綺麗だったし。実は怠け癖あるのか~? まったく~」



「……いや、まぁそりゃ私だってついつい貯めちゃうことはあるけど。でも、まぁ確かに恋人が自分の家に来るってなったら片付けるよね~」



  //苦笑いを浮かべる彼女。



「そう考えるといきなり押しかけてごめんね?ほら、私幽霊だから人とか壁とか、普通にすり抜けるの。だからインターホンとか押せなくて」



「ん~、なんか良く分かんない身体なんだよねー」



「ふわふわ浮いてるし、私から見たら私の身体はちゃんとあるんだけど、私以外の人には見えないみたい。ほら、今も私のこと見えないでしょ?」



  【DHM/正面・中】



「って、あぁごめんごめん。よそ見させちゃった。お皿、割らないように気を付けてね」



  【DHM/右・中】

  //彼女、深呼吸をして一旦落ち着く。


  (少し間)



「そういえばあれ、覚えてる? ほら、あれあれ。えっと……そうだ、私がここにお泊まりに来て、一緒に夜ご飯作った時の!」



「あの時は確か一緒にお鍋作って……うん、そう。豆乳鍋。で、お酒も飲んでたら私が寝落ちしちゃって」



「それで、私が起きたらお皿全部片付いてるんだもん」



「私あの時『ありがとう』って言ったけど、本心では『うわ! 一緒に皿洗いしたかったのに!』って思ってたんだよ? 言わなかった……というか、言えなかったけどさー」



「だから、それがずっと心残りで。あれからすぐ私が死んじゃって、結局一回もできなかったでしょ? 一緒に皿洗い。ふふ、やっと目標達成できたよ~」



「(いじけたように)そ、ほんとは私も片付け手伝いたかったんです~。優しいのはいいけど、二人でできることは二人でやれたらいいなって思うんだ」



「なーんて、えへへ。でも、あの時はありがとうございました~」



「まぁとにかく、あの時寝てて見れなかった姿を今横で見れてるのは幸せかもね」



「なんかね、日常の一コマ~って感じで私は好き。きっと同棲してたらこれを毎日……」



  //彼女、はっとしたあと苦笑いをする。



「って、何言ってんだろ。ごめんね」



  //彼女、突然よそよそしくなる

  (少し間)



「そういえば、さ。その……えっと……いきなりでごめんなんだけど……」



「今って、恋人とか、居るの……?」



  //あなた、首を横に振る



「…………居ない? ほんとに?」



  //彼女、安心した様子で溜息を吐く



「……っはぁ~、そっか、良かった……」



「あ、えっと、良かった、っていうのもなんかおかしいよね。私が勝手に死んだだけなんだけなんだから」



「でもさ、ほら。考えてもみて? 自分が死んですぐに恋人が新しい恋人作ってたら、それはそれで、あれじゃん?」



「……んもー、分かるでしょ?」



「そりゃもちろん私の分まで幸せになって貰わなきゃ困るけどさ? たった半年で忘れられてたら、ちょっと…………いや、かなり寂しい」



「でも、そっか。ちょっとだけ安心しちゃった。じゃあ……」



  【DHM/右・近】



「(囁き)私のこと、まだ好きなんだ?」



  //彼女、囁いた後に顔を覗き込んで満足そうに微笑む



「ふ~ん? ふふ。そっかそっか。それは嬉しいね。ありがと」



  (間)



「……でも正直、幽霊になった時迷ったんだよね。ここに来るかどうか」



「ほら、私ってもう死んじゃってるじゃん? それも半年前」



「これだけ間が空いちゃったから、忘れられてたらどうしよう、びっくりして拒絶されたらどうしよう、って、不安だったんだ」



「うん、そう。ほんとはね」



「だから、私の姿は見えなくても、こうやって私の事を信じてくれて嬉しい。声だけでも私の事を感じてくれて、私、幸せものだなー、って」



「いや、ほんっとありがたいよ。だって、死んだ恋人の声が聞こえて『同棲ごっこしよ?』って言って来るんだよ?」



「そんなの、我ながらホラーだよ。私だったら、びっくりして受け入れられないかも。よく信じたよね」



「もしかして寂しかった?」



「……ふふ。なんだ。私と一緒かー」



  SE 蛇口を閉める音。水の流れる音STOP



「あ、洗い物終わった? そかそか、お疲れさまー」



「ま、何はともあれ! リスト1、たっせーい!(達成!)」



「え? 次? ふふふ、次はね~……」



  //音声、徐々にフェードアウト




《Track2終了》

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