第4章 召喚術が呼び覚ますもの
冬本番のような、寒さの厳しい日の放課後だった。使われていない教室の床に、奇妙な落書きが描かれているのが見つかった。偶然教室に入った数人の生徒が見つけたという。彼らが空き教室に入った理由はわからないが、うわさは瞬く間に広がり、その日の夕飯時には僕の耳にも入ることになった。
「召喚術の魔法陣だってさ。ほら」
カイは既に落書きの画像まで手に入れていて、僕に見せてくれた。確かにゲームやアニメで登場するような丸い魔法陣が描かれている。意味の分からない文字が、びっしり書き込まれていた。
「やけに手が込んでるね。こういうのが好きな人は描くのも見るのも楽しいんだろうけど」
正直僕は綺麗に描けているなとしか思わなかったが、カイは熱を込めて僕に説明した。召喚術というのはその名の通り何者かを呼び出すための魔術で、魔法陣を使って呼び出すものらしい。今回は悪魔を召喚し使役するための魔法陣が描かれていたということで、既に悪魔が召喚されてしまったのでは、と一部の生徒が騒いでいるそうだ。
「しかも魔法陣の下にメッセージが書いてあってさ、雰囲気が出てるんだよ」
カイが拡大した画像の一部を指さす。そちらの文字は英語だったので、僕にも意味が分かった。
――the devil is hungry for truth.
直訳すると、悪魔は真実に飢えている。ことわざかと思ったが、そうでもないらしい。そして、思わせぶりに四桁の数字が書かれていた。左から、1,2,2,0とある。
「今はこの数字の意味が何かって話題で盛り上がってるよ。あと、この古代文字みたいなのにも意味があるんじゃないかと思うけど、こっちは掠れててはっきり読めなくてさ」
暗号を解くようなものだろうか。それは少し面白そうだが、答え合わせがあるのかわからないクイズに取りかかる気は起きなかった。
「とはいえ悪魔の仕業っぽいことが起きてるわけでもないんだよな。何かあるともっと盛り上がるんだけど」
カイが不謹慎なことを言ってニヤついている。つまりその時はとても平和で、僕もあまり気にしていなかった。
風向きが少し変わり始めたのは、それから一週間ほど経ってからだ。何やら、悪魔の仕業と思われることが頻発しているという。その一つ一つの詳細を僕は知らなかったが、食堂でも談話室でも人が集まればその話でもちきりで、嫌でも耳にした。
いわく、誰々がケガをしたとか、部屋の物が勝手に動いたとか、廊下に幽霊がいたとか。加熱する空気についていけない僕には、天文部で過ごすのんびりした時間がありがたかった。
「ぜんぶ偶然だよ」
天文部でノアに魔法陣の話をすると、彼は僕以上にあっさりしていた。
「偶然って、ケガとか幽霊とかがですか?」
「階段を踏み外した六年のアーニーは、歩きながら本を読む癖がある。幽霊関係は錯覚だね。人間の脳にはもともと、あらゆる物を人の顔として認識する仕組みがある。天井の染みが顔に見えるのと同じだよ。そこに幽霊がいると思ったから、見えたんだ。どれも別に騒ぐことじゃない」
単純な僕は、確かにその通りだと納得した。悪魔が召喚されたなんて話が出回らなければ、誰も事故と幽霊を結びつけて考えなかっただろう。
「悪魔は本来、もっと恐ろしい存在なんだよ。人を転ばせたり怯えさせたり、そんな生易しいことはしない。あの本格的な魔法陣で召喚される悪魔なら、特にね」
どうやらノアも、騒ぎの発端になった魔法陣を一応見てはいるらしい。僕が写真を見せて解説を頼むと、詳しく教えてくれた。
「魔法陣の円は、召喚する『何か』から身を守るためにある。だから術を行使する時、術者はこの中で儀式を行うんだ。円の外周に沿って書かれているのは、神や天子を示す文字だね」
「円の中に召喚するのかと思っていました。自分用のバリアだったんですね」
「そういうタイプもあるけど、今回はここに三角陣があるから」
ノアは写真の一部を指さした。魔法陣の円と少し離れた場所に、三角形が描かれている。
「召喚術で呼び出した存在を、ここに留めておくために描かれているんだ」
三角陣に、魔法陣。召喚術というものは、安全装置が二つも必要なくらい危険らしい。
「この魔法陣も、誰かの“願い”を反映しているんでしょうか」
切実な、魔法に託すしかない願い。ノアが何度も口にしてきた、この現代でまだ魔法が語られる意味が、今回も鍵になるかのかもしれない。
「そのまま受け取るなら、願いは書かれた通りだろうね」
「『悪魔は真実に飢えている』という言葉ですか? でも、それだけじゃ――」
「もう一つ、手がかりがある。この、四桁の数字」
ノアはなぜか、苦々しい表情を浮かべていた。数字は1,2,2,0の四つ。その数字の謎も注目を集めていると、カイが言っていた。しかしノアはもう、その意味に気づいているように見えた。
「単純に考えれば、十二月二十日」
何か特別な日だっただろうか。例年なら、クリスマスホリデーの前日だ。その表現を、少し前に聞いたことを思い出す。
「アーサーが亡くなったのは……」
「そう、その日の夜だよ」
つまり、この魔法陣を描いた人物は、アーサーの死の真相を知りたいと願っているのだろうか。カミルと同じように、ただの事故と処理されたことに疑念を抱いている者が、どこかにいるということだ。
「日付の話は、あまり広めない方が良いかもしれないな。ただでさえ皆、悪魔の噂で神経質になっているし」
確かに、アーサーの事件まで悪魔と関連付けられたら、収拾がつかなくなりそうだ。誰かが気づくまでは、僕も口を噤んでおこうと決めた。
「それに、今は他に気になっていることがあるんだ。ニーナに少し、調べてもらったんだけど」
「ニーナ! 彼女、どうしているんですか?」
案外早くその名前を聞くことになって驚いたが、元気にしているのだろうか。
「今はロンドンにいるよ。彼女の希望で、服飾関係の専門学校に通ってる」
近況を聞いて安心していた僕だったが、本題はそこではなかった。
「彼女に、この前先生たちが話していた『三件目』が何を意味するのか、調べてもらっていたんだ」
ニーナが起こした事件のせいで忘れていたが、そういえば気になる光景を目撃したのだった。建物の陰から盗み聞きした時のドキドキが、記憶と一緒に蘇る。
「先生たちが取り乱すのも、無理はないと思ったよ。卒業生が、この一年で三人も亡くなっていた」
「三件目は、三人目という意味だったんですね」
そして、一呼吸おいてから尋ねた。
「三人は、何が原因で亡くなったんですか」
「自殺だよ。この一年の間に一人は湖、二人は海に自分から飛び込んだって」
「自殺……」
別々の場所なのに、水に飛び込んだところは共通している。うすら寒いものを感じた。
「それを僕らに知らせないように、先生たちは情報操作をしているんですね」
「今のところ、学園と結びつけた報道はないみたいだよ。詳しく調べない限りは、気づかれない」
もし誰かが不審に思い、発信したら、どうなるのだろう。この穏やかな島が騒ぎに巻き込まれるのは嫌だった。でもそれ以上に心配なのは――。
「本当に自殺だったんですよね?」
「人を操って水場に飛び込ませる方法が見つかったら、話は変わるだろうね」
含みのある答えだった。きっと先生たちも、同じように考えているのだろう。
「でも、そんな『ハンメルンの笛吹き』みたいに飛び込ませる方法なんてないですよね」
僕は気の利かない冗談を言い、案の定微妙な空気になった。だから続けてさらに余計なことを言いそうになったのだけれど、廊下から近づいてくる足音のおかげで踏みとどまった。
「ノア、ちょっと様子を見に来てくれないか」
ドアを勢いよく開け放ったエリアスは、ずいぶん急いでいる様子だった。何か、トラブルでもあったのだろうか。ノアは特に文句も言わず、ソファから立って部屋の暖房を消した。エリアスが早足で廊下を歩きながら説明する。
「校舎一階のトイレの窓ガラス三枚に、ヒビが入っていてね。割れて粉々になっているわけでもなくて、却って不気味だって騒ぎになっているんだ」
また、悪魔の仕業だと言い出す者がいたのかもしれない。校舎の外側から回って見に行くと、既に生徒の人だかりがあった。十人はいるだろうか。心配顔のミア先生の姿もあった。
「君たち、ちょっと通してくれ」
エリアスは寮長らしく堂々と人をかき分けていく。人垣が割れて、不安げな生徒たちがこちらを振り返った。
窓に近づくと、ガラスにギザギザのヒビが入っているのが見えた。周辺にガラスの破片などはなく、破損しているのは本当にヒビが入った部分だけのようだ。
ミア先生が困っているのも、その部分が関わっているらしい。
「犯人を見つけたいところだけど、どうやったらこんな風に割れるのかしら……」
トイレの窓にはすりガラスが使われていて、中にワイヤーが入っているタイプだった。結露防止らしきシートも貼ってある。何か物をぶつけた痕跡もなく、それこそ魔法のように突然割れたように見えた。
ノアはいつの間にか少し離れたところにいて、何かを確認するように行ったり来たりしていた。かと思えば、眩しそうに空を見上げている。昨日までは曇りがちで寒かったが、今日は朝方からよく晴れていて、少し暖かい。
「何か気になることがあるんですか?」
尋ねると、ノアは曖昧な返事をした。
「これは、人間の仕業じゃなさそうだね」
「人間じゃないってことは、悪魔が――」
耳ざとい誰かがノアの言葉を拾ってざわめく。ノアがうっとうしそうな顔をしたが、特に何も言わなかった。わざわざ否定するのが面倒なのだろう。
「ミラ先生、これは何の騒ぎですか」
「グレアム先生……」
騒ぎを聞きつけてか、男性教師が一人来てミラ先生に声をかけた。僕は授業を受けたことがないので実際はわからないが、少しとっつきにくい雰囲気の先生だ。歳は多分二十代後半だろう。学園の中ではかなり若い方だと思う。
ミラ先生は緊張した面持ちで、グレアム先生に状況を説明した。彼は窓ガラスに近づいて無表情で一瞥し、小さく頷いた。
「心配はいりませんよ。この件に犯人はいません」
奇しくも、グレアム先生はノアと同じようなことを言った。やはり悪魔が、と再びざわつき始める前に、グレアム先生は続けた。
「原因は、ワイヤー入りのガラスと直射日光ですよ。冷え切ったガラスの中でワイヤーが急激に温められ、熱で膨張したんです。貼られたシートも熱がこもった理由でしょう。特段、珍しいことではありません。シェードで日光を遮るようにすると、防げるでしょうね」
淡々と話すグレアム先生に、ミラ先生も生徒たちも少しの間ぽかんとしていた。立ち直ったミラ先生が、笑みを浮かべて拍手する。
「すごいわね、この一瞬で原因を突き止めてしまうなんて。あんな魔法陣を見た後だから、これも関係があるんじゃないかと思ってしまったわ」
「人間の脳は無関係の出来事を結び付け、ストーリーとして構築する癖がありますからね。しかし、現実には偶然に起こることの方が多いのです」
「ええ、良い勉強になりました。もうすぐ十二月二十日でしょう、私も神経質になってしまって」
「……何の話ですか?」
まさかと思った時には遅かった。止める間もなく、ミラ先生は言った。
「あの魔法陣に1,2,2,0と書かれていたわよね。ちょうどアーサーが亡くなった日よ。アーサーの死にショックを受けて、まだ立ち直れていない子がいるんだわ」
グレアム先生は虚を突かれたように瞬きをした。その隙を縫うように、ノアが口を挟む。
「ミラ、グレアム先生がいらしたのは今年の二月ですよ。アーサーのことはご存知ないと思います」
ノアがちらりと視線を送ると、グレアム先生は無表情で頷いた。
「あら、そうだったわ。ごめんなさい」
ミラ先生は恥ずかしそうに頬を両手で覆った。それを笑顔で受け流し、ノアが言う。
「先生も、あの魔法陣を直接ご覧になったんですか?」
「私のクラスの生徒が呼びに来たから、一緒に見に行ったのよ」
僕の方を見たミラ先生は、呼びに来たのはカイだったと付け加えた。
「ところで、魔法陣の円の内側に沿って書かれていた文字はヘブライ文字でしょうか。もし先生が詳しければ、見解をお聞きしたいのですが」
ミラ先生の目が、パッと輝いたように見えた。カイに建築の話を振った時と同じ目だ。
「あなたも興味があるのね? 私はあれが、『ゲマトリア』じゃないかと考えているの。文字を対応する数字に置き換える数秘術ね。書かれていた文字は四種類で、それぞれ一つの数字と対応していたわ。具体的には、1,8,2,0という四桁の――」
グレアム先生が咳払いをして、ミラ先生は我に返ったように口を噤んだ。
「そういった話を生徒に聞かせるのは、いかがかと」
「申し訳ありません。気をつけるわ」
ミラ先生はすっかり静かになって、集まっている生徒たちを見渡した。パンパンと手を叩き、呼びかける。
「この学園に、ガラスを割るような非行少年がいなくて良かったわ。対策は追々考えます。念のため、割れたガラスには近づかないようにね」
生徒たちがパラパラと帰っていく。僕らも戻ろうとすると、エリアスがミラ先生に呼び止められた。
「クリスマスの飾りつけの件は、あなたたちに任せておけばいいのかしら」
「はい、昨年度の寮長から申し送りは受けていますよ。倉庫に行って飾りを持って来るところからですよね」
「ええ、その通りよ。倉庫は寒いから、気を付けてね」
「あと、あの辺りは電波の入りが悪いということも聞いています」
「きちんと申し送りができているようで素晴らしいわ」
エリアスとミラ先生は息の合ったやりとりで笑い合いながら、倉庫に行く日を打ち合わせていた。僕の予定まで聞かれたので、参加することになりそうだ。
グレアム先生は興味を既に失った様子で、ミラ先生を待たずに校舎へと帰っていく。ミラ先生との話を終えたエリアスが、彼の背中を見ながら言った。
「なんだか不思議な先生だな。物理学のパーシー先生が体調を崩して長期療養になって、代わりに採用されたと聞いたけど」
「なんだか、他の先生と雰囲気が違いますよね。あまり感情が見えないというか」
今の振る舞いも、騒ぎを収めに来たというより、通りがかって仕方なく顔を出したように見えた。原因を一瞬で看破した彼からすれば仕方ないのかもしれないが、終始見下すような表情で、僕としてはあまり気分が良くなかった。
「それより、まずいですよね。ミラ先生があんなことを言ったから、噂になりそうですよ」
ちょうど先ほど、ノアと話していたばかりだ。しかし彼は、僕ほど気にしている様子がなかった。
「おかげで面白いことが聞けたし、悪いことばかりでもないよ」
ノアはいつものように何事か考え込んでいて、僕もまた、頭の中でぐるぐると回っていることがあった。卒業生たちの死についてだ。
もし彼らの死が、自殺ではなく巧妙に仕組まれた殺人だったとしたら。そしてアーサーがその真相に気づき、告発しようとしていたら。アーサーの死もまた、事故ではなく殺人だったのではないか。湖や海に飛び込ませることができるなら、屋上からだって大差ないのではないか。
けれど、グレアム先生の言ったように、僕は都合よくストーリーを作り上げているだけかもしれない。そうであってほしいと、平穏を望む僕は祈っていた。
今年も残り一か月を切り、冬休みが近づいてきた。学園の冬休みは毎年十二月二十日ごろから始まり、約三週間ある。寮に残る者もいるが、帰省したり家族と合流して旅行に出かけたりと、ほとんどの生徒が学園にいない期間だ。僕も半年ぶりに日本に帰り、家族と年越しする予定だった。僕の好物を並べて待っていてくれると思うと、今からワクワクする。
そのため学園内で行われるクリスマスのイベントも、少し早めに開催される。クリスマスの礼拝は少し堅苦しいが、その後は楽しいパーティーだ。いつもより豪華な料理やケーキが並び、好きなだけ食べられるうえに、少しくらい騒いでも怒られない。ホリデーが始まる解放感もあり、毎年楽しみなイベントの一つだ。その直前には定期試験があり、今は試験勉強に追われているのだけど。
倉庫からクリスマスの飾りを持ってくる仕事は、試験勉強からの逃避にはもってこいだった。普段は入れない場所に入れるというのも、冒険心をくすぐられる。その日の授業が終わると、僕は足早に教室を出た。
倉庫は学園の敷地の北側に位置していた。うっすら雪をまぶしたような防風林を抜けると石造りの建物があり、見た目は小さな礼拝堂だった。昔は見た目そのままに礼拝堂として使っていたが、学園の規模が大きくなるに従って窮屈になり、別の場所に礼拝堂を建てた今は倉庫として使っているという。
エリアスが借りてきた鍵を大きな錠前に入れて回すと、重い音を立てて錠が外れた。両開きの木の扉は分厚くて重く、セドリックと僕の二人がかりでようやく動いた。
「うわ、なんだか壮観ですね」
通路の左右に物が積み上がって、タワーを形成している。棚の中にボックスがあり、一応整理されているようだが、ボックスの数が多すぎて探すのが大変そうだ。
足を踏み入れて、キンと冷えた空気を感じた。日の光が射さないから、外より気温が低いのだろう。
「奥に暖炉があるはずだ。それなりに時間がかかるだろうから、先に火を起こそう」
エリアスが先に立って進んでいく。扉を閉めて後に続くと、全体的に天井が高く、正面には数段高くなった祭壇の名残があるのがわかった。暖炉があるのは入って左側で、礼拝堂全体が温まりそうな大きなものだった。校舎や寮はセントラルヒーティングを使っているが、さすがに倉庫には導入しなかったのだろう。
僕は暖炉なんてこれまで縁がなく、精々バーベキューの火起こしくらいしか経験がないが、エリアスたちは手慣れた様子で薪を入れている。眺めているとすぐに火がつき、安定して燃え出した。炎が見えていると、すぐに暖まる気がしてくる。
「よし、まずはツリー飾りからだ」
エリアスがリストに書かれた棚の場所を読み上げ、僕らが棚から出していけば効率よく進められるだろう。良い作戦だと思ったのだが、重大な誤算があった。なんと、リストの場所と実際にしまわれている場所が一致しなかったのだ。去年の片付け方が適当だったのか、他のものを出し入れした時にずれたのか、とにかく一つずつ中身を見ないとわからない状態だった。
「最悪だ! 誰の仕業かわかったら寮長権限で卒業までトイレ掃除当番にしてやる!」
エリアスは大いに憤慨していて、僕もハズレの箱を五個引いた時はさすがにイラっとした。
「一応、リストの場所の近くにはあるみたいだ。それらしいものがあったら教えてくれ」
セドリックも辟易しているはずだが、怒り心頭のエリアスに代わってテキパキと指示を出した。イライラしても仕事が終わらなければ帰れないのだから、それが一番の方法だろう。
「……ノア、今はクリスマス飾りを探してくれ」
「ごめんごめん、つい面白くて」
彼はでたらめに箱を開けては中身を取り出し、興味深そうに検分していた。どうも既視感があると思ったら、部屋の片づけをしようとして懐かしいものを見つけ、なかなか進まない僕と同じだった。それでも声を荒げないセドリックは大人だな、と新たな発見をする。
「入り口の方も見てきますね」
「頼む。そっちは寒いだろうから、後で交代しよう」
セドリックの言ったように、入口付近は暖炉のぬくもりが充分に届かず、コートを着込んでいても肌寒かった。早く終わらせてしまおうと、気合を入れる。
その時、微かに水音が聞こえたような気がした。ドアの向こうから聞こえるから、雨が降っているのかもしれない。明り取りの窓を見上げたが、曇りがちだということくらいしかわからなかった。島は天気が変わりやすく、にわか雨もよく振る。この季節なら、吹雪かないだけ運が良いだろう。
それから一時間ほどかかって、僕らはどうにか目的の飾りを全て見つけた。初めは凍えそうだったが、動き回ったせいで少し汗ばんでいる。
「まったく、去年の倍は時間がかかったよ。早くカートに載せて戻ろう」
エリアスはぼやきながらドアに体重をかけ、開けようとした。
「ダメだ、僕の力だけじゃ開かない。手伝ってくれ」
セドリックが横に立ち、ドアを押した。しかし、それでもドアが動く気配がない。先ほどは二人いれば問題なかったが、立て付けが悪いのだろうか。僕も加わったが、びくともしなかった。
「おかしいな。誰かが外の鍵をかけたとしても、ドアは多少動くはずだ。まるで固められたように動かないなんて」
セドリックは呟き、ノアを振り返った。
「誰かの仕業だと思うか?」
「この状況だけだと、なんとも。でも、自然にドアが開かなくなるとは思えないし……」
「あいつだよ、グレアム! 僕とミラ先生が話している時、日程を聞いていたはずだ」
エリアスが叫ぶ。僕もあの場にいたが、確かに彼が立ち去る直前、日程の相談をしていた。その意味では、可能だとは思うが――。
「そんなことをする理由がないですよ。不愛想な先生ですけど、こんな嫌がらせのようなことをするなんて」
僕の言葉に、エリアスたちは何か言いたげな様子で顔を見合わせた。代表するように、ノアが口を開く。
「実は、彼の素性を外の知り合いに調べてもらったんだ。そうしたら、彼がアーサーの家庭教師を務めていたことがわかった」
「それって――」
「グレアム先生は、アーサーの死について調べるために、この学園に来たのかもしれない」
思い返すと、ミラ先生がアーサーが死んだ日の話をした時、彼は一瞬反応が止まったように見えた。知らなかったのではなく、動揺していたのだ。ノアの説明を受けて、エリアスが言った。
「アーサーの近くにいた者は、みんなノアを疑っている。もし彼が僕らを閉じ込めたとしたら、ノアに対する脅しの可能性が高いな」
「どうしてノアなんですか。僕は、あなたたちがアーサーの死を悲しんでいるのを知っています。それでも疑われる理由があるということですか?」
同室で、同じクラブに所属していただけの彼がなぜ疑われるのか。実はずっと、不思議に思っていた。僕らは厳しい監視下におかれているわけでもなく、その気になれば学園を抜け出すこともできる。犯行が可能な人物は、他にもいるはずだ。
三人はもう一度顔を見合わせた。また、僕だけが蚊帳の外だ。勝手に巻き込んで連れ出すくせに、距離はちっとも縮まらない。僕は苛立ちに任せて気持ちをぶつけた。
「僕はアーサーのことなんて知らないし、彼の代わりになるつもりもありません。あなたたちは数合わせ要員がいれば良いのかもしれませんけど、僕はいいように使われて迷惑なんですよ!」
礼拝堂の高い天井に、僕の声がこだました。余韻が消え去り、暖炉の火のはぜる音だけが聞こえてくる。ノアが静かに、口火を切った。
「……アオ、ごめん。俺たちは君に甘えていた。でも、数合わせとか、アーサーの代わりだなんて思ったことはないよ。ただ、今は言えないことがたくさんある。君を危険な目に合わせないためには、知らせないことが一番だから」
なんとなく、そんな気はしていた。ノアもエリアスもセドリックも、何か秘密を抱えていて、僕のような平凡な人間とは違う世界にいるのだ。おそらくアーサーも、そうだった。僕なんかがアーサーの代わりだなんて、どの道なれるわけなかった。
「すみません、子供みたいにわめいたりして。僕だけ仲間外れみたいで、少し寂しくなっただけです。でも、それが皆さんの気遣いだってことも、わかります」
エリアスが近づいてきて、僕にがばりと抱きついた。
「君はやっぱり良い子だね。僕らが失ったものを、君はちゃんと持っている」
彼はにこりと笑うと、ポンと僕の肩を叩いて離れた。
「今から話すことは、たとえ話だ。本当のことも含まれるけど、嘘もある。そう思って聞いてくれ」
エリアスはそう前置きして、話し始めた。
「あるところに一つの国がある。その国に暮らす者たちは主に二つのグループに分かれていて、常にもう一方のグループを出し抜こうと争っている。グループの中で優秀な者をリーダーとして、互いに罠を仕掛け、時には命を奪い合う。そういう物騒なやりとりが日常茶飯事だ。ノアとアーサーは、それぞれ別のグループに属していて、リーダー候補と目されていた。……まあ、こんなところかな」
それが本当に国なのか、それとも社会の裏側の何かなのか、判然としなかった。嘘が含まれるというのは、そういう意味だろう。とにかく、うっかり首を突っ込むとケガではすまないということは、実感できた。
「つまりノアは対立するグループのアーサーを殺し、自分のグループを優位に立たせようとしたと思われているんですね」
「その通り。実際、何度も唆されたよ。たぶんアーサーも同じだっただろうね」
ノアはうんざりというように肩をすくめた。
「僕とセドリックはその国を相手に商売をしているような勢力でね、事情はおおよそ知っていた。だから初めは、トラブルが起きないように見張るつもりでいたんだ。まあ結局、ただの友人になってしまったけど」
ノアからアーサーの話を聞くたび、近づくことを恐れているような、微妙な壁を感じていた。それは、生まれが理由のいびつな関係のせいだったのだ。ノアと別の境遇で出会いたかったと、アーサーは迷路庭園の絵を描きながら吐露していた。彼もまた、どうにもならないことを迷路庭園の「再生」に託していたのかもしれない。
「さて、話はこれくらいにして、外に出る方法を考えよう。ここは電波も通じないし、出入口は唯一この扉だけ。煙突は一応あるが、上るのは危険だし最後の手段だ」
エリアスが腕組をして、今の状況をおさらいした。改めて考えると、かなり手詰まりの感がある。
「ミラ先生は僕らがここにいることを知っているわけですから、最悪今日中には出られますよね」
「ひとしきり騒ぎになればね。でも薪の残りも少ないし、火が消えたら命の危機だよ」
寒がりのエリアスは、自分の体を抱きしめて凍える仕草をした。確かに、長時間閉じ込められるのは危険かもしれない。
「さっきは雨でしたけど、夜になれば雪になって、ここに来るのも大変になりますよね。もし吹雪になったら、救助も遅れるかも」
僕は同意を求めるようにノアを見たが、彼は不思議そうに首を傾げていた。
「雨? 今の気温なら、雪になりそうだけど」
「でも、さっき扉の近くにいた時に水音がしましたよ。一時間くらい前です」
「……そういうことか」
ノアは低い声で呟くと、暖炉に向かった。軍手をはめ、暖炉の横に積み上がった薪を一本取ると、燃え盛る炎に近づける。そして、火のついた薪を松明のように持って扉の前に立った。
「まさか、扉を燃やして出るつもりですか? 木だから燃えるとは思いますけど、その前に倉庫に置いているものに火がついたら……」
これだけ大きな扉を燃やしたら、かなり大きな炎になるはずだ。もし火事になっても、逃げ場がない。
「大丈夫、そんな危険なことはしないよ」
ノアはしゃがみ込み、炎を扉と床の境目に近づけた。それを見て、セドリックが納得したように言う。
「なるほど、道理で動かないわけだ」
「ずいぶんお手軽な閉じ込め方だね」
エリアスも気づいたらしい。僕は焦りながら、必死で頭を回転させた。扉の向こうで聞こえた、雨ではない水音。そして扉を開ける方法は、火を近づけて温めること。
「そうか、水を撒いて凍らせた……?」
今日は雪が降ってもおかしくないくらいの寒さだ。扉と地面の境に水を撒けば、凍りついて天然の接着剤になってしまう。だから、扉がピクリとも動かなかったのだ。
「これでどうかな」
ノアが立ち上がり、僕とセドリックが扉を押した。変わらず重いが、今度は動く感覚がある。氷を削るような音を立てて、扉が開いた。
「ふん、まあ僕らにかかればこんなものだよ」
一番何もしていないエリアスが胸を張る。一方で、セドリックは首を捻っていた。
「しかし、本当にグレアムの仕業なのか? 彼がノアに良い感情を抱いていないのは確かだが、あまりに中途半端だ。この程度じゃ脅しにすらならない」
「そうだね、水ではなく灯油を撒いて火をつけるならまだわかるけど」
ノアが頷きながら恐ろしいことを言っている。僕一人なら大いに動揺しただろうけれど、彼らにとっては生ぬるかったらしい。
「犯人捜しは後だ。僕は早く暖かいところに戻りたいよ」
エリアスが言い、僕らは当初の予定通り掘り出したクリスマス飾りを荷車に積んだ。いつの間にか、雪がちらついている。ごうと風が鳴り、エリアスが寒さに悲鳴を上げた。
「……ん? なんだか、焦げ臭くないか」
鼻を上向けて、エリアスが辺りを見回した。確かに、木を燃やした時のような匂いがしていた。
「風向きから考えると……」
ノアは防風林の方に目を向け、様子を見に行った。気になって、僕も追いかける。林を抜けて視界が開けた瞬間、声を上げた。
「ゲストハウスが燃えてる!」
ゲストハウスは学外の人が寝泊まりする時に使う施設で、見た目は普通の一軒家に近い。その窓から、火が吹き出していた。時折、爆発するような音や窓ガラスが割れる音が聞こえる。百メートルは離れているはずだが、熱気を感じた。
「今日はゲストハウスを使う予定はなかったはずだ。誰かが侵入したのか?」
「じゃあ、中に人がいるかも……」
駈け出そうとした僕の腕を、ノアが掴んだ。
「近づくと危ない。電波の入るところまで行って、消防に連絡しよう」
その言葉が合図のように、屋根から炎が噴き出した。火の粉が舞い、黒い煙が上がっている。ノアの言う通り、プロに任せるのが一番だ。
しかし、僕の目は見つけてしまった。建物から倒れ込むように出てきた人影を。
「すみません、やっぱり行きます!」
「アオ!」
倒れている人めがけて、必死に足を動かした。冬とは思えない熱い空気に怯みそうになる。息をすると喉が焼けてしまいそうだ。
「あれは……グレアム先生?」
横向きに倒れていて顔が髪で見えないが、体格や髪の色が似ていた。近づいて、間違いないと確信する。服はところどころ黒く焼け焦げ、露出した肌は赤く腫れていた。
「グレアム先生!」
煙を吸い込まないよう手で覆いながら呼びかけると、目がぎょろりとこちらを向いた。口が動いているが、ごうごうと燃える音がうるさくて聞きとれない。まずはここから動かすのが先だ。火傷も明らかにひどく、手当をしなければ危険だと直感した。
「アオ、君は足の方を持って」
「ノア?」
僕を追いかけてきてくれたのだ。二人いれば、大柄なグレアム先生もどうにか運べる。ノアがグレアム先生の脇を抱え、僕は足を抱えて彼を炎の届かない場所に仰向けにした。
「エリアスたちが救急車を呼びに行っています。今、水を――」
立ち上がろうとしたノアの腕を、グレアム先生が掴んだ。目が必死に何かを訴えかけている。火傷のためか声は出ず、掠れた息が苦しそうだった。彼は自分のネクタイを掴み、手探りでネクタイピンを握った。それから人差し指で上を指さし、空を見た。
力を失った手が胸の上に落ちる様子が、スローモーションのように見えた。いつの間にか目は固く閉じられて、呼吸で上下していた胸の動きもなくなった。
「……そんな。グレアム先生!」
何度呼びかけても、彼が再び目を開けることはなかった。
「もっと早く気づいていたら……」
呆然としている僕の横で、ノアがそっと首を振った。
「この火傷じゃ、どの道助からなかったよ。たぶん、ゲストハウスの中で負傷したんだ。逃げ出す暇もなかったなら、火事というよりほとんど爆発のようなものだろうね」
「どうしてそんなことに……」
「わからない。けれど、普段から使われているゲストハウスで事故が起こるとは考えにくい」
「じゃあ……」
――何者かが、グレアム先生を殺した。
地面がぐにゃりと歪んだ気がした。そんなことが、本当にあるのだろうか。普段、この学園に部外者が立ち入ることはない。つまり、僕が日常的に顔を合わせている誰かが、人を殺したことになる。
「さっきの動き、グレアム先生は何を伝えたかったんだろう」
ノアはこんな時でも落ち着いていて、彼が最期に握ったネクタイピンに触れた。クジラの形がそのままネクタイピンになっている、ちょっと変わったデザインだ。
「ん? これは……」
ネクタイピンをひっくり返したノアは、何かに気づいてピンを手に取った。
「M to A……。グレアム先生のファーストネームはニールだから、Aにならない。元は彼のものじゃなかった……?」
「アーサーなら、Aですね」
グレアム先生はアーサーの家庭教師だったという。彼の家族とも関りがあったはずだから、形見分けとして彼の遺品をもらった可能性もある。アーサーの死の真相を暴けなかった後悔が、ネクタイピンを握らせたのだろうか。その後に天を指さし、祈りを捧げたようにも見えた。
「俺は見覚えがないけど、エリアスたちが何か知っているかもしれない」
ノアは自分のスマートフォンで、ネクタイピンの表側と裏側を撮影した。
「ついでに、何か手がかりがないかな」
ノアは大胆にも、グレアム先生の服を探っている。僕はびくびくと周りを見たが、近くに人はいなかった。内ポケットからスマートフォンが見つかったが、さすがにバレるだろうと元に戻した。
「あとは、ペンが二本――」
呟いたノアが、表情を変えて手を止めた。それを見て、僕も息を呑む。ペンと思われた細長いものは、なんと注射器だった。しかも、中に何か液体が入っている。
「アレですか、アナフィラキシーショックが起きた時に打つ……」
「いや、エピペンとは注射器の形が違う。中身は調べないとわからないな」
ノアはそれも躊躇なくポケットに入れた。僕はそれを、ガタガタ震えながら眺めていた。
消防車と救急車のサイレンが、遠く聞こえてきた。重なり合う響きは不協和音で、僕をいっそう不安にさせた。
やって来た救急隊員はその場でグレアム先生の死亡を確認し、遺体は警察署に運ばれて行った。ゲストハウスの火は消えるまでに数時間かかったと聞いたが、僕の中ではほとんど一瞬だった。先生から色々と質問された気がするが、その内容もあまり覚えていない。
「ほらアオ、夕食持って来たぞ」
「うん、ありがとう……」
食堂に行くと質問攻めにあいそうだということで、先生から寮室で食べる許可をもらっていた。正直食欲はないが、カイに悪いので詰め込むように口に入れた。
「明日は授業なしだってさ。まあ当然だよな」
ベッドに腰かけ、カイが言った。僕たち生徒は明日の朝ホームルームで説明を受け、その後は学園内に待機することになるようだ。
「相変わらず情報が早いね。カイがいると助かるよ」
「ああ……うん」
カイはどこか上の空で答えた。さっきから、部屋を歩き回ったり座ったり、落ち着きがない気がする。普通ではないことが起きたから、カイも僕ほどではないにせよ動揺しているのかもしれない。
「カイは、グレアム先生と何か話したことはある?」
「いや、選択授業は受けたことあるけど、個人的に話したことはないな。授業が終わるとすぐに帰るし、あんまり生徒と交流する気がない感じだったよ」
聞いていた通りの態度だ。やはり、アーサーのことを調べる以外に興味がなかったのだろうか。
「とにかく今日は疲れてるだろうし、早く寝ようぜ!」
不自然に話題を逸らされた気もしたが、僕は確かに疲れていた。その日は消灯時刻より前にベッドに入り、気絶するように眠ってしまった。
深夜、そっと部屋のドアを閉める音が聞こえた気がしたが、夢か現かはっきりしないまま僕はまた眠りに落ちていった。
ホームルームでは、ゲストハウスの火事は不幸な事故だったと説明された。いつも陽気なミラ先生も、さすがに悲痛な表情を浮かべている。
「グレアム先生はゲストハウスの設備を確認していたようです。セントラルヒーティングが故障していたため代わりに暖炉を使ったようですが、煙突の掃除が充分でなく、残ったタールが原因で火災になったということでした。グレアム先生は学園に来てまだ日が浅く、あまり知らない人もいるかもしれませんが、彼が安らかに眠れるよう祈りましょう」
先生は事故と説明したが、本当のところはどうなのだろう。警察は、殺人の可能性も含めて捜査しているのだろうか。グレアム先生を狙った誰かが煙突に仕掛けをしていたら、事故に見せかけて殺すこともできる。
「今年のクリスマスパーティーの準備は、少し遅らせる予定です。皆さんはパーティーで羽目を外すことを楽しみにしているかと思いますが、今年はきちんと天国の神様に祈りを捧げてくださいね」
さすがにこの空気の中でふざける者はなく、みんな神妙に頷いた。今日の過ごし方についても説明があったが、カイの前情報通り、学園からは出ないようにと言われた。火災現場に近寄らなければ、どこに行っても自由。明日は午後から授業を再開するとのことだった。
グレアム先生のことでまた質問されるのではとビクビクしていたが、ホームルームはそのまま終わり、解散となった。少し警戒しながら食堂に行ったが、案外人に見られることもなく、拍子抜けした。みんな、たった一日で興味を失ってしまったらしい。
「ゲストハウスが燃えたのはびっくりしたけど、ただの火事だしな。グレアム先生があまり生徒と関わっていなかったのもあって、ショックを受けてる奴もあまりいないみたいだし」
「……そうだね」
ただの火事、という言葉が引っかかった。この学園の中で殺人を疑っているのは、僕を含めた数人だけだ。しかしカイは僕が落ち込んでいると思ったらしく、気遣うように言った。
「アオはグレアム先生が亡くなった時にその場にいたんだもんな。そりゃ、すぐ元通りってわけにはいかないよ」
あの時見たことを、全部カイに話してしまいたい衝動に駆られた。自分だけが抱えている秘密が秘密じゃなくなれば、たぶん僕自身は楽になれるだろう。しかし、グレアム先生が殺されたかもしれないという話になれば、それは新たな騒動になる。軽々と口にできなかった。
寮室に戻って試験勉強でもすれば良いのだが、やっぱり落ち着かない。それに、ノアがどうしているかも気になっていた。今日はクラブ活動をやめるよう言われたので、ノアの部屋を直接訪ねることにした。
「ひどい顔だね、アオ」
僕の顔を見たノアは、ちょっと笑って出迎えた。対するノアはいつも通りで、同じ経験をしたはずなのに理不尽な気がする。
「あれから何か、わかりましたか」
「注射器の中身は知り合いに送って調べてもらってるけど、分析には少し時間がかかるって。ネクタイピンの方は、エリアスたちも見覚えがないと言っていた。売っている店は突き止めたけど、顧客管理をしているわけではないから、誰が買ったのかはわからなかった」
ノアは難しい顔をしていて、さすがにまだ真相は見えて来ないようだった。
「こうなると、グレアム先生が本当に俺たちを閉じ込めたのかも疑問だね」
「そうか、グレアム先生を殺した犯人の可能性もあるんですね」
火事の衝撃が強くて忘れていたが、僕らが閉じ込められたことも一つの事件だった。あの時はただの嫌がらせ以外の理由が思いつかなかったが、今なら意味が変わってくる。
「扉が開かなかっただけじゃない。倉庫にきちんとしまわれているはずの飾りが、記録とは違う場所にあった。仕掛けた人物は、俺たちをできるだけ足止めしようとしていた」
「時間稼ぎのためですね」
倉庫とゲストハウスは近くにあり、僕らが早く仕事を終えればグレアム先生と顔を合わせる可能性があった。実際には犯人の想定より少し早く外に出ることができたはずだが、それでもグレアム先生を助けるには遅かった。
「グレアム先生は、アーサーの死の真相を暴こうとして殺されてしまったんでしょうか」
「俺はそうじゃないかと考えてる。彼はそれ以外に興味がなさそうだったからね」
「つまり、グレアム先生を殺した犯人が、アーサーを……?」
「どうだろう。隠したい何かがあるのは、間違いなさそうだけど」
アーサーの死については、ノアはやけに慎重だった。彼の中で、予想していることがあるのかもしれない。
「また、新しいことがわかったら君にも伝えるよ。君も、気になることがあっても一人で先走らないように」
ノアに釘を刺され、僕は気を引き締めた。今、この学園には殺人犯がいて、僕らはその事実に気づいている。犯人が僕らを消そうとすることだって充分考えられた。しばらくは、警戒しながら過ごそうと決めた。
火事から四日後のこと、僕はミラ先生から思いも寄らないことを頼まれた。
「グレアム先生は身寄りがなくて、アーサーのお父様が父親代わりだったようなの。それで、アーサーのお父様――フィッツバードさんが遺体を引き取ることになったそうよ。その時に、グレアム先生のことを聞きたいと頼まれたのだけど……」
状況が呑み込めていない僕に、ミラ先生は言いづらそうに続けた。
「あなたは、グレアム先生に最後に会ったでしょう? 思い出すのはつらいと思うけれど、私たちに教えてくれたことを、フィッツバードさんにも教えてあげてくれないかしら」
正直、気が進まなかった。家族同然の人を失った人に、どう接すれば良いのかわからない。しかも、息子のアーサーに続いて二人目だ。ミラ先生が心配しているように、グレアム先生が苦しんで亡くなったことを思い出すのも気が滅入る。
即答できない僕に、ミラ先生は言葉を重ねた。
「ノアはアーサーと同室だったから、頼みづらくて。どうしてもダメなら、私があなたから聞いたことを伝えても良いわ」
お願いします、と喉まで出かかったが、思い直した。これは、あのネクタイピンがアーサーのものか尋ねるチャンスだ。グレアム先生が学園に来た理由も、直接的ではなくとも探れるかもしれない。
「わかりました。僕で良ければ引き受けます」
ミラ先生はほっと息を吐き、笑顔になった。彼女が去っていく背中を見た時、少し後悔したが、僕だってノアの役に立ちたかった。先走るなという彼の言葉がちらついたが、たぶんこれくらいなら許されるだろう。
そしてその週の土曜日、フィッツバード氏がやって来た。すらりと背の高い紳士で、丈の長いコートにスーツ姿だった。僕の父親よりは年上だろう。杖をつき、片足を引きずるようにして歩いており、あまり覇気はなかった。彼がここに来た理由を考えれば、疲れていて当然だけれど。
「こちらは本土より寒いね。風が強いせいだろうか」
応接室で二人きりになった後、フィッツバード氏はにこやかに口を開いた。僕の緊張をほぐそうとしてか、僕の出身の話や彼の日本の印象など、色々な話題を振ってくれた。少し話しただけでも、頭の回転が速く知識が豊富な人だとわかった。先日の“たとえ話”を聞く限りアーサーはとても優秀だったはずで、その父親である彼も当然のように頭の良い人なのだろう。
「私は大学で細菌学の研究をしていてね、頼まれてこの学園で講義をしたことがあるんだ。アーサーが四年生の時だが、その頃と生徒たちの雰囲気が変わったね」
苦言を呈されるのではとドキドキしながら聞いていたが、彼は僕を安心させるように微笑んだ。
「変わったというのは、良い意味でだよ。当時は生徒たちに質問をしても、面白い答えが返ってこなかった。きちんと調べてくれたのかもしれないが、『正解』しか口にしてくれない。それで少し意地悪な聞き方をすると、黙ってしまった。そして一斉に、スマートフォンに助けを求めていた」
「それは……失礼ですね」
講義中に携帯電話をいじるのを見たら、嫌な気分になるだろう。
「いや、私は興味深いと思ったよ。どうすればわからなくなったら、まずスマートフォンに相談する。生徒のほぼ全員が、同じ行動をしたんだ。しかし同時に、そんな教育をしている学園に息子を通わせていることが、少し不安になった。彼らは自分で何も考えられないのではないか、と思ったんだ。講義の場以外でも、皆が友人の顔よりスマートフォンばかり見ていたしね」
「そうなんですか? 今はそんな風には」
「そうだね。少し見学させてもらったけれど、縋るようにスマートフォンを見ている子はいなかった。研究者の立場では、もうしばらくその現象を観測してみたかったがね」
「何か、きっかけがあったんでしょうか」
彼に尋ねるのも変な話だと思ったが、僕には何も思い当たることがなかった。フィッツバード氏は灰色の目を微かに見開き、僕を正面からじっと見つめた。
「さて、私にもわからないね。先生たちに聞いても変化があったことすら気づいていなかったから、私の思い違いかもしれない」
僕の理解力が足りないのかもしれないが、結局何の話かよくわからなかった。
しかし、ここまではおそらく前置きだったのだろう。出された紅茶をすすり、ソーサーとカップをテーブルに置いたのが合図だった。フィッツバード氏はテーブルの上で手を組み、口を開いた。
「ニールが建物の外に逃げた後、君とノアが彼を安全な場所まで運んでくれたそうだね。本当にありがとう」
「でも、僕は結局グレアム先生を助けられなくて……」
「それは君が気に病むことではないよ。君の勇敢な行動がなければ、ニールは誰にも看取られず死んでいた。それが私にとっても救いなんだ」
優しい言葉に、僕のしたことも無駄ではなかったのかもしれないと思えた。これから先も、きっと何度もあの光景を思い出し、胸が苦しくなるだろう。でも、少しだけ心が軽くなった気がした。
「彼は最期に、何か言っていなかったかい? なんでもいい、聞かせてほしい」
僕は感情に振り回されないように、なるべく淡々と答えた。そんなはずはないのに、あの時の焦げた臭いを感じた。
「グレアム先生は、火傷のためか苦しそうで、声が出ないようでした。だから、言葉は聞けませんでした。でも、その代わりに、ネクタイピンを握って何かを伝えようとしたんです」
「ネクタイピン?」
フィッツバード氏が、興味を持ったように身を乗り出した。
「クジラのネクタイピンで、裏側を見ると、to Aと彫られていました。もしかして、元は亡くなった息子さんのものだったんでしょうか」
少し間があって、彼は頷いた
「ああ、思い出したよ。息子の荷物を引き取りに来た時に、彼の机の引き出しにしまわれていた。ニールが欲しいと言ったのであげたんだ。そうか、彼があれを……」
フィッツバード氏が目を伏せ、沈黙が落ちた。かけるべき言葉が見つからなくて、僕はほとんど中身のなくなったカップを傾けた。目を伏せたまま、フィッツバード氏は言った。
「ニールは、アーサーを弟のように可愛がってくれた。だから、この学園でアーサーが死んだと聞いて、どうしても自分で確かめずにはいられなかったのだろう」
口を開くと下手な相槌を打ちそうで、僕は無言で頷いた。
「もっと直接的な表現をすれば、アーサーは事故ではなく何者かに殺されたに違いないと考えていた。まるで、悪魔に憑りつかれてしまったようだったよ」
「……あなたも、アーサーは殺されたと思っているんですか?」
どうしても抑えきれず、聞いてしまった。フィッツバード氏は僕の質問に、なぜだか少し笑って答えた。
「私にはわからないよ。でも、仮にあの子が殺されたとして私が最も憤りを覚えるのは、。犯人ではなくこの学園だよ。碌な捜査もせずに事故と断じ、できる限りその一件を伏せようとした。さらに、この島からその件に関して調べられないようにしている」
「インターネットの制限がされているという話ですか?」
普通の生徒は知らないはずなのに、ついうっかり口を滑らせてしまった。フィッツバード氏の目がカッと開き、ぎらついていた。
「その通りだよ、この学園の教員たちはおかしい。彼らは間違っている。しかしそれを示す証拠が、なかなか手に入らなかった。だから、自ら検証し、証明することにしたんだ。これであの子も報われる」
最初とは別人のようになってしまったフィッツバード氏を前に、僕は気圧されるばかりだった。グレアム先生が悪魔に憑りつかれたようだと言っていたが、この人の方が狂気に陥っている。
折よく、廊下を歩く足音が聞こえてきた。軽やかなノックの後、ミラ先生が顔を出す。
「フィッツバードさん、あと三十分ほどで、船の出航時刻です。車でお送りしますわ」
「ありがとうございます。足が悪いもので、助かります」
立ち上がったフィッツバード氏は、再び穏やかな紳士に戻った。呆然としている僕に、何食わぬ顔で握手を求めた。
「君と話せて良かったよ。君の友人にも、よろしく伝えてくれ」
友人とは、ノアを指すのだろうか。彼の計画する報復に、ノアも巻き込まれはしないだろうか。僕の中で、嵐のように不安が渦巻いていた。握った手は、骨そのものではないかと思うくらい細く、そして冷たかった。
「カイ、僕はもうダメかもしれない……」
教室で項垂れる僕を見て、カイが励ますように肩を叩いた。
「大丈夫だって。まだ挽回のチャンスはある!」
定期試験の結果が返却されたのだが、僕の点数は散々だった。試験勉強はいつも通りやったはずなのに、グレアム先生のことでぐるぐると考えてしまい、頭に入ってこなかった。来年もこの調子だと、クラス降格の危機だ。
「カイはなんだかんだでキープしてるから、すごいよな」
「……いや、そうでもないよ。来年はダメかもな」
いつものように前向きな言葉が返ってくると思ったら、カイは沈んだ顔をしていた。今のところ何も問題がなさそうなのに、どうしたのだろう。戸惑っていると、彼はパッと表情を変えておどけた。
「なーんてな。まあ最後はどうにかなるって」
「なんだよ、人が落ち込んでるときに」
どうやらからかわれたらしい。僕を元気づけようとしてくれたのだろう。
彼のおかげで僕の気分は少し上向き、クリスマスパーティーもちゃんと楽しむことができた。もちろん、グレアム先生の安らかな眠りを祈ることは忘れなかったけれど。
クリスマスパーティーが終われば、ホリデーは目前だ。気づけばあっという間に、今年最後の授業だった。授業が終わると、クラスのみんなが解放感に満ちた顔で教室を出ていく。たぶん僕も同じような顔で、カイと共に教室を出た。
「オレはフットボール部に顔を出してくるよ」
言うや否や、その背中がすぐに小さくなる。しばらく会えなくなるから、挨拶して回るのだろう。僕も天文部に足を向けた。
部室のドアを開けると、今日は三人とも集合していた。心なしか、彼らもゆったりした表情に見える。
「やあアオ、今日は良い天気だね」
「ええ、言われてみれば、よく晴れていますね」
エリアスの突拍子もない発言につられて、窓の外を見る。ここ数日は分厚い雲が居座っていたが、今日は青空が見えていた。エリアスがばね仕掛けの人形のようにぴょんとソファを降り、宣言した。
「今年最後の活動だ。天体観測をしよう!」
そうして僕は、夕食後の午後八時、寒さに震えながら空を見上げていた。セーターの上から一番分厚いオーバーコートを着てマフラーも巻いたが、それでも寒い。歯の音が合わず、吐く息は真っ白だった。しかも間の悪いことに、雲が出てきたせいで星が一つも見えない。
「ははっ、参ったなあ。昼間はいけると思ったんだけど」
エリアスが妙に高いテンションで笑い声を上げている。寒すぎて、ネジが飛んでしまったのかもしれない。
「星も見えないことだし、戻らないか? 風邪をひいたらホリデーが台無しだ」
セドリックが常識的な意見を口にした。もちろん僕も同じ意見だ。
「じゃあ、校舎を一周したら戻ろうか」
「校舎って、どこの――」
ノアが一つの校舎を指さし、意味を理解した。今日はホリデーの前日。去年の同じ日、アーサーは校舎の屋上から転落し亡くなったのだ。
僕らはところどころに薄く積もった雪を踏みしめながら、校舎の方へと歩を進めた。ふと思い出し、ノアを振り返る。
「グレアム先生が持っていた注射器の中身、何かわかりましたか?」
「こらアオ、これからせっかくのホリデーだから、きな臭い話はやめようと思ったのに!」
陽気にはしゃいでいたエリアスが、テンションの高いまま僕に文句を言う。
「すみません。でも、気になって。それに、きな臭いってことは持病の薬とかじゃなかったんですね」
エリアスがしまったという顔で目を逸らした。セドリックは呆れ顔で、ノアは愉快そうにしている。
「注射器の中に入っていたのは、ヨウ化プラリドキシムだよ。有機リン系農薬の解毒剤だ」
「解毒剤……。毒ではなく?」
誰かに毒を盛られることを予想していたのだろうか。僕が首を捻っていると、エリアスが言った。
「君が言うように、解毒剤だけを所持しているのは不自然だ。となれば、グレアム先生は一緒に農薬も持っていた可能性が高い」
「でも、ポケットには何も入っていませんでしたよ」
「既に外に出した後だったんだよ。でも痕跡は跡形もなく消えてしまった。なぜなら――」
「ゲストハウスの中で燃えてしまったから」
エリアスは正解だとにっこりした。人差し指を立て、続ける。
「まず一つ考えられるのは、解毒剤を自分のために持っていた場合。殺したい相手と一緒に農薬を飲んだとしても、自分は助かる。相手が警戒していたとしても、同じものを口にしていたら安全と判断するだろうし」
ニ本目の指を立て、エリアスが言う。
「もう一つは、交渉の材料にする場合。相手に何か聞きたいことがあって、毒を飲ませた後、死にたくなければ教えろと迫る。まあこの場合、悪い奴は本物の解毒剤を用意しないかもしれないけどね」
「どちらにしても、グレアム先生は誰かに会うために、ゲストハウスにいたわけですね」
「ゲストハウスは予約が入ってなければ人が来ないし、密会するにはうってつけだからね」
グレアム先生と会う約束をしていた誰かは、約束に応じると見せかけて、彼を殺した。動機はおそらく、アーサーの死に関することだ。グレアム先生は、それを調べるために動いていたのだから。
「西部劇の決闘みたいなものだね。振り返ってパン、ってヤツ。グレアム先生の方が、ちょっと遅かった」
エリアスは人差し指を銃口に見立ててふうと息を吹きかけ、話を締め括った。
「そういえば、アオはアーサーの父親に会ったんだよな。どんな様子だったんだ?」
セドリックに問われて思い返すと、まだひと月も経っていないのにずいぶん前のことのような気がした。
「正直に言うと、怖かったです。最初は穏やかだったんですが、アーサーの事故をちゃんと調べなかったと学園の対応を非難しているうちに、ヒートアップしていって……。最後は、この学園の教員がおかしいことを証明する、とか」
ギラついたフィッツバード氏の目を思い出し、背筋が寒くなった。
「息子を失った悲しみが、間違った方向に行ってしまったようで」
フィッツバード氏が豹変した時の様子を説明すると、三人は意外そうな顔をした。ノアが代表して理由を教えてくれた。
「僕が見たあの人は、息子であるアーサーを駒の一つとしか見ていなかった。自分が闘争に負けて怪我をしてから、息子にすべての期待を押しつけるようになってね。アーサー自身も、両親の愛情を感じたことがないと言っていた」
「でも、僕には息子を失った悲しみが、学園への恨みに繋がっているように見えました。単なる駒だったなら、報復を口にしたりするでしょうか」
「演技だよ、演技。良い父親を演じていたんだ」
エリアスが顔をしかめながら吐き捨てる。
「それにしては、証拠がどうとか、話が具体的すぎないか? わざわざアオだけに聞かせるというのも、奇妙だ。まさか本当に、何か企てているんじゃ……。いや、彼の口ぶりだと既にことが起きているのかもしれない」
セドリックは意見を求めるように、ノアを振り返った。
「アオに聞かせれば、俺にも伝わる。そういう意図なら、二人きりの場で言った理由もわかる。それはともかく――」
ノアは小さくため息をついた。
「失ってから息子のために行動を起こすなんて、遅すぎる。生きているうちに向き合うことができれば、アーサーだって……」
エリアスがノアに寄り添い、慰めるように肩を叩いた。
「それでも、愛情が永遠に芽生えないよりは良いさ。……よし!」
唐突にエリアスが大きな声を出し、僕らを見回した。
「みんなで写真を撮ろう! 今年最後の記念だ」
「じゃあ、僕が撮りますよ」
スマートフォンをエリアスから受け取ろうとしたが、さっと躱されてしまった。
「みんなって言っただろ。君も入れてだよ」
スマートフォンは一番腕の長いセドリックの手に渡り、僕らは身を寄せ合って写真を撮った。
その時、なぜかはわからないけれど、切なさが胸を衝いた。来年にはエリアスとセドリックが卒業し、もうここにはいない。僕らの時間が交わるのはこの学園で過ごすひと時だけで、卒業したら道は分かれてしまう。それがとても寂しいことのように、その夜は思えた。
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