ゆめのはじまり

藤泉都理

ゆめのはじまり




「上々上々」


 海賊は船に積み込んだ戦利品を見て、にんまりと笑ってのち、城へと意気揚々と戻るのであった。






 『和奏わかな国』の中心地に位置する『和奏城』にて。

 この国の王は或る人物にのみ発現する扉が破られたことを知って、酸っぱい物を食べたような表情になってしまった。


「おーい。王様。あんだ。今日も時化た面してんなあ。口の周りの髭が泣いてんぞ。そんな顔をさせる為におれたちゃあ生えてんじゃねえってな」

「………なんだってそなたはそんなに凶暴なのだ?」

「ああ?ああ、ああ。あのちゃちい扉か」

「ちゃちいとはなんだ?そなたが入って来られないように私が力を込めて作った扉なのだぞ」

「はん。んなくだらねえことに力を使ってんじゃねえよ。国王のくせに。いや。国王だからか。味方が俺と、あいつと、あいつ、あいつと。全部で五人だけだろ。城で働く五百人中たったの五人。かあ~~~。情けねえ。からよ!ほれ」

「不要だ」


 海賊が抱えていた小箱の中身を見ずに、国王は即断した。


「どうせどこぞから奪った品物を金に換えたのだろう。不要だ。誰がそんな邪道な金を受け取るものか」

「ばあか。権力もねえ、有力者と繋がる伝手もねえんだ。だったら、財力を持つしかねえだろうが。受け取れ」

「不要だ。そんな物を受け取るくらいなら国王など「それ以上言ったら、許さねえよ」


 先程までのヘラヘラ顔を引っ込めた海賊に、けれど国王は言った。

 国王など止める。と。


「………」

「………」

「あ~あ。ったく」


 海賊は髪の毛をガシガシと乱暴に掻き回した。


「どうしてこんな頭かっちかちのやつに、惚れこんじまったんかねえ、俺は。ど~して。レジェンドになるって思っちまったかねえ、俺は」

「知るか。愛想もこそも尽き果てたなら、去ればいいだけだろう」

「い~や~だ~ね~え」


 ふん。海賊は鼻息を荒くして、ジロリと恨めし気に国王を見た。


「俺はおまえがレジェンドになるまで支援し続けるって決めたんだ」

「その心は嬉しいが、盗んだ物は受け取れん」

「他の連中は他の海賊から喜んで受け取ってるぞ」

「関係ないな」

「はあ。別に違法じゃねえだろうが」

「違法だ。機能していないが、確かに違法だ」

「はいはい。わかりました~。じゃあ今度は金じゃなくて武器でも持ってきますよ~っと」

「不要だ。盗んだ物を持ってくるな。ここに来るな」

「はいはい。心配してくれてありがとな。大丈夫だよ。俺は人気者だから捕まらねえって。なんたって、俺。海賊のレジェンドだしぃ」

「そんな大物がどうしてこんな操り人形に惚れ込んだのか。甚だ疑問だ」

「操り人形を止めたらわかるって」

「もう会議の時刻だ。去れ」

「へーへー。わっかりましたあ。今度はカッチカチ国王がお気に召す品物をお持ちしますよーっと」


 ひらり。手を振って、海賊は堂々と部屋から出て行った。

 暫くして悲鳴がこの部屋まで響き渡るが、なんてことはない。

 レジェンドな海賊のファンの嬉しい悲鳴というやつだ。


「この国は終わっている。か」


 国王は椅子に座ったままのけ反って天上を見上げた。


「操り人形を止める、か」


 宰相の言いなり情けない国王。

 ずっとずっとずっと死ぬまでずっと、宰相のカワイイ操り人形。

 腐敗腐乱だらけの国の王にぴったり。


「今度は、海賊の言いなり、か」


 ははは。

 国王は乾いた笑いを発したのち、立ち上がって会議場へと向かうのであった。











「上々上々」


 三年後。

 海賊はにんまりと笑った。笑って、跪いた。

 宰相に逆らって辺境の地に飛ばされた元国王に。

 力を貸してくれと初めて願い出てくれた、将来レジェンドに。


「お供しますよ。レジェンド」

「よろしく頼む。レジェンド」











(2023.8.31)



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ゆめのはじまり 藤泉都理 @fujitori

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