ゲットだぜ!

 私の名前はポルテ。

 自分で言うのもなんだけど、かなりかわいい方だと思う。


 ムキムキマッチョな冒険者の界隈ではだろ?ですって⁈

 いやいや、普通に王都歩いてる子と比べたってかわいいから。

 なんなら私、王都で「かわいいね」って声かけられたことあるから。

 —— 昔々幼女のころ、王都に旅行して知らないおばあちゃんに言われただけだけど。


        *


 もともと冒険者になるつもりなんて全くなかった。


 まあ、うちの地元はほとんど街の外に就職する人なんていなくって、それこそパン屋の息子の秀才くんくらい。

 私も学校出たら近所のお店で働くんだろうな〜って漠然と思ってた。


 ある日、たまたまテレンビでスヴェルテ魔法神学校のギガントマキアがやってて。

 私、それまでは全く興味なくって観たこともなかったのよね、ギガントマキア。


 テレンビつけたらやってたから、チャンネル変えようと思って ——

 そこで釘付けになってたわ。私と同じくらいの歳のひとりの少女の姿に。


 彼女はやることなすこと本当にずるくて、ひどくって——

 —— いつの間にかずっと彼女を目で追いかけてた。


 最後に彼女が優勝し、空に「Congratulations! Kriemhild !!!」のネオンが浮かんだときに、なぜか感動のあまり泣いている自分がいた。


        *


 それ以来、私は彼女のことをどんどん知りたくなった。

 彼女がクリムヒルト・フォン・バウムスという名前であること。

 王都に住んでいること。

 家は代々の公爵家で、お父上が王国大四公、宰相のギルム殿であること。

 このギガントマキアが終わった直後に、特例中の特例で一年で魔法神学校を卒業したこと。


 —— ただし、それ以降の消息は田舎にある私の地元には全く入ってこなかった。


        *


 次に彼女の名前を聞いたのは、『Kriem N°5』。


 —— 驚いた。

 彼女がいつの間にかトップクラスの冒険者になっていたこともだし、そしてポーションで世界的なセレブになったことにも。



 『Kriem N°5』は私の地元でも知らないひとがいないくらい有名になった。


 —— 私は密かに誇らしかった。

 私が彼女を知ったのはそんな直近のブームからではなく、初めて彼女が表舞台に登場したあのギガントマキアからだったから。


        *


 私は彼女のいるダンジョン・ティンブクトゥに行く決意をした。

 そのためにはどうしても冒険者にならないといけない。


 でも、私の地元で冒険者になろうなんてひとは、未だかつていなかったようだ。

 冒険者になるためのギルドすらなかった。


 もちろん両親も友達もみんな反対した。


 「馬鹿じゃないの?」って。


 「あなたが冒険者になったって、ダンジョン・ティンブクトゥに行ったって、彼女は遠い遠い存在の世界的セレブなのよ。会えるわけないじゃない」って。


 「あなた、自分がだか分かっているの?」って。



 それでもダンジョン・ティンブクトゥで彼女と同じ空気を吸うだけでもいい、一目でいいから遠くからでも見てみたい。

 そんな強い思いは誰にも止めることが出来なかった。


 みんなの反対を押し切り、ほとんど絶縁状態で地元を離れた。

 知らない街に行き、ようやくギルドで冒険者として登録してもらえた。


        *


 ダンジョン・ティンブクトゥへの旅は私には大変な試練だった。

 深い大森林の迷路をひとりさまよい、ほとんど死にかけながら数ヶ月かけて奇跡的に辿り着くことができた。


 幸いなことにダンジョンに潜るために仲間を募集していたパーティーがすぐ見つかった。

 彼らも初心者の集まりで、これから初めてダンジョンに潜るらしい。

 初心者なので数だけは集めようと、広く仲間を募集していたのだ。

 私が入り、これで十二人もの大所帯パーティーになった。


 「これだけ人数いるパーティーはそうそうないだろうから、少し活躍すれば有名なパーティーになるんじゃない?」


 彼らは互いに興奮気味に夢を語り合った。

 私も初めてのダンジョン探索に胸が躍った。


 —— しかし、そのときめきは一瞬でもろくも崩れ去った。


 素人だけのパーティーで、世界でも最難関と言われるダンジョン・ティンブクトゥに挑んだ私たちは手荒い洗礼を受け、這々ほうほうていで地上に逃げ帰った。


 それから一ヶ月。私たちは挑戦を続けていた。

 そして、なんとか3階層まで進めるようになった。


 しかしパーティーはその間に一人抜け、二人抜け ……

 —— いつの間にか三人にまで減っていた。



       ◇◆◇◆◇



 「—— と、言う訳なんです」


 長かったポルテの冒険譚がようやく現在に近づいてきた。


 さきほどの私たちのポルテ捕獲大作戦が見事に成功、みんなが集合した。

 立ち話も何だったので、場所を1階層目から地上に移し、ポルテとアスタルテ、フリッガ、ロティー、カオリン、私クリムの6人はダンジョン・ティンブクトゥの外の食事処で夕食を取りながら、軽く話しをしようと思ったところで、ポルテの突然のひとり語りが繰り広げられたのだ。


 もちろん先ほどの服のままなので、私は白ずくめの格好だ。

 なぜこの服をチョイスしてしまったのかは …… 自分でもなぞだ。



 「—— そして、今日 残るふたりが冒険者を辞めることになり、とうとう私のパーティーが解散することになりました」


 なんかすごい、ある意味強烈な経歴だな。微妙に突っ込みづらいし。


 オルタクリムがささやく。

 『彼女って、Kriemerクリマーっていう人種じゃないの?』


 多分そうだ……

 私もお会いするの初めてだわ。


 まさか私がダンジョンでかわいい子だと思ってたまたま目を付けていた女の子が、私の熱烈なファンだったとは。


 ロティーとカオリンが私に言った。

 「それでクリムちゃん、どうする? 彼女を雇うの?」

 「いやいや、やべーんじゃないの? 彼女は。なんか知らんが、めっちゃ地雷な気がするぞ」


 フリッガが彼女を援護する。

 「私はむしろこんな熱い魂もったやつなら大丈夫だと思うけどな。クリムのために頑張るだろうし」

 そして、アスタルテの方を見た。

 「まあ、一緒に働くアスタルテと、雇い主のクリムの意見で決まりだけどな」


 「私は、ポルテちゃんと一緒に働きたいわ」とアスタルテ。


 「私のこと覚えていない?」


 ポルテがアスタルテをまじまじと見つめた。

 「どこかでお会いしたことがあるような……」

 驚いた表情でポルテが小声で叫んだ。

 「あ! ひょっとしてギルド組合のお姉さんですか!!」

 ぱっと立ち上がり、ポルテが深々と頭を下げた。


 「あのときは本当にありがとうございました! 生きるか死ぬか、非常に切羽詰まっておりまして、いろいろと便宜を図ってもらい、誠に感謝しておりますです」


 アスタルテも懐かしそうにポルテの頭をなでた。

 「アメーバーも殺せなかった女の子がこんなに成長するなんてね——」


 おいおい、それじゃ冒険者の試験に合格しないだろっ!

 どんなズルして試験パスさせたのか、アスタルテに聞くのも怖かった。


 「今ではアメーバーは余裕です! 三回くらいターンもらえればなんとか退治できるようになりました!」

 嬉しそうに語るポルテ。


 そんなレベルでよくダンジョンに潜っているな。ある意味度胸すごいな。


 「私、魔物は退治できないんですけど、逃げ足だけは速いんです」

 ポルテが今日最高の微笑みを浮かべた。


 彼女の表情はとても魅力的だった。

 その瞬間、近い将来、彼女に魅了されて店に入り浸る冒険者たちの姿が脳裏に浮かんだ。


 「よし、ポルテ! キミに決めた!」

 握った拳をポルテに差し出し、私は高らかに宣言した。


 「よろしくお願いします!」

 ポルテが拳を突き出し返して、互いの拳を軽くぶつけ合うと思いきや、ポルテが空中にジャンプしてでんぐり返しした。


 「ぽん!」

 

 ポルテの体が煙とともに消え失せ、小さなたぬきに化けて私の手のひらに飛び乗った。


 「え〜っとどういうことでしょう?」

 状況が理解できない私は、誰に聞くともなく周りを見渡して助けを求めた。


 『あれじゃな。『キミに決めた!』と言えばあのポケット的な魔物モンスターがボールに入るあれじゃろ。彼女はボールに入ろうとしたのではなかろうか』

 灼熱竜がまたまた宇宙的な規模の統合思念体にもなれそうな知識から叡智を授けてくださった。


 「かわいい!」

 おい、私と固く握手を交わしたときのブラッディ鮮血の・ロティーはどこいった?


 「ふふふ。もふもふだな、もふもふ」

 脊髄反射で生きているカオリンは、一瞬で私のところに移動して、すでにたぬきの毛を堪能していた。


 「うまそうだな」

 フリッガがチョコを食べ終わった指を舐めながら、冗談とも本気とも付かぬ口調で言った。


 もう、この三人には期待しないことにして、アスタルテを振り返った。


 「そうなのです。彼女は珍しい『たぬびと』族なのです ——」


 た・ぬ・び・と! はいキタ————!

 『たぬびと』キタ———!

 そうです、そうですよね。分かります。

 決まってますよ、はい『たぬびと』に間違いないです。


 って、『たぬびと』なに?


 こんな時は灼熱竜の出番だろう。

 『知らんぞ。この世界にも人間以外の種族がいるが、『たぬびと』はわしの知識の中にも入ってはおらんな。ここまでレアな種族も珍しい。ぜひ近くで観察したい』


 灼熱竜も聞いたことがないとはすごいレアだ。

 そんなレアな子を雇い入れてよいのかは分からないが、めっちゃ得した気分であることは間違いない。


 「では、ポルテちゃんを『サマルカンド・ブルー』に雇うことで決定ね」

 ロティーが仕切り直す。


 「では、クリム オーナー、最後にひと言 ———」


 みんなが期待して、私に向かって座り直した。

 ポルテは潤んだ目で見つめている。


 「え〜っと、 ——— ポルテちゃんゲットだぜ!?」



 6月初旬にしては冷たい風が流れた。




———————————————————

次話『聖地巡礼』へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る