第6話 仲間②
「避けてッ!」
「危っない!」
ユウヤがクインを既のところで突き飛ばし、庇って右腕を噛まれてしまう。
「あっ……ぁああ’’あ’’っ!?」
痛みに鈍感になったと思っていたが、流石にここまでの痛みには耐えられなかった。
宝箱を叩くが効果は無く、ユウヤは短剣の事を思い出して取り出し、ミミックの歯茎の部分に連続で刺す。
咬合力がゆるまったところを叩き落として蹴り飛ばすと、ミミックは壁に激突した。
「てやぁっ!」
ニィナが宝箱の開いた部分から剣を突き刺してトドメをさす。ユウヤはというと、血と汗がダクダクと流れ出していた。
ユウヤの体は、すぐに酸素を求めるが血色は悪くなっていく。しかし、ユウヤは笑っていた。
「いっ、あ‘‘あっあぁ、ぁはあ〜。……避け、てっつってもぉ避けれ、ん状っ況、はぁ、だったらどうしようもねぇ。 へはは、複雑骨折で骨飛び出なくて良かったなぁ〜ㇵハハ」
「何言ってんだ! ま、またった―――――! 早く治りょっ、えっ?」
医療道具が地面に散乱したり、中に残っている部分も倒れた影響で破損していた。
「中身がぐちゃぐちゃになってるし、土が付いて……っ」
汗を拭くタオルは用意してあるが、傷口を覆うことは想定されていない。(汚いタオルでは駄目か?)クインは考え、タオルで覆うことは諦めた。
ユウヤは自身で圧迫をして止血を試みるが方法が分からず、とりあえず心臓の位置よりも上に置いてみる。
クインが近づいて傷付いた腕を見てみる。クインは止血法を心得ているようで、水を取り出して傷に掛けた後、自分の服を切り取り傷口を塞いで圧迫したり、心臓に近い方を縛った。
「すまないユウヤ。俺のせいで! ……ぅ、血がっ止まらない! 使うんだった奥の―――」
「そんな事言うのは、死ぬ時にしろ……。今、言うことじゃない。それにお前は悪くない。俺が腕を前に出したから、噛まれたんだよ。突き飛ばして医療品も無駄にしたし自業自得だって、しょうがない」
クインに向かって言ってるが、ユウヤは実際のところかなり悔やんでいた。こう言わないければ、自分はクインを恨んでしまうと思いながら呟いていたのだ。
ユウヤはさらにブツブツと言葉を繋げるが、クインには聞こえない。
ミミックを殺し終えたのかニィナが近寄る。
「あのミミック、鍵穴に目がついてやがった」
「不良、品……か………」
「不良品なのか?あいつ」
「俺の腕を噛み砕けなかった時点で、不良品中の不良品だな」
そう話している内に出血している。
「だ、大丈夫じゃなさそうですね」
「あぁ、まだ子供だし、成長期だし、十分に食えてないかもだし、最悪すぎる」
「あ、そうだ。傷口を焼いてくれ」
汗を大量にかいた状態で明らかに正気では無いが、清々しい様子だ。
「どうしたユウヤ!」
「昔は傷口を焼いてたって聞いたことあるぅ」
「けど、火傷で死ぬかも」
「やってみてくれよぉ。このままだとまずいんだろ? 火の調整とかは出来るだろ? 正直、何しないで死ぬより何かしてから死にたい。だから、邪魔しないで」
「ゔっ!分かった」
「……分かりました。『いでよ!«灯火»』」
人差し指に小さな火が出る。ニィナがちょっとした細工をした後、ジュッ!という音を出しながら出血部分を焼いていく。
「いがっ!あっア’’っァうあ!」
あまりの痛みにユウヤは暴れないように耐えるが失禁してしまう。
「はっはぁ。ダセェ〜なぁハぁ」
「…………」
「出血は止まったようですし、私が外まで運びましょう」
体育座りに近い状態にした後、軽くユウヤを立たせて前に移動すると右腕を股の間に挟み込み、持ち上げ右手でユウヤの右手首を掴む。
「汚くてすまない。それに二人戦闘できなく」
「いえ、大丈夫ですよ。私は左手は空いてますし、魔法は放てます」
「友人、ありがとう」
クインが何に関して言っているのか分からないが感謝をした。急いでいたニィナは素に戻り、「はい」と言った後に進んでいく。
「バッグに入ってる強壮薬を飲んでくれ」
「強壮薬。金額はどの程度ですか?」
「作ってるんだよ。そんなに儲かってないけど、スラムで売りに行ってたなぁ。ちょっと休む必要があるかもしれん、なぁ……はァ」
「強壮薬ってこれか?」
クインが後ろから強壮薬を取り出した。元々、クインが持っていた袋だからすぐに分かった。
「それを人差し指にでも付けて舐めてくれ。デメリットは今日中にレベルアップしないくらいだ。効果はそれだけで十分だと思うが、今まで助けてもらった恩で強壮薬全部やるよ」
「……ありがとう」
ぺろっと、ニィナとクインが強壮薬を舐める。
「スッ〜っとした気分になるな。……そういえば、ユウヤはスラムのどこで売ってる?」
「? スラムの○○○○だよ」
「へぇ〜」
◇◆◇◆◇◆◇◆
背後を向いているゴブリンを発見する。
「はぁはぁ、ゴブリン、は……普通の人間みたいに骨が無いところを狙え。弱点を………」
クインがゴブリンの背後からあばら骨の無いところを狙って剣で一突きにする。そして、槍も使って突き刺し、何度も繰り返す。抵抗しようと振り向くが、剣と槍で中の内臓がぐちゃぐちゃになって、腸が飛び出した。
「グギャァ……」
そう言ってゴブリンは絶命する。
「ハァハァハァ」
「クイン‘‘さん’’、そんなに体力は消耗しない方が良いですよ。最悪、奥の手を使いましょう」
「クインに、さん付けな、のか? それに奥の手」
「………なんでもない!」
「そうですよね。クイン」
びちゃびちゃと音がしたかと思えば、ユウヤが吐いてしまっていたようだ。顔色が悪くてかなり限界が近いように感じる。
急ごうと考えているとスライムが五体現れる。
ギリギリ跨げるような大きさではあるが、五体もいては通りぬけられない。
「喰らえっ」
剣や槍で突くが効果があまり感じない。精々、ちっちゃいスライムが切ったところに残るだけ。
スライムは体を伸ばし、振り回したかと思えば遠心力をを使って投げ飛ばしてくる。
「うぉおおおお!」
剣の腹の部分を使ってはたき落とし、何回も剣と槍を使って攻撃をする。が、何事も無かったかのように再生してくる。
「なっ! ありかよ! こんなの」
クインが狼狽えていると、スライムが消化液を吹き出してきた。
「あ! くッぅぅ! 目が!」
「うぅ‘‘ぅ!」
ニィナの場合は遠距離の攻撃に想定しておらず、目にかかってしまう。幸いな事に目に負傷をすることにはならず、すぐに視力が戻って来る。
液が服に染み込み、ヒリヒリと痛みを感じている間に、本命と言わんばかりに消化液を吐き出す。
「避けろ!」
クインがそう言ったおかげにより、ギリギリのところでニィナが消化液を避ける。
「クイン。助かりました」
「あぁ。ユウヤ! こいつの弱点を!」
「ユウヤさん!」
「ぇきぃ、て……………(敵が何か、見えない)」
「え、液ぃっ!?どういうこと、なんだ? 水ぶっかけるのか?」
水を掛けても効果は無い。
「ぶ、物理攻撃は、効かないようだから、そうだ。燃やそう。ニィナ頼む!」
「そ、そうですね。『燃やせ!«火炎»』」
スライムに火が着くと意外に燃え上り、こんにゃくを燃やした時のような独特な音がなった。
しかし、火が消えていくが完全に死んでいなかった。
「し、死なない。デカくて燃えきれてない」
「どうすれば」
「も、ㇱヵして、ㇵぁ〜スライム、か?(スライムは確か単細胞生物の集まりで剣や槍の効果は薄かったはず)……ゃっらはけ、がきあなぃ」
「え?!なんて言いました?」
竜人の耳を以てしても聞こえなかった、いや、滑舌が悪くて聞き取れなかったのだ。しかも、二人がすぐに気付いた事。
「ど、どうすれば」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜たッたき潰せッぇ!」
モニョモニョと言葉を呟いた後、いきなり大声を出したのでニィナとクインは驚く。
しかし、
「おう!」
クインはすぐに指示に対応してスライムを踏み潰していく。ニィナはというとユウヤが急な大声と共に身体を動かしたのでよろけてしまう。そうして、即座に後ろを振り向き言った。
「ちょっと、危ないですよ」
「すぁないな。きた、なくて」
「いえ、そういうこと、じゃあ………」
ニィナが視界に違和感を感じて見上げてみれば、小さなスライムが壁の上、それもクインの真上にいた。
「ナイスです! ユウヤさん!」
「ぇ、何ぃ?」
「『支配者よ―力を―猛火を«
ふぅ、とニィナが息を吹くとパチパチと火の粉が現れ、連鎖的にスライムに向かっていく。それはまるでレーザービームだった。一瞬にしてスライムに辿り着くとドロリとクインに落ちてくる。
「うわっ、熱く、ない」
「これが、私の奥の手……の一つです」
「はァ、ハァ、へぇ〜」
ユウヤも奥の手のことは気にせず、相槌をうつ。
おそらく、あの魔法は固有か血統魔法というものだろう。物語では固有スキルもあった。
その後は何事も無く迷宮を出る。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はあっ!」
意識が戻ると目の前に知らない光景、知らない人物がいた。ユウヤの声で驚いたのか知らない人が喋った。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでも」
周りを見てみればニィナとクインもいて、怪我のところには包帯がある。
「すまない。ユウヤ。火傷の跡が残るらしい。まぁ、明日から戦闘は出来るらしいけどな」
「ふぅん、自分が正しいと狼狽してた時の話だし、そんな気にしなくていいよ〜。火傷の跡かっこいいし〜」
クインとは違いユウヤは火傷した方の腕を振りながら、軽い感じで受け答える。
そんな感じで話していると、視界が歪んでくる。
吐き気などは特に起きていない。
「あれ?意識、が?」
「今日の回復魔法の効果だろう」
「えぇ〜、こんな早く」
「――何言ってんだ? もう1時間は喋ってるじゃないか」
「え?」
恐怖を感じながら、さらに意識が飛ぶと家にいた。しかも、ユウヤは意識が覚醒した後、倒れている状態では無く立っていた。服も病院の服ではなく自前の服。
驚くが、ステータスの
「そういえば、病院、異常に綺麗だったな。まぁ、色々違ったりするところあるからなぁ。あれ、手紙が手に」
封筒を開けてみれば、強壮薬の袋と金貨が五枚も入ってあった。
「え、えぇ……」
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