第17話 不思議な職と懐かしさ
冒険者ギルドから家に帰ると、ご飯が用意されていた。(酒を飲む時はクレナに先に伝えて置かなければ)と思うユウヤだった。
ご飯を食べ終えると、クレナに冒険者ギルドでの話をした。特段、面白いことは無かったが、クレナは興味津々。ユウヤも話をたくさん出来て気が楽になる。
「暇つぶし? に冒険者になるなんて酔狂なものだな〜。私だったら絶対そんな事をしない」
「まぁ、そうだな。金には困ってない奴だったし、自殺するような奴でも……いや、自殺は明るくなってからする奴も多いかぁ……」
ユウヤに地球の記憶としての人の関係はほとんど覚えてなどいないが、印象に残ってしまう出来事はある。
しかし、ユウヤが記憶を引き出そうとしても、記憶の靄が強くなって、興味も失せてしまう。
クレナが露骨に話題をそらす。
「……あ〜。そういえば、噂程度で聞いたんですけど、最初から‘‘特殊な職’’についてる人もいるらしいんですよね。もしかしたら、そういう人かもしれないっすね」
「それだったらいいね!」
先ほどとは違って明るい反応をするユウヤにクレナは少し驚いてしまった。
夕食を食べ終え、ユウヤはベット。クレナは警備のためか玄関の周辺に布団をしいて寝る。
早朝に起きたユウヤはお見舞いに向かう。朝に冒険者ギルドに行くとクレナに約束してはいるが、疲れた後の夜に行くより良いだろうというユウヤの考えだ。
「あ、ユウヤじゃん。朝早いね」
イシィは起きていたようだ。起こすのも忍びなかったので、運が良かった。ユウヤは自分の拳を強く握りながら喋る。
「今が一番暇、だからね。この後は冒険者ギルドに行くよ。そして、迷宮に潜る」
「へえ。新しい仲間は出来た?」
「出来たよ。変な奴だが、悪い奴じゃないと思う」
イシィの疑問に答えた後、数分ほど話し続けるとラントーテも起き上がる。
「ふぁあ〜〜、おはよぅ。ユウヤ」
「おはよう」
ユウヤは病院にある時間を確認する。
「そろそろ、冒険者ギルドに行くよ。ラントーテ、話せなくてごめんな」
「もぅ〜、子ども扱いして。私の方が年上なのにぃ」
ユウヤは冒険者ギルドに行く。ユウヤがエスタントアを見つけた時、エスタントアは辺りをキョロキョロと見回していた。ユウヤは「よっ!」と言って声を掛ける。
「遅いよ」
「時間指定とかないじゃん。暇な時とかに研修を受けないの? 職業を得た方が……」
「私はもう職業持ってるよ」
どうやら、噂は本当だったようだ。
「それじゃ、訓練所行って試そう」
訓練所に向かうと、最初に特殊な技が無いかを確認した。初級職でも職業を手に入れた時点でほんの少し腕前が上がる。だが、それは普通の職の話であり、彼女は特殊な職なのだ。聞かないことには何も始まらない。エスタントアは喋ってくれた。
「――黒い何かを出せるよ」
「何か?」
「そう。私でも分からないけど、攻撃とか防御にも使える」
「出してみて」
エスタントアの手から蠢く漆黒、されど光を反射する謎の物体が出てきた。エスタントアは周囲の安全を確認し、鞭のようにしならせたり、金属のように硬くしたり、粘土のように造形した。
正直、気持ち悪い物体と言わざるを得ない。
「そ、そういえば、職の名前なんだっけ?」
「確か、『
「まぁ、そうだね。でも、そういう判定をされてるならそう信じるしかないね」
その後は多少の実験を挟んで、エスタントアとユウヤで『共鳴』することになる。
「不快になったら言ってね? さん、に、いち!」
ユウヤはエスタントアと繋がった瞬間、深淵へと繋がるような身の毛のよだつ感覚を味わった。そして、記憶が――見えた。
『あんたさえ、目覚めなきゃ! こんなことにならなかった!』
真っ黒の人物?の首に爪を立てながら締める。ただ、真っ黒の人物はさほど苦しんでいない様子。
苦しい
――いやだ
最悪だ
――私が
殺してやる
――気持ちいい
恨んでやる
――気持ちいい
助けて
――お願い
生きたい
――恨んで
死ねばいいのに
――ごめんなさい
「ワタシの心の中に土足で入ってくるなァ!」
腹に蹴りを入れられて、地面に転がった。精神的なものか肉体的なものか、あるいは両方の影響で吐き気が湧いてくる。
しかし、時間はあるので気分を落ち着かせて、共鳴は諦めて迷宮に入ることにした。
◆■◆■◆■
迷宮の探索は意外にもサクサクと進んだ。エスタントアは魔法のような強力ものを連続して使えるため、敵などいなかったのである。
一層の湧き水のところについた。
「ここで一旦休憩しよっか」
「はーい」
壁を背にして座り込む。
「ここの水って飲んでもいいんだろうか? 毒とか入ってない?」
「入ってないよ。ただ、そうだな。毒が入っていた時のために簡単な呪術を教えるよ」
「呪術……」
エスタントアの反応は渋かったが、毒祓いの呪術を覚えてくれた。
その呪術を実践していると、面倒な冒険者らが通りがかってきた。ただ、少しうざい程度で無視してもなんの害もない奴ら。
「よぉ、いつもの奴らとつるまないで、ま〜たそんな呪術やってんのか?」
「対策は知っておくものだよ」
「その言葉、前会った時も言ってたぞ」
「その話自体は一ヶ月も前だから忘れたよ」
話が続かなくなり、また冒険者の方から喋りだす。
「ふふん、そういや、数日間迷宮内で魔物が急に暴れ出してよ。俺たちレベルを爆上げしたんだぜ。新聞にちろっと名前載って名声もかなり増えた。……もしかして、お前の仲間はその時に、怪我ぁでも、したのか?」
「そうだな。怪我が治って故郷とか道場に戻ったり、親にバレて冒険者を一旦止めて、俺一人だ」
「そうか」
そういえば、名声は今どうなっているのかと確認してみると、バグっていた。
―――
名声???︿○↓∧✳∝¿№
―――
金属プレートを冒険者に見せる。
「え?! 名声ってそんなふうになったりするのか! くっそ〜、負けた。ずらかるぞ」
「は〜い」
冒険者らが去っていく。
「なんなの? あいつら」
「知らないが、まぁ面白いやつだよ」
最後はなんとなく良い感じに纏まっておわった。
◆■◆■◆■
■◆■■■と私は暗い闇の空間でのんびりと優雅に話をしていた。白髮の女は■◆■■■の側に仕えており、会議を見守っている。
「まず、私を話せる状態にしてくれたことを感謝しよう」
「そんなのは、いらないさ。別にこっちに得があるわけじゃない。あんたは今権力とか……いや、権限とかを使えないだろ?」
流石だ、話が早い。私を求めて送り込まれてきただけのことはあるだろう。おそらく、力を完全に出せば亜人種含めた人類の大半を殺せる。私と同格くらいだ。
「まぁ、使えないというのは語弊になってしまう。ちょっとでも素質のある奴に降りることくらいは出来る」
「あんなのところはそういう奴らばっかだもんなぁ。……地上をどうにかしてくれないか? 息苦しいんだ」
私が「降りることが出来る」と言っての言葉。やはり、ここまでの強者の会話は楽でいい。
「おい!」
その言葉に私――
「その変な口調と思考をやめてくれ。やるんなら、いつものだ」
「バレたか」
バレないようにしたつもりだったんだが、やっぱり同じ力だと――いや、そもそも筒抜けか。私は白髮の女を見る。まぁ、当然、動く様子もない。
「……話を戻すよ。地上のあれは干渉しない。はっきり、言っておくよ」
「どうせ、壊れるだろ」
「壊れるけど、それは今じゃない。今、やったら感づかれるよ? それでもいいの?」
「分かった。分かった。諦める」
■◆■■■も薄々――いや、普通に私が最初からそれをやる気力がないことに気づいていたからか、簡単に引き下がってくれた。
――予兆もなく、突然、体を侵食されはじめて不快感と痛みに悶える。
■◆■■■も心配はして助けようとするが、もう延長は出来ないと半ば諦めていた。
「どうやら、話す時間はもうないようだね」
「色々、話したが最後に一つ。このまま俺は進み続けて大丈夫か?」
「多分、大丈夫」
パッと、何もかもが消えた。いや、連れてかれたのだ。■に■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――
‘‘また、探すか’’
◆■◆■◆■
椅子と大きなテーブルのみの空間。ここは魔人達の会議の場所。しかし、魔人達は言い争いをしていた。それは――魔人が抜け出してしまったことについてだ。
サタラナマという名の魔人で、前回の会議でラフトが未来が変わったことを話していた時、「戦いたい」と言って飛び出してしまったのだ。
問題は、
サタラナマの行動は、異様な結界があったとしても不思議な力を行使して復活してくることを考慮し、慎重に行動している‘‘上’’を裏切る行動である。
「あいつ! ユウヤってやつを殺しに行きやがった。入ってから数年のガキで生意気すぎだ」
「ラフト、あのゴミに関しての情報をくれ」
基本は魔人は何らかの特徴を持った変人であり、環境の影響からやばい奴もいる。そして、魔人同士で仲間とも思わない奴も当然のようにいてしまう。
「無理無理、あいつとそんな接点ないからなんも本を見れないよ〜」
読書の欠点は接点をつけなければ発動しないことのようだ。パラパラと間の紙を揺らしながら、本を軽く何か挟まったものを取るかのように振るう。
「誰でもいい。サタラナマはユウヤを殺しにいったんだ。護衛をすればいい」
仲間を慕わない奴でも同じ魔人同士の戦いは厄介だと知っている。空間は静まり返る。
「……分かった。あいつ《サタラナマ》を殺しに行ってくる」
一人の女が声を上げた。呪具をラフトに貸した魔人だ。
「おっ、いいの?」
「えぇ、いいわよ。魔人の中で手数が私の売りだからね。護衛くらいなら朝飯前よ」
「おぉ、良い子良い子〜」
面倒なことをやらせるときに限って、魔人らは意見がまとまったりする。ただ、ラフトに至っては、人をいじくっている。
「ウザい! とにかく、これで会議終了、帰る」
他の人が話す隙もなく帰ってしまった。
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