勇者パーティーを追い出されたスライム編

旅の仲間たち

 俺はスライム。とあるなんの面白みもない辺境の地に住んでいて、ひょんなことから里を守る救世主に祭り上げられた、ただの落ちこぼれスライムだ。


 その実体は、里の無味乾燥な毎日にうんざりして楽しげな冒険目当てに、勇者パーティー御一行様に加わることにした、小狡くも賢いスライムである。



 勇者さんたちがはるばるここにまで旅してきた目的は、砂漠の奥にある洞窟の灼熱竜を退治することらしい。


 洞窟までは非情に厳しい道程続き、洞窟の中も強い魔物ばかりの迷宮。


 ラスボスの灼熱竜は神の加護でもないと絶対に勝てない、と古くから人間界で言い伝えられているらしい。


 勇者らしい偉業を成し遂げるためにどうしてもクリアしたいそうだ。


 また、そのついでに洞窟の奥にあるという伝説の聖剣や防具を諸々ゲットして、一足飛びに高ランク勇者の仲間入りを狙っているとのこと。非常に現金な性格だ。


 竜と戦うのを楽しみにしている彼らに、俺が竜を食べてしまったことを言い出せなかったが、洞窟まで道案内して仲間の役に立とう、何なら彼らが竜を倒したことにして手柄をすべて彼らにあげようと決心していた。


 勇者たち旅の仲間との初めての冒険にワクワクした。

 

 しかし、俺のそんな野望は早速裏切られた。


 旅の仲間として加わったと思っていたのに、彼らにとって俺はただのテイムした魔物の一匹にすぎなかった。


 「ほら、スライム。このあたりで水と食料を探してこい!」


 彼らのための使役を期待され、旅の道具としてこき使われる毎日。


 しかも俺は圧倒的に水を探すのが苦手であった。

 伊達にスライムの里で歴代ナンバーワン落ちこぼれのレッテルを貼られていない。


 最初は俺を「かわいい」ともてはやしてくれていた修道女さんも、今では水も満足に探してこられない残念なスライムを見る目になっている。


 『こんなはずじゃなかった……』


 俺は満天の星が浮かぶ夜空を見上げひとり寂しく嘆いた。


 俺ひとりを寝ずの見張り番にしてご主人さまたちはぐっすりと眠っている。

 なんとか起死回生のホームランをここで打てないものか。そんなことばかり考えてる最近の俺。


 『そうだ! 最近戦っていないからすっかり忘れてたけど、俺ってばめっちゃ強かったはず。強い魔物を退治すれば俺の評価ぐんと上がるぞ⁉』


 なんか情けない考え方のような気はするが、俺の立場がこれ以上悪くならないためには背に腹は代えられない。


 なんとかならないものかと触手を合わせ星に祈りを捧げた。

 その手には光る『聖なるスライムの指環』が。


 流れ星が瞬いた。


 「ギャオ————————オオオオオ!」


 とてつもなく大きく深く重い鳴き声。


 俺の願い?が通じたのか、パーティーが休んでいる目と鼻の先に体長 100mはあろうかという巨大なサンドワームが出現した。


 「みんな起きろ———!」叫ぶ俺。


 寝ぼけまなこのみんなはサンドワームを見ると一瞬で覚醒し、武器を片手に起き上がった。


 しかし、この面々は圧倒的に弱い……


 彼らの武器ではサンドワームに傷ひとつ付けることも出来ずに、逆にサンドワームの軽くいなすような攻撃にも簡単に吹き飛ばされてしまう。全滅も時間の問題だ。


 俺はサンドワームの攻撃を避けながらも、仲間を必死で庇い、少し離れた安全地帯までみなを運んだ。


 『次は俺のターンだ』

 

 威嚇のためにスライムボディを極限まで大きく伸ばす。

 里での露集めの日々が役に立ち、俺は器用に巨大な薄皮状の保湿シートになって拡がった。


 サンドワームが俺を襲う。

 思わず声が出た。


 「暴食の嵐—————!」


 それとともに俺の体に力がみなぎり、金色の光を放った。


 その瞬間、俺の薄く伸びた豊満ボディ保湿シートが襲うようにサンドワームを包む。


 暴れ狂うサンドワーム。じわじわと、しかし確実に、サンドワームの姿がかき消え、俺の薄皮ボディに包まれていく。


 最後の強烈なあがきが俺に通用しなかったサンドワームは突然力を失った。

 みるみるサンドワームの全身がまんじゅうの薄皮に包まれる。


 勝った!


 サンドワームの全身はどんどん俺に吸収され、食われていく。

 最後のひとかけらまであまさず食らった俺は、薄皮から元のかわいいスライムに戻った。

 

 呆けた顔でサンドワームとの攻防を見つめていたパーティーの仲間たちがようやく正気を取り戻した。


  「なんてことしてくれるのよ—————!(怒)」


 一瞬何を言われたのか理解できない俺は、罵声を上げた修道女さんを見つめ返す。


 「せっかくの高ランク魔物だったのに——! こんな倒し方じゃドロップアイテムも魔石も手に入らないじゃないの! 」

 

 俺が倒さなければパーティーは確実に全滅していた。

 それなのに倒し方で罵倒されるとは、理不尽な俺。

 

 「サンドワームは肉や素材としても高値で売れるからな。至極残念無念だ」

 スキン頭の戦士さんが残念そうな声でつぶやく。


 「彼ももっと倒し方、工夫してくれないとだめだよね」

 ダメ出しする金髪勇者さん。


 「ほんと嫌になっちゃう」

 修道女さん、そんなキャラでしたっけ?


 「彼も次からはきちんとそのあたり考えてサポートしてくれるはずだよ。まだ失望するのは早い。私たちがこれからしっかり調教してあげないとね」

 勇者さんはキラっと輝くその自慢の金髪を上にかきあげ、ウィンクする。

 

 あれ? 勇者さん。俺、実はテイムされていなくて自主的について来ているだけなんですけど。


 修道女さんもすっかり切れキャラ定着してるし、スキン頭戦士さんもいいアニキキャラから小言おじさんになってしまった。


 楽しい旅の仲間たちはどこいってしまったの——⁉


 

 その後も、魔物が現れると彼らは隠れ、俺だけが戦い、みんなはドロップアイテムも手に入らなければ経験値も積めないという悪循環が続く。


 理不尽ながらも、あきらかに言葉数が減り、不機嫌そうになっていく旅の仲間たち。


 こんな雰囲気の彼らに、洞窟の灼熱竜をすでに俺が食べちゃったとか絶対に言えない、言えるわけがない。



 俺はスライム。とあるなんの面白みもない辺境の地を仲間と旅する、ただの強いスライムだ。


 そんな陰鬱な旅でも徐々に洞窟は近づいてくるのでした(涙)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る