第12話 罠と戦闘①〜③

 いつものように探索していると、罠が作動した。

 今まで罠が作動することは無かった。だから、ユウヤ達は油断していた、というより罠がどう‘‘設置’’されているか分からなかったのだろう。

 ユウヤは思わず声を漏らす。


「うわっ!」


 床が消え、ユウヤ達の視界が一気に暗くなるが、一瞬にして地面に落下しいつもと変わらぬ景色が見える。


「落とし穴か……」

「今、何層か分かるか?」

「さっきいたのが、四層だから五層なのは確実だな。ただ、迷宮の落とし穴はすぐに閉じるからどれだけ間に階層があるのか見るのは無理だろう」

「五層にいけるようにはなったが、出口が分からないのはかなりキツイな。ナカ、探知を頼む」

「了解」


 詠唱は完了し«探知»の魔法を発動させる。


「いたっ!」


 同時に奇襲される。ラントーテの腕に切り傷がついた。


「くっそ」

「いるぞ! 頭上だ」


 ナカの言葉にユウヤが反応し、共鳴で動きを止めた後剣で突き刺した。見れば虫型の魔物であり、角の先が尖っていた。


「こいつが誰かの頭蓋骨に刺さらなくて良かったな」

「魔物も自爆特攻はせんだろ」

「する魔物もいるらしいですよ」

「えぇ」


 そして、ゾワッとする感覚がまたくる――。

 ゴブリンの集団が現れた。しかも、十数体のレベルでだ。


「この階層でこんな数の群れがあるなんて」

「逃げ道はない。一掃するぞ!」

「「「はい!」」」


 切っても斬っても次から次へとゴブリンが道から出てくる。共鳴を使って動きを緩めることは出来るが、物量に押されて疲労していく。


「いつまで続くんだ!」

「分からん。思考を読んでも量が多いくらいの簡単なものしか感じん」


 ドクンっと、嫌な感じとはまた違った感覚を味わう。ユウヤだけがその感覚に陥った。ハァハァとユウヤが息を荒くする。

 流石に剣の切れ味も落ちてくるので、タオルを取り出して脂と血を拭った。


「やばい、切れ味が落ちてきてる! 魔法頼む!」

「了解」

「「『風よ、炎よ、混ざり合え«嵐緋らんひ»』」」


 緋色の風が舞ってゴブリンを襲う。風は止まることなく、見える範囲で全員に当たった。ただ、効果範囲を広くしているせいか一瞬では死なない。


「後はこいつらが死ぬまで寄せ付けないようにしよう」

「この魔法は炎の力が弱いので、人が当たっても大丈夫だと伝えときます」

「ゴブリンが暴れ狂うかもしれないから気をつけろ!」


 クインがゴブリンを切りつけると炎の付いた返り血がついた。ただ、チリチリと熱い砂を擦り付けた感覚だけで燃え広がる様子はなかった。おそらく、魔法は風と一緒に燃え広がるだけで、火の移る技では無いのだろう。

 クインが炎の血を拭った。


「一気に楽になったな」


 ゴブリンを一掃し終わり、休憩に入った。


(おかしいとは思ってた。罠とはいえ低階層で全員が気づかないなんて普通はない。しかも、感覚が鋭い竜人もなんてことは……)とユウヤは考える。


「次の敵はどれくらいの位置にいるか分かるか?」

「直線で三十メートル以上ある。しかも、またそいつが別のところに移動してる。安全だ」


 クインの言葉にそう答えたナカ。ただ、ユウヤの不安は止まらない、‘‘力’’が収まらない。


「……ナカ、ニィナと共鳴してまた«探知»してくれないか?」

「嫌な予感がしたんですか?」

「あぁ」

「「了解」」


 そうして、準備をしていると人影が見えた。ユウヤ以外も見えたようで、皆が背を見せないように円の形へと変わった。


「――あ〜、わざわざ、«探知»しなくても大丈夫だよ」


 相手が姿を完全に現した。「ナ――ッ!」とユウヤが驚く。今までの嫌な予感は、ラフトのものだったようだ。ラフトは完全なる格上、しかも威圧感を露わにしていて皆が冷や汗を掻いている。


「どういう要件ですかね?」


 イシィが喧嘩を売らないように慎重に優しくどういう要件か聞く。ラフトは頭を掻いた後、少し溜め息をつきながら言った。


「ちょっと、ユウヤってやつを試したくてな。それでユウヤを貸してほしいんだよな〜」

「貸すわけないだろ」

「……クイン」

「仲間を貸すとか言いたくないかなぁ〜」


 ラントーテの言葉の途中で、クインが槍で攻撃仕出した。見たことのない鋭い一撃に、ラフトも腕を使って防いだ。ただ、不意の一撃によって血を流す。またクインが槍で振り払う動作を見せる。ユウヤにはクインの指輪が強く光って見えた。


「なんだ、こいつ……!」


 ラフトは槍の攻撃を避けた、が何故か当たったようにふらつく。やってしまったものはしょうがないと皆で攻撃を始める。

 共鳴で読書の邪魔をして、ラントーテは少し離れた位置から威嚇をし続け、ニィナ達は拘束魔法で動きを緩める――明らかに初心者の動きではない。


「これが『共鳴』……」


 ラフトがその言葉を発した瞬間、笑っていた。拘束魔法を引きちぎり、まるで攻撃してくださいと言わんばかりに後ろを向いて、バッグの中を漁る。そして、スクロールを取り出した。


「……!」


 ユウヤは思わずラントーテを、イシィはクインを突き飛ばした。

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