第29話 徘徊者

「お〜い、エスタントア〜!」


 冒険者ギルドでユウヤがエスタントアを呼ぶ。エスタントアがユウヤの場所については気付き、向かうと右手に紙を持っているのが見えた。


「おはようユウヤ。ってか右手に持ってる紙何?」

「あぁ、サダバクからいきなりもらった呪符」

「呪符〜?」

「暗視の呪符らしい。片方の目につけるんだって。迷宮に行く前に試そうぜ」


 ユウヤがエスタントアの手を引いて、訓練所に向かった。理由としては、当然だが初めてのものは信用ならないのと呪術を用いて作られているからだ。

 訓練所に着くと、どう扱うのかエスタントアが聞いてきた。


「目につけるらしいよ。なんか片目は影も見えない状態になるっぽい」

「便利ぃ〜、視力のよい方につけてれば見間違いとかも減りそうね。魔法とかスキルの気配察知系統の技が無いからちょうどいい。サダバクが持ってきたっていってたけど、もしかして魔人討伐の報酬?」

「そうっぽい」


 とりあえず、ユウヤは目につけてみる。最初は何も見えなかったが、透過していって元の視界と変わらない状態になった。不思議だが、外側からの視点も似ていて呪符が取り込まれたようにも透過していったようにも見えるようだ。


「あ、目に魔力通したら、影なくなった」

「私もやろ」


 エスタントアも後に続いて試してみる。


 十分に使い心地が分かったところで外そうとするも――剥がし方が分からない。


「外せない! 外せ、ないぃ!」


 エスタントアが軽くパニックを起こすがユウヤは軽くなだめて諦めるように聡した。


「呪術ってこういうもんだよ。威力を引き出すために副作用が多いんだ。基本は魔法とか呪術で解除するが、効力を失うこともあるし付けたままの方がいいな」

「うぅ……呪具とかと似てると思ってたけど、変なの」

「デメリット多い呪具とか比べたら、そら変だよ」


 とりあえず、ユウヤ達は迷宮に潜ってみることにした。気にならない程度には慣れていたが、いざ影を無くして見てみれば異様な感覚がユウヤ達にはあった。

 ゴブリンが現れたので、ユウヤはナイフで首を掻っ切る。魔物を倒しても呪符に反応はなかった。サダバクが贈ったものなので異常な部分は少なめにしているのだろう。

 魔石、強壮薬のために解体をしてみると、内臓等がはっきりと見えてきて少し気分が悪くなった。


「そういえば、強壮薬で血とか使うって言ってたけど、それって呪術なの?」

「呪術だけど……調合術とか錬金術の類でもある。元々は呪術だけで作られてたんだが、協力者によって錬金術などの術を重ねて、出来たんだ」

「ふ〜ん、術を重ねるなんてえげつないわね。覚えるの。苦労したんじゃない?」

「いや? 軽く覚えられたぞ?」

「え? へぇー」


 エスタントアの目が変わった。今まで、友達といった感じで見ていたが、打って変わって尊敬しているような目になった。

 ユウヤは(一つでここまで変わるとは……)と深く人間について考える。


◆■◆■◆■


 五層についてみれば、はっきりと効果を実感した。見えていないものが範囲が見れるというのは非常に気分がいい。ユウヤが五感を堪能していると、音が聞こえないことに気付いた。


『おい! 何かおかしいぞ!』


 声をはっきりと音を大きく出そうとしているのに、体の中で反響する感覚のみだった。体外での音のみが感じない。

 ユウヤはエスタントアの方を見やるが、パクパクと口を動かしているだけだ。ユウヤは耳痛が無いので、耳を傾けたり鼓膜が破れて血が出てないか確認した後に察した。

 徘徊者という者は特殊フィールドを発していて、徘徊者であることが――。


『まずいぞ!』


 意味もないのにエスタントアに向けて叫んだ。

 徘徊者は知られている情報は少ない。基本的に五感の一つを機能出来なくさせる。情報が少ない理由は嗅覚と味覚以外は倒されていないことで、情報が確定していないから噂程度になってしまっている。


「キョキョキョキョキョキョ」


 ――徘徊者らしき者の声だけが聞こえてきた。

 (五層ずつで迷宮のボスらしき魔物が出てくる。いや、各層?十層? 昔に仲間に……いや、昔に出したこの情報も信用できない。サダバクかあのハイエルフさんに相談するか。それにしても、何か制限でもかかったのか? っ、この記憶に――)ユウヤの思考が乱れた。


 カイマは体が反応して、敵の方に向けて警戒する。


『キュー!』

『何、何かあったの?』

『く、そ!』


 会話にならない。カイマには共鳴を繋げて、なんとなく徘徊者のことは分かった。ただ、エスタントアには何も繋がっていないので、分からない。


 魔物は各層に障害にならないレベルの小ボス、五層ごとに出てくる障害の中ボス、十層ごとにしっかりと鍛えれば倒せるボスがいる。

 しかし、徘徊者はその階層に合わせて強さを変えても有り余る魔法五感を奪う力があった。

 そのため、徘徊者はこう呼ばれている――迷宮の悪意――と。


『ハガ◯ンの真理の扉のやつみたいな見た目しやがって』

「キョキョ」


 徘徊者は‘‘黒い’’人型であり、常に笑っていて気持ち悪い見た目。ゲームなどでは愛着あるキャラだったが、漫画でヒョロガリになってフィギュアでは個体差合ったりとネット民から笑われていた。

 ユウヤはエスタントアが意思疎通が出来ないと思い、急いで剣で斬りかかるも避けられてしまう。ただ、そのままでは終わらない。カイマが隙をついて肩の辺りを噛みちぎった。


『ナイス!』

『キュ〜』


 カイマの感情をある程度読み込むと、喜んでいることが分かった。エスタントアも戦闘に参加し、徘徊者に殴りを入れて、吹き飛ばす。エスタントアが徘徊者に向けて指を差したり、徘徊者とは真反対に指を差したりする。

(たぶん、逃げるか戦闘ってことだな。逃げるのは面倒だから戦闘だ)ユウヤはそう考えながら、徘徊者に向けて指を差して、切りに行く。

 その後は短剣を折られながら、倒したため十分な戦果を得たので帰るのだった。


 

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