第4話 頭、脳戦

ユウヤがハンスに思考する時間を与えぬようにカイマとスライムを繰り出した。


「行けっ! かき乱してやれ」

「召喚獣、守ってくれ!」


 ユウヤから鼻血が流れ出る。

(ユウヤから鼻血と魔物を出た。鼻血は思考を分けてから急にだな。……調教師テイマーの隷属紋が見えないぞ。アビリティの効果か?)ハンスはそう考えながら、前線にでて直接ユウヤを狙う。


「『想重思想ソウラー』」


 ユウヤの横腹に杖でじかに殴られた。「カッ」と言葉にならない声を吹き出して倒れる。

(殴り召喚士サモナーかよっ)

想重思想ソウラー』はその場に仲間が入ればいるほど威力を上げるスキルだ。隠し技として本体の弱い召喚士が持つことはざらにある。

 ハンスがとどめをさそうと手っ取り早くユウヤの首を狙う。

 しかし、その程度でユウヤが終わる訳もなく、ハンスを蹴りながら一気に起き上がった。


(召喚獣の力と互角――)

(――早めに決着をつける)

(手数を増やす!)

(中にいる奴の技を使う!)


召喚サモン!」

「『動きを止めろ』」


 ハンスは召喚の途中で邪魔をされて召喚が中断される。


「動けな……!」


 魔物の事を考え、思考のピースの一部は揃った。


(召喚獣の思考を乱す、そして魔物を操っているアビリティ。……まさか、ユウヤの能力は、乗っ取りか!? 仲間を失うのは……!)

召喚サモンリリー…ス」

「引っかかったな……!」


(負担が軽くなったが、あの量を耐えられたなから、共鳴の力を!まだ!使える!)


 ユウヤが共鳴の力を強めながらハンスの首を右手の剣で突き刺すが、右手を捕まれ顔を殴られる。

 さらにハンスは頭突きをして、ユウヤがひるんだところで後ろに下がった。


「……。……」


 ハンスの首の傷がシューっと音を経てながら治る。


「(頭がクラクラする。貧血……それもあるが、共鳴の力を強めたな?)やってくれるぜ」

「そっちこそ」


 ユウヤが突進し、ハンスはそれが当たって姿勢が崩れた。


「カイマァ!」

「舐めんなよ!」


 カイマがハンスに爪を突き立てた。「うおぉお!」とハンスは声を出しながら、スキルを発動させる。


「『火憂相思ヒウソウシ』」


 ハンスの肌がパチパチと音を経てるも、本人は気にせずカイマを殴り飛ばす。ユウヤがスライムの方を見てみるが、良い状況ではない。


「スライム、戻ってこい!」

「なんだ? ふぅ、スライムなんか呼んで、はぁ、盾役か?」

「そうだよ。スキルの内容しってんだ。こっちはよ。多少の能力上昇後、火の玉叩き込む」

「はは」


 ハンスが笑った後、案の定火の玉を出してきたのでスライムを盾にして体を守る。


(お互い、ダメージを負ってんな。手数を増やす。奥の手は最後の最後。手数を)

(やってやらぁ)


 直撃したスライムは火に当たった部分は焦げているが、他の部分はまだ液体が残っており生きていた。


「くそ、アチィ。範囲技だな」


 ユウヤは皮ふの全体がやけどしながら咳き込みをする。おそらくは、肺にもダメージが入っている。ユウヤが中にいる者の森羅万象に近い技の真似事を鍛えていればあそこで勝てたかもしれないが、そんな事は今に関係ない。

 ユウヤがハンスに剣を振るうが、杖で防がれる。


「アイソウカンラク!」


 魔力のオーラをはっきりと感じた。

 しかし、ハンスはスキルの名前を叫ぶが、スキルが発動せず、ユウヤがキョトンとしたところに頭に当てた。

(やばい! 魔力が通ってたから見誤った!)

 カイマがハンスの腹を食い破る!


「チッ、召喚サモン!セット3!」


 ユウヤから大量に鼻血が出る。動きが止まるが、スライムがユウヤを守る。


「ぅ……」

「……奥の手、使うか」


 ユウヤはゴソゴソと服を探って強壮薬を取り出す。ハンスもやる気らしい。


「『時刻む災華摘み《カウントダウン》』」


 ハンスはアビリティをつかって魔力を引き出し、ユウヤは強壮薬を飲んで力を引き出す。なりふり構わない全力戦闘となった。

 突いて、切って、振り下ろして、殴って、蹴って――。


「楽しもう」


 ハンスの言葉に少しだけユウヤは反応した。ユウヤは魔人との戦いで楽しめなかった。しかし、(今では、楽しんでる。やっぱり、スリリングな遊びが好きだ。死なないくらいので……)


「楽しんでる!」

「そうか!」


 ユウヤは顔を殴られまた鼻血を出すことになるが、このままなら押し切れる。

 ハンスがふらりと足の力を失うが言葉は紡ぐ。


「オート!」


 召喚獣の動きが完全に自由となり、ユウヤの思考に多大な負担をかける。

(さらに……)

 ハンスの言葉は続く。


「これから俺は禁則を強める! 思考を縛れ、足を縛れ、愛を繋げ」


 ユウヤが袈裟斬りを食らわせるが、魔法は完成した。可能性は低かった。ただ、召喚獣がオートにした時、協力をしてくれたのだ。

 奴隷紋、もとい召喚士の隷属紋が召喚獣の頭と胸の位置に変わる。

 ユウヤから多大な鼻血と目からの血、今までの血の痰が吐き出る。


「アビリティの弱点、丸見えだぜ」

「奴隷紋……たしか、重要なやつだと胸と頭近くに刻まれるんだっけか? 移動するんだな」

「まぁ、正解だな」


 ((!))

 

 両者ともに膝をついた。



 二人は限界だったのだ。もう――


「最後の一発だぁ!!」


 ハンスが召喚獣を新たに召喚して、契約を果たした。ユウヤに追い打ちをかける。


「はは、最後にカッコ悪いこと、したかな」

「……いや、俺は借り物の力でイキっただけだ。共鳴を解かなかったのは、イジだし。お前は、かっこいいよ。楽しませてもらったしな!」


 ユウヤとハンスは相討ちになる。

 しかし、ハンスが闘技大会を辞退して、実質ユウヤの勝ちとなって終わった

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