きっと、これから友達になる女の子
みのるしろいし
きっと、これから友達になる女の子。
朝日:(M)高校最後の夏休み・・・卒業後、僕は東京へ行く。
彼女の幸せを考えるなら。思いを告げたあの場所で、言うんだ。
夕夏:あのー。
朝日:ん?
夕夏:あ!いきなり話しかけてごめんなさい。
朝日:?
夕夏:私、平野夕夏です。同じクラスの。
朝日:・・・はい。
夕夏:西浦君・・・だよね?
朝日:そうだけど?
夕夏:今、時間もらって良い?
朝日:良いけど。
夕夏:西浦君さ、保健委員だよね?
朝日:そうだね。
夕夏:あのね、私、伝えておかないといけないことがあるの。
朝日:何?
夕夏:私ね、昔から身体が弱くて体調を崩しがちなの。
朝日:はぁ・・・。
夕夏:だから、授業中に体調悪くなったりするかもしれなくて、
その時に迷惑かけちゃうかも知れないと思って。
朝日:・・・あぁ!。連れて行く頻度が多くなるかもしれないってことですか?
夕夏:そうなの。
朝日:別に気にする必要無いと思うよ。保健委員の仕事なんだから。
夕夏:多分、西浦君が想像してる以上に迷惑かけると思うよ。
朝日:わかった、そう思っておくね。
朝日:(M)昔から、委員会に入っていることが多かった。
それは僕の希望ではなく、
単に誰もやりたがらなくて先生からお願いされるから。
きっと、頼んでも断らない。そう思われての推薦だろう。
結局、断れない自分もどうかと思うけれども。
朝日:(M)想像している以上に、彼女の体調は良くないようだ。
たまに教室に居るかと思えば、昼間には保健室に連れて行く。
そして一週間ほど姿を見なくなる。
夕夏:・・・うん?
朝日:あ、起きました?
夕夏:あれ?何で?
朝日:保健室の先生が帰って来なくてさ、流石に引き継いでから戻ろうと思って待っていました。
夕夏:そっか。ごめんね、迷惑かけて。
朝日:構いませんよ。あの時言ってくれたじゃないですか。迷惑かけるかもって。
夕夏:想像以上でしょ?
朝日:いいえ?
夕夏:嘘、私が教室に行った日はほぼ毎日連れて行って貰ってる気がする。
朝日:そんなことないですよ。
夕夏:・・・本当は?
朝日:・・・体調って、ずっと良くないんですか?
夕夏:ほら、ちょっとは思ってるんじゃん。
朝日:ごめんなさい。
夕夏:良いよ、慣れっこだから。私ね、てんかん持ちなの。
朝日:てんかん、でしたか。
夕夏:知ってるの?
朝日:親族が昔持ってました。
夕夏:だからか、私のことも変に思わなかったわけだ。
朝日:変?
夕夏:普通、教室で突然体調が悪くなったりする子のことは気味悪い、
付き合いたくないって思うはずだよ。
朝日:それは・・・個々の感想だからなんとも言えないけど、
僕はそうとは思わない。
夕夏:優しいね。
朝日:そうかな?困ってる人が居たら助けるのって普通じゃないのかな?
夕夏:普通じゃないよ?困ってる人全て助けてたら、多分人生損する。
朝日:そうかな?
夕夏:西浦君、NOって言えないタイプだよね?だから保健委員やってるよね?
朝日:なんでわかるの?
夕夏:私のことを助けてくれる人って、みんなそう言う人だったから。
朝日:いい保健委員の人たちに恵まれてたんだね。
夕夏:ううん、時には私のことを煩わしくなって、
保健室行く途中で放置したり拒否する人もいた。
朝日:酷いね。
夕夏:先生方に助けられたりもしたけどね。
朝日:それでも、学校は通い続けてるんだね。
夕夏:うん、勉強は好きだからね。
朝日:それは思った。
夕夏:・・・保健室通ってることが多くて授業ほとんど出てないのに、
高校に何で通えてるの?って思った?
朝日:それは・・・予想でしかないけどギフテッドなのかなって。
夕夏:正解!すごい、初めてその単語を人から聞いたし当てられた。
発達障害だとは思わなかった?
朝日:何かの本で読んだんだ。知能が高い人の特徴として、
発達障害とギフテッドの概念があるって。平野さんは、
両方の特性を持ってる2E型だと思ってて、
人の感情を汲み取ることが出来るからギフテッドなのかなと。
夕夏:・・・西浦君もギフテッド?
朝日:僕は・・・ただ本が好きなだけ。雑学が身についてるだけだと思う。
夕夏:そっか、気付いてないだけなのかもね。
朝日:あ、先生きたね。説明しておくね。
夕夏:ありがとう。
夕夏:(M)生まれつき、急に倒れたり震えたりして周りには誰も居なかった。
私が仮に相手だったとしたらそう思うだろう。
西浦君はそんな私に嫌な顔せず寄り添ってくれている。
私が初めて汲み取れない気持ちだった。
朝日:珍しいね、放課後もいるの。
夕夏:そうだね。あのさ、今日この後暇?
朝日:うん。特に予定は無いけど。
夕夏:ちょっと行きたいところがあってさ。付き合ってよ。
朝日:良いよ。
夕夏:ありがとう。自転車乗ってる?
朝日:乗ってるよ。
夕夏:乗せてよ。
朝日:ダメだよ。違反だよ?
夕夏:バレなきゃ大丈夫だよっ!
朝日:・・・高校からちょっと離れたらいいよ。
夕夏:はい、やっぱNOって言えないね(夕夏、微笑む)
朝日:・・・からかわれた?今?
夕夏:うん!私も良く無いとは思うんだけど、ちょっと憧れなんだよね。
朝日:女の子らしいところ、あるんだね。
夕夏:女の子だよ!私!
朝日:(M)通用門から少し離れたところで、平野さんを後ろに乗せて走り出した。
夕夏:意外とパワーあるんだね。
朝日:毎日漕いでるからね。
夕夏:私が乗ってる分、重くなるでしょ?
朝日:ギアチェンジしてるから普段と変わらないよ。
夕夏:ふーん。って、暗がりに私のこと重いって言ってる?
朝日:そりゃ人1人増えたら考えても重くなるでしょ!
夕夏:それもそっか。あ!ここ!
朝日:はーい!
夕夏:ここ、綺麗でしょ?
朝日:この町にもこんな所あったんだね。
夕夏:ちょっと高台だからね。中々来ないよね。
朝日:よく来るの?
夕夏:家の近くだから、1人で来て何かあっても両親がすぐ来てくれるの。
朝日:なるほどね。
夕夏:ここから見る景色が私の唯一の友達なんだ。
朝日:そうなの?
夕夏:うん。・・・私ね、持病のせいで長く生きられないかもしれないの。
朝日:・・・そうか。
夕夏:平野君なら、わかるよね?
朝日:てんかんの発作が起きた時に頭をぶつけたり、溺れたり。
発作が起きた時に自殺したりするケースもあるんだよね。
夕夏:そう、だから、大切な人たちをがっかりさせたくなくて
友達は作らないって決めてるの。
朝日:僕は・・・友達にはなれないかな?
夕夏:・・・今は、ごめん。同級生でいたいかな。
朝日:友達って、そう言う感情抜きで仲良くなりたい人だと僕は思う。
まあ、僕もそんなに友達いないんだけどね。
夕夏:意外だね、友達居そうに見える。
朝日:いい人止まりなんだろうね。
夕夏:じゃあさ、来年の夏までに私の病気が良くなって、
そばにいてくれたら友達になって?
朝日:良いよ。それまでも同級生として頼ってくれて良い。
夕夏:ありがとう。
夕夏:この公園ね、伝説があるの。
朝日:そういうの興味無さそうだと思ってた。
夕夏:平野君の中での私のイメージが凝り固まってそう・・・。
朝日:ごめんって。
夕夏:伝説がね、死んだ人に会って話が出来る公園なんだって。
朝日:・・・めっちゃオカルトチックだね。
夕夏:私も噂だとは思ってるんだけど、ある女の子が夜に家出して
この公園のブランコに座ってる時に、後ろから背中を押されたんだって。
で、振り返ったらその子が小さい頃に亡くなったおばあちゃんが立ってて、
家出したことを怒られたんだってさ。
朝日:なにそれ、話し方変えたらちょっとした怪談話だね。
夕夏:実はそう言う事象が起こりかねないと言われてる環境は揃ってて。
まず、この公園は高台にあるから天に近い。
そこにブランコの微妙な揺れが瞑想状態に入りやすくて
催眠術の状態になるって言われてるの。
朝日:へぇー、そう聞くと起こりうるかもしれないって思える。
夕夏:同級生はみんな、夢がないなあって呆れられたよ。
朝日:僕もそう言う類の話はあまり信じないからね。
夕夏:私たち、似たもの同士なのかもね。
朝日:そうだね。
夕夏:そういえば、もうすぐ夏休みだね!西浦君はどこか行くの?
朝日:僕は夏期講習続きだなぁ。
夕夏:勉強熱心だね。
朝日:国立の法学部に入りたくてね。
夕夏:意識高いねぇ。
朝日:平野さんは?
夕夏:私はね、入院するの。
朝日:入院!?
夕夏:夏休みの期間だけ、両親が海外で仕事してていないし、
症状が出るのも怖いから入院してるの。
朝日:大変なんだね・・・
夕夏:慣れっこだけどね。
朝日:入院中も話し相手になるよ?
夕夏:良いの?
朝日:いいよ。ロードとかやってる?
夕夏:やってるよ。これがロードID
朝日:はい、お見舞いとか必要なものがあったら、病室教えてくれたら行くから。
夕夏:ありがとう
夕夏:あ!もうこんな時間・・・
朝日:家まで送って行くよ。
夕夏:何から何までありがとう。また明日ね。
朝日:うん、ゆっくり休んでね
朝日:(M)夏休み、平野さんからは毎日のようにメッセージが届いた。
他愛も無いメッセージのやり取り。それすら僕にとっては非日常だった。
時折通話をかけてくる時があった。
その声は出会った頃よりも元気になっていた気がした。
――ロードメッセージ画面――
朝日:入院中も勉強ってしてるの?
夕夏:してるよ、授業遅れてる分取り返さないといけないからね。
朝日:えらいよね。
夕夏:学校の保健室だと、休んでなさいって言われるからむしろ快適に勉強出来るよ。
朝日:そうなんだね。目指してる大学あるの?
夕夏:うーん、大学行けるのかな。私。
朝日:希望を持つのは大事だと思うよ。
夕夏:じゃあ、国立の医学部でも目指そうかな。
朝日:平野さんの学力なら大丈夫そうだね。
夕夏:あ、ひとつお願いがある。
朝日:なに?
夕夏:朝日くん、私のこと下の名前で呼んでほしいな。さん付けは任せる。
朝日:呼んだことないけど頑張るよ、夕夏さん。
夕夏:お互い頑張ろう!
朝日:(M)夏期講習に向かう路を逆走して病院に急ぐ。
やりとりしていたロードのメッセージ画面には、一通のメッセージ。
普段の口調とは違う文面に、僕は蒼白した。
朝日:夕夏さん!!
朝日:(M)白い布を外すと、優しい顔で微笑みを浮かべながら眠る夕夏さんがいた。
保健室で寝ている時と変わらない顔で、
永遠に目覚めることのない夕夏さんがいた。
朝日:夕夏さん・・・夕夏・・・うぅっ。
朝日:(M)知りすぎてしまっていた僕は、あの時、
夕夏を不安にさせたくないがために一つの可能性を隠してしまった。
SUDEP(スデップ)だ。
発作による転倒をした時の外傷や、水に溺れると言った死因ではない
死因のことをそう呼ぶ。いわゆる、突然死だ。
朝日:(M)祖父母が喪主代理として通夜が行われ、両親は告別式に間に合った。
僕のことはずっと話してくれていたみたいだ。
夕夏母:あの子は言わなかったかもしれないけれど、
あなたは良い友達だったとあの子は思ってるんじゃないかしら?
朝日:(M)二学期になり、僕は勉強にさらに力を入れた。
夕夏を蝕んだ病気で死んでしまう人を、少しでも多く救いたい。
ありきたりだけど大きな信念で、僕は東京公立医科大学を目指すことにした。
朝日:(M) 3年生、高校最後の夏休み。模試はA判定。
合格は確実と言われても、僕は夏期講習をやめなかった。
夕夏に笑われてると思ったからだ。
それでも、ひとつだけどうしてもやっておきたいことがあった。
夕夏:この公園ね、伝説があるの。死んだ人に会って話が出来る公園なんだって。
朝日:(M)あの伝説が本物だとしたら、
もう一度彼女と会って話すことが出来るのだろうか。
夕夏:じゃあさ、来年の夏までに私の病気が良くなって、
そばにいてくれたら友達になって?
朝日:(M)卒業後、僕は東京へ行く。彼女の幸せを考えるなら。
思いを告げたあの場所で、もう一度彼女に会って、言うんだ。
朝日:(M)ギアを上げて、坂道を登る。
背中に感じる重さが無くて、キツくなって直ぐにやめた。
朝日:(M)公園に着いた僕は、あの日の夕夏の声を思い出す。
ブランコへ街の景色が見える方に向かって座る。
足を地面から離して漕がずにそのまま座る。
すると
夕夏:死んだはずの人が背中を押してくれる。
朝日:そう。えっ?
朝日:(M)大きく揺れ始めたブランコ。視線を横にやると、
紛れもなく夕夏が居た。
朝日:夕夏・・・!
夕夏:久しぶりだね。
朝日:夕夏・・・夕夏っ!
夕夏:どうしたの?そんなに泣き虫だったっけ?
朝日:夕夏・・・
夕夏:しかも名前呼び捨てしてくれてる。
朝日:夕夏・・・
夕夏:はいはい!私はここにいるよ?
朝日:夕夏・・・なんだな?
夕夏:そうだって(夕夏、少し微笑む)
朝日:生きてるみたいだ・・・
夕夏:不思議だよね。私もなんだか生きてるみたいなの。
朝日:・・・へ?
夕夏:私ね、実はまだ成仏出来てなかったの。
朝日:そうなの・・・?
夕夏:不思議な感覚なんだよね。目が覚めたら自分がベッドに寝てて、
それを俯瞰で見てるの。先生が来て私の身体を調べたり、
朝日君がベッドの側に来て泣いてくれてる姿も見てた。
朝日:信じられない。
夕夏:そりゃあ私だって信じられないよ。
で、葬式が終わった後くらいに紙が落ちてきて。
そこにこう書かれていたの。
夕夏:(M)あなたに、最後のお別れを伝えるチャンスを差し上げます。
あなたが最後に話したいと願う人が、
あなたが死んだ日から1年以内に取るであろう行動を50文字以上で記載し、
その行動が実際に行われたら、その人に会うことができます。
その人が記載した行動を取らなければ、地獄に行きます。
参加しない選択肢を取ることも可能です。
朝日:なるほど、50文字以上だから単純な行動は書けないんだね。
夕夏:そう、もちろん書いた内容は精査されるから、
同じ文字やはてな・びっくりで埋めたりも禁止。
朝日:そこはちゃっかりしてるのな。
夕夏:私は、この公園に来て伝説が本当か試してくれるって信じてた。
朝日:うん。夕夏とこの公園に来た日に、伝説が本当か試してみようと思った。
夕夏:スケジュールに書いてるのも、全部見てたよ。
朝日:恥ずかしいな。
夕夏:朝日君をずっと見てた。
朝日:ストーカーみたいだね。
夕夏:失礼だなー。まあ?ストーカーばりに
朝日君の秘密にしたいであろうことも全部見てたけどねー。
朝日:たとえば?
夕夏:寝る時は抱き枕が無いと寝れない。
身体を洗う時はお腹から洗う。
下半身の毛が薄め。
寝る前に一人で
朝日:ストーーーップ!それ今すぐ全部忘れて!
夕夏:忘れられるわけないじゃん。
そんな恥ずかしような姿も。
変わらず優しいところも。
ずっと、私のことを思ってくれてたことも。
全部が私の最期の思い出だよ。
朝日:夕夏・・・
夕夏:朝日!
朝日:うん?
夕夏:こんな私と・・・仲良くしてくれてありがとう。
朝日:・・・こちらこそ。
夕夏:友達に・・・なってくれてたね。
朝日:・・・・ばか。
夕夏:え?今私にバカって言った!?
朝日:今も友達だし、これからも、来世でも友達でしょ!
夕夏:朝日・・・
朝日:この先で夕夏にまた会える時が来るまでに、
いろんな思い出作る。そして、いろんな人の病気治す。
夕夏:恋もちゃんとしなよ?
朝日:・・・出来るかな。
夕夏:私とは友達なんでしょ?
朝日:・・・来世で、進展するかもしれないでしょ?
夕夏:あ、今のときめいた。
朝日:そう?でも、ちゃんと夕夏のことは忘れないで、前を向くよ。約束する。
夕夏:じゃあ私は、来世で待ってる。約束する。
朝日:・・・そろそろかな?
夕夏:・・・うん。
朝日:ありがとう。夕夏に会えてよかった。
夕夏:私も、朝日に会えてよかった。
朝日:またね。
夕夏:・・・うん、またね。
朝日:(M)去る姿を見つめていると、
まるで階段を登っていくように、彼女の姿は空へ舞った。
刹那、空から無数の星が街に降る。
あの流星は、夕夏の流した涙か、それともはじけた笑顔なのだろうか。
――終――
きっと、これから友達になる女の子 みのるしろいし @Shiroishi306
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