第16話 一時解散と新しい仲間①〜④
イシィ達と同じ部屋という衝撃で気づいていなかったが、腕が治っていることが感覚的に分かった。
「あ、怪我治っているのに気づいた? 凄いよね。平民の病院からグレード一つ上がったらこーんなこと出来ちゃうなんて」
「……そうですね」
ユウヤは話を切り上げて、病院のことなどは気になっているのに聞かなかった。
「大怪我しちゃって、危なかったよね。クインとか私の親、いや……道場主が金を出してくれたんだ。腕、綺麗になったでしょ」
「性能はどんな感じ?」
「……」
「腕の調子はどう?」
「はは、はっきり言って、一部動かなくなかったり動きが鈍いね」
病院も完璧ではない。そして、ゲームでは一部以外は完璧に治らずデバフとして重くのしかかってくるようになる。ただ――
「ユウヤは完全に治ったよ。奇跡だね!」
「はぁ」
「私達も完璧に治そうとしたらしいけど、結界の効果らしい。サダバクさんも回復魔法で動かそうとしたけど失敗」
「お手上げ」と言って、軽く肩をすくめる。
少しするとクイン達が見舞いに来た。魔法によって運搬、保存が楽とはいえ、貴重なはずのフルーツを持ってきてくれた。フルーツの甘い匂いに誘われて、ラントーテが起き上がった。
「よう! 皆、久しぶりだな」
「久しぶりぃ〜」
クインが椅子に座ってりんごのようなものを切り始めた。
「手術から数日間暇だったよー」
「……」
「そういえば、ユウヤは寝てたから分からないよな。ユウヤは心臓が壊れてて一番やばかったんだが……心臓を再生させてただろ? それで強引に再生に割って入るより、数日間掛けて完全に再生してくれそうな方を選んでくれた」
いきなり食べ物を食べて大丈夫かと言ったが、医者から許可をもらっていたそうだ。ユウヤは歪な発展だなと感じた。
りんごを皿に分けてユウヤ達に渡す。どうやら、このりんごは皮ごとらしい。口に入れると日本のよりも甘さが少なく酸味が強かった。
「フルーツ美味しいね〜」
「そうだねぇー」
「……うん、美味しい」
「良かったです。これはクインさんとナカさんが必至に選んでくれたんですよ」
「へー、ありがとう」
クイン達に感謝を伝えた。おそらく、クイン達も後ろめたさがあるのだろう。少し笑って話ゆ流してしまった。
「これから、どうする?」
「どうするって?」
「冒険者を続けるかどうかって話だ」
ナカが話を続ける。
「俺はラントーテとイシィが冒険者を止めるなら抜けるぞ。冒険者になろうとしたのもお前達の希望があったからだ」
「……じゃあ、ナカはついてきてただけだったってことか? 夢もなく」
「そうだ」
はっきりとナカは断言をした。部屋の雰囲気が一気に重くなる。沈黙の中、イシィが口を開いた。
「私達が先に言った方がいいよね。これ」
「あぁ、そうだな。ナカが聞いてるし」
「私は一旦故郷に帰るよ。それで技をしっかり磨いてここに戻って来る。金稼げないと足のメンテナンス出来ないからね」
足は代償によって消えた。その足を治せば代償の意味はなくなり、悪影響が出てきてしまう。だから、足を手術によって変えて今がある。
迷宮のレベルアップは体を少しずつ変えていき、多少おかしいところは治すので、ある程度レベルアップすると手術をしなければいけなくなった訳だ。
「……ラントーテは?」
「え〜、私も故郷に帰ろうかな。正直、迷宮がないところで焦らずアビリティを覚えるわ」
「それじゃあ、‘‘一旦’’さよならか」
「……そうね。一旦一旦!」
「だねー」
ユウヤは少し悲しむが、また戻って来るという言葉で明るい気持ちになってくる。
「俺も一旦抜ける」
「クイン……」
「親にバレたんだよ」
「クインがバレて、私のこともバレたので私も抜けます。私の場合はもう戻ってこないかも」
「ニィナ」
「一人になっちまうな」ユウヤはベッドに大の字になって寝転がる。
「まぁ、俺とニィナは別だが、イシィ達とは退院するまで一緒だろ?」
「そうだ。ユウヤさん。強壮薬の仕事は大丈夫ですよ。お手伝いさんを雇っておきました。家政婦としても使ってください」
「え? ちょ……強壮薬のレシピ教えたけどさぁ。そいつ裏切ったりしない?」
「従順だよ。ユウヤのために厳格に選んだ」
「マジか」
「……じゃあな!」
クインとニィナがそそくさと去っていった。ユウヤは手を伸ばすが、反応することはない。少しうつむいた後、ドサッとベッドに倒れる。
「……寂しくても新しい仲間が出来ますよ。治ったら同年代の冒険者を探してみればいるかもしれませんよ?」
「グルミ《あいつ》が帰らせちゃう」
「あぁ、トラブルありましたよねぇー」
「……寝る」
「分かりました」
「声量を下げる努力はしとくよ」
ユウヤは眠りについた。そして、数日間やる気もなく入院していると、担当の医師から退院を言い渡された。ラントーテ達はリハビリでまだ掛かりそうだから、荷物をまとめて家に帰っていく。
(家政婦。ラントーテ達の見舞いか)ユウヤはどうしようかと手をこまねいていた。
ユウヤは強壮薬を売る時間ではないと分かっているため、家に帰って一言。「ただいま」と言った。
そうすると
「おかえりなさい」
野太い声が聞こえてくる。だが、意外にも手伝いさんの見た目は十七歳程度の好青年という印象だった。ジッとお手伝いさんの事を見つめていると、突然謝ってきた。
「あのクイン様に「ユウヤには友達のように接していてくれ」と言われましたので、敬語ではなかったのですが、敬語の方がよろしかったでしょうか?」
「いや、ため口で大丈夫だよ」
「そっか。なら、良かったよ。それで帰ってきたけど、何をする? 掃除は場所を変えないように少しだけやっておいたよ。それに食器はしっかりと洗っておいた」
「なら、昼飯頼む」
「はい」と言って昼飯の準備をする。
「上手いね」
「えへへ、ありがとう」
昼飯を食べ終わる。
「そういえばさ、君の名前ってなんだっけ?」
「クレナです」
「いい名前だね」
世間話に花を咲かせた。そして、食事と話が終われば冒険者ギルドに向かう。(この感じで冒険者ギルドで仲間出来ればいいけど)そう思うユウヤであった。
◆■◆■◆■
とりあえず、先輩であるグルミに同年代がいないか聞いてみることにした。ちょっと飲み合いで少し仲良くなったとはいえ、聞く時には抵抗があるので敬語を使う。
「いるが、あいつは遠征に行った」
「遠征ですか?」
「あぁ、他の迷宮を攻略するぞーってな。他のギルドからも冒険者をかき集めまくってて盛り上がってる」
「ここではそういう集まって迷宮に潜ることはないんですかね?」
「最近はないな。ここは割と浅めでも良い遺物が手に入ることも多いし、まぁ一番の理由は金かな。金」
グルミが親指と人差し指でコインの形を作る。(どこでも金は必要か)そう考えるユウヤであった。どうしようか考えていると、ふと疑問が湧いてくる。
「俺と同年代で遠征って若い頃から冒険者やってるんですかね?」
「あいつは十歳の時から冒険者だ」
「えっ?!」
「そんな驚くなよ。別におかしくはないだろ。この時代で十歳が冒険者やんのはさぁ」
「あんたが面倒なことしてるから特殊だと思ってた」
グルミは「けっ」といいながらも笑っていた。
視線を他の場所に移していると、短いがグルミの困惑したような声が聞こえる。グルミの方向を見てみれば、ぬいぐるみを持った女の子が冒険者になろうとしていた。
◆■◆■◆■
ラフトは魔人の会議でいじられていた。
「お前、初心者にやられかけたのかよ」
「私が行った方が良かったんじゃない?」
ただ、ラフトはそんな言葉は意に返さず、借りた呪具を持ち主へと返す。
「とりあえず奴の力量は分かった。これも立派な前進だ」
◆■◆■◆■
グルミがすかさず絡んでいくが、女の子は引く気配がない。会話が気になるので、近寄ってみると年齢の話、仲間の話などをしていた。
「お前みたいな洒落た服着た奴は一生実家で暮らした方が安泰だぞ? まだ、若いんだしよぉ。」
「何かをしてたいんだ。私に……父はいない。いや、母も……いない! それに私は十五だ」
「こいつより年上だろ!」と言いながらユウヤの方に指差した。
「こいつは強いぞ」
仲間は離脱して若いので、グルミの言葉はそこで止まった。
「仲間は今、いるのか?」
「……いないけど」
「なら、私と組め!」
見た目的にも年齢の面でもめちゃくちゃなパーティーが出来てしまった。他にも色々あったが全てロクな結果ではなかった。可愛らしい女の子が別々にいたのだが、一人の反応が「入れたら入ります」でもう一人が驚きながら走って逃げる。
これにはユウヤも衝撃を受けて落ち込んでしまった。
ちなみに男の子もいたにはいたが、一人で行けるところまで行くとか言って仲間にはなれなかった。ちゃんと研修に行っていたが不安だ。
ちなみに最初の子とは、パーティーを組む時に名前を聞いたのだが、エスタントアというらしい。パーティーを組んだ後に彼女は「朝にギルドの席で集合」と言って去っていった。
「そういえば、お前研修以外に戦闘訓練とかあんま積んでないだろ」
そう言って、グルミがユウヤに師匠を紹介しようとしていたが、遠征に行っていた。
「なーんで、皆遠征行っちゃうんだか」
「真新しい戦闘相手が欲しいんだろ……。師匠に至っては死ぬまで現役とか言い張ってるしさ」
「死ぬまで現役って……。冒険者は体が強いですけどそんなの無理じゃないですかね? 特殊な魔法とか使わない限り」
「いや、案外そう言うやつはやり遂げるんだよ。ただ、死ぬ時が辛いらしいんだ。人類最年長のやつはレベルアップが追っつかなくなって急速に老いて死んだ」
「それは怖いっすね」
代償……一覧
「勇気」を持っていると足を持っていかれる。
「正義」を振るえば腕を持っていかれる。
「自己愛」ならば内臓を持っていかれる。
「探究」すればスキルの力を失う。
「悪意」があれば魔法の力を失う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます