第6話 職業

「金貨だけだとなんか怖いなぁ〜ってか、今気付いたけど防具着てる。俺の家賃(大銅貨二枚)より遥かに多いしさらに防具。………まぁ、俺の記憶が飛んでたことが一番怖いか」


 頭を掻きむしりながら色々と思考を張り巡らせる。しかし、どう頑張っても抜けている記憶を思い出せない。覚えているところも病院の中にいた程度なので役に立たない。


「異常に綺麗だったな」


 一応、病院はあったが木造で汚れなどがあった。


「って、関係ない!う〜ん、駄目だ。分からない」


 とりあえず、時間確認のために窓を開ける。


「うぉっまぶし!」


 ガラス製で明るい事は分かっていたが、太陽の位置を確認するために見上げた時、太陽を直視してしまった。

 どうやら、朝のようだ。腹は減っていない(記憶が無い時に食べた可能性あり)ので、物の準備をした後冒険者ギルドに直行する。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドの中に入る。


「おっ、怪我はもう治ったのか?」


 研修でたまに喋るクワトルが話しかけてきた。

 彼の後ろには、複数人いて皆ユウヤの心配をしてくれていた。


「もう、治ったよ」

「そうか、急に明るくなったり、急な悪口を聞けなくなったら面白くないからな」

「それ言うなって。というか、皆顔暗いけどどうしたの?あれ?ナミさんとかカイキはいない?」


 ユウヤがそう言うと、皆が黙った。そして、そのうちカイキのメンバーのイシィが話始める。


「死んじゃったの。それで、もしかしたらユウヤも死ぬかもって……クイン達から一応体調が良くなってるって聞いてたけどね」

「あ、あぁ、そういう、ことか」


 ユウヤは頭を抱えて息を吐いた。


「説明されても信じられない、よな。すまん。引き止めちゃってよ」

「うん」


 クインとニィナがいつも研修の場所にいた。遅れてきた覚えは無いので、早めに来ていたのだろう。

 軽い挨拶を交わした後、会話を始める。


「ユウヤ、体の調子は良さそうか?」

「あぁ、大丈夫だよ。そういえば、金貨五枚あったんだが」


 ユウヤがその話をすると、クインがニィナに目を合わせた。そして、ニィナが軽く頷いた後、話し始める。


「それは、私も含めて誠意を込めましてね。会話の時はその私不在でしたし。………四日間全て」

「竜人って一年の内、いつ休みになるか分からないからなぁ。なんか脱力期があるらしい。それに奥の手の副作用だ。期待されたくないから言わなかったんだ。まぁ、防具も買ったし余計なお世話とも思ったんだがな」

「あははは、すいません」

「そ、そうなのか」


 どうやら、四日間も休んでいたらしい。しかも、元々貰うはずのお金から増やされていたようだ。

 最初のお金が気になる。さらに言えば、どういう経緯でお金と防具を貰う事になったのだろう。


「うん、というか、一層でめちゃくちゃダサくやられてたのに噂とか流れてないのか?」


 ユウヤはそう言いながら、周りを見ていた。


「それは、友人が背負っててバレてないし、普通に死んだ人がいたから、そっちの方に注目が移ったっぽいな」

「……そうだな。四日経ってるもんな」


 ユウヤは得た情報を使って、話を合わせる。


「竜人もそういうところはあったんだな。俺、知らなかったよ」

「亜人系は人間と全然違いますけど、一応ありますね。病気に関しては似てるものがあっても同じのは少ないです。知識とか無さそうなので、言いますけど亜人と人間が低レベル同士だと、絶対に妊娠しません」

「え?」


 突如として衝撃の情報が明かされる。基本、そういう描写が無かったから知らなかった事実。R18版があったとしたら出ていた情報かもしれない。


「そ、そうなんだ」

「宗教とかの本にも載ってたりするぞ。‘‘色欲の戒め’’だっけ。だから、差別とかあったけど………」

「俺の知らない事、だな……そういえば、低レベル同士で妊娠しないってのは?」

「それは、そのままですよ。高レベルになると妊娠したりします。仮説はレベルが上がるごとに私達は魔物と同じようになってるというものですよ〜」


 ユウヤはこの仮説を知っている。これは、小説でも出ていたからだ。


「俺は魔力が肉体に干渉してるって考察の方を信じてたけど、亜人の話を聞くとそっちの仮説の方が正しそうだね」

「あ、仮説は知ってたのか」


 クインは亜人の話の方を知らなかったから、仮説を知っていることに驚いたようだ。おそらく、そこまで亜人の話は有名。いや、常識として浸透しているのだろう。


「あ、そろそろ始まりそうだぞ」


 クインの言葉を聞いて、すぐにユウヤ達も姿勢を整える。


「今日は、最後の授業だ。職業を選んでもらう」


 休んでいた時に終わらなくて良かったと、ユウヤは安心しホッと息をつく。


「これから、一人ずつ水晶に触ってもらう」


 研修スタッフがおもむろに蒼い幻想的な水晶を取り出した。そして、下に布を敷いて乗っける。


「水晶を触ると、声が聞こえてるはずだ。その声をよく聞いて相性の良い職業を選べ。その後は帰っても訓練しても迷宮に行っても構わん」


「そういえば、どうして研修受けないと有料なんだろう」


 小声が聞こえた。


「そりゃあ、職業って冒険者ギルドだけの特権じゃないし、回復系だと資格が必要なの。でも、わざわざ資格とるのは辛いから金払えってなってるの。それで研修で無料になるのは、知識はある程度詰め込んだから大丈夫だろうってこと」


 おそらく、この考えが正解だろう。ただ、そうなると、四日もユウヤは休んでいるため、大丈夫なのかと汗を大量に流している。


「ま、まずいかも………」

「大丈夫だって、今聞こえたのは推測だろ」

「えぇ、えぇ、そうですよ」


 二人がユウヤを安心させようとする。それとは、別に研修スタッフは話していく。


「自分で職業を決めたら、金属プレートに反映されているはずだ。まず、そうだな。右の人から蛇みたいに進んでくれ」


 研修スタッフが身振り手振りで表したりしている。伝わった人はどんどんと水晶に触って、部屋から出ていく。ユウヤは祈りながら進んでいく。

 クインとニィナが終わり、最後にユウヤがしれっと歩いていく。


「ユウヤ、か」

「ナ、ナンデスゲホッケホッェホッ」

「…………」

「な〜んですか〜」

「いや、堅苦しい話じゃないんだ。落ち着きがない奴だったが、頭がよくて行動も出来る。お前に後遺症が無くて良かったな」

「あれ?傷跡が残るのも後遺症じゃ………」

「………そこは聞き逃しておいてくれ」


 ユウヤがホッと一安心した後、すぐに水晶に触れた。視界が暗転する。立っているのか座っているのか寝ているのか全く分からない。


「また、お会いしましたね」

「あ、あなたは?!」


 目の前に転移したかのように現れたのは、白髪の女性だった。


「あなたが、声?」

「いいえ。違います。■■の貴方の代わりに■■のが呼ばれてしまったんですよ。今は■■のが対応してますよ」

「何か、名前のところに違和感が……」

「読み間違えてしまったので、‘‘修正’’させていただきました」


 ちょっとした感覚で記憶を改変してきた事に対して、恐怖を感じる。さらには、主さえいる。この世界でもかなりの強者だろう。


「どうして、主の方が呼ばれたんだ?」

「その質問には、答えられません」

「どうして答えられないんだ?主に制限されている、のか?」


 質問をしていくと、急に黙り込んでしまう。そして、白髪の女性は後ろを向いてコソコソと誰かと喋り始めた。ほとんど会話は聞こえず、少し聞こえたと思っても、一音しかも白髪の女性の声だけだ。

 だが、最後の一言だけ聞きとれた。


「……だから、全て話すか魂を塗りつぶせばよいと言ったはずですのに」


 ユウヤは驚くことしか出来なかった。前を向いて、これで会話が終わったと思えば、すぐに後ろを向いて会話を始める。今度は少し音量が大きかった。


「俺とあいつなら大丈夫だっただろうなどと不確実なことは言わないで頂きたいです。魂の波長が同じなだけで、もう!別人なんですよ。……あの言い間違えは辛辣?事実でしょう」



「なんか、大変そう」

「……聞いてました?」


 ユウヤはこの黒い空間で意味は無いと思いつつ、ゆるい姿勢を正して言う。


「いえ、なにも!」

「はぁ……そういえば、職業は何にしたいですか?ご要望があればどうぞ」

「え?まず、な、何が、あるのぉ?」


 急に職業の事を聞かれて、呆気にとられる。思考がまとまらずいたところ、白髪の女性がまた喋りだし言った。


「盗賊、斥候、剣士、この中から選んでください」


 盗賊は索敵と盗み、鍵開けが得意。斥候は索敵と隠密が得意。剣士は戦闘スキル特化。この中では、盗賊が一番だろう。斥候は他人に隠すスキルは無いし、剣士は戦闘スキルだけ。


「え、あ、え、じゃあ、盗賊で」

「了解しました」


 白髪の女性が返事をしたのと同時に背後から闇が失せて世界が色づいていたことがわかった。

 非常に短い時間ではあったが、緊張により疲労し倦怠を感じる。だが、記憶を鮮明に思い出すほど、すがすがしい気分でもあった。

 事情を知らない研修スタッフが聞いてきた。


「どうした?職業を決めかねているのか?」

「いや、盗賊に決めたんですけど、色々考えすぎちゃって疲れちゃいました」

「そうか。たまにそういう奴がいるんだ。酷い奴だと職業決める時に息するのを忘れたのがいた」

「え、えぇ」


 俺が困惑していると、研修スタッフは懐から何かを取り出した。


「ユウヤ、お前は盗賊を選んだと言ったよな」

「はい、そうですけど」

「やるよ。退院祝いだ」


 研修スタッフはそう言って、大銅貨を一枚ユウヤに譲ってくれた。ユウヤは大銅貨をバッグから取り出した財布の中にしまいながら言った。


「いいんですか?こんなに貰っちゃって」

「ははは!まさか、しまいながら言うとはな。それは俺からの善意だ。ピッキングツールはそれで買えるだろ」

「ありがとうございます!さよなら!」

「え、えぇ!」


 ユウヤは仲間と合流するためにすぐさま外に出ていった。

 クインとニィナは扉のすぐそばで待ってていてくれた。クインが前に出て聞いてきた。


「俺は剣士でニィナは魔法使いだったけど、ユウヤは何選んだ?」

「盗賊」

「ユウヤさんは、どうして盗賊を?」

「盗賊は索敵も出来るし便利なんだよ。そういえば、もうさん付けしなくていいよ。仲間だし」

「あ、はい」


「友人、ユウヤ、迷宮行く?」

「いや、俺は道具を買わないといけないからな」

「それじゃあ、やめましょうか」

「そうだな」


 冒険者ギルドで解散して、ユウヤはとりあえず金貨をばらした後、道具屋に寄ってピッキングツールを買い、早めに食事を済ませて家に帰った。


「久々に良い飯が食えたな。残りは金貨五枚分と銅貨四枚か。儲けのほとんどが消えた。大食いだったんだな俺って。そうだ、久しぶりに強壮薬を売りに行こう」


 腐るとまずいので肉は干していたが、血液が腐っていないか分からない。


「あ、あれっ?」


 何故か強壮薬が作ってあった。しかも、ユウヤの血で―――。

 ユウヤは不審に思いながらも、大量の強壮薬を全て袋に移し替えた。そして、強壮薬を売りにスラムへ向かう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 いつもの場所で待っていると、最初に強壮薬を売った少年がやってきた。


「お久しぶりです」

「やぁ、元気にしてた?」

「はい、そっちこそ売る人が変わって、ちょっと不安だったんですよ。ちゃんと、話はしたと言ってましたけどね」

「?」


 もしかしたら、袋の中身がなかったのはクインが売っていたのかもしれない。いや、記憶に無いユウヤがクインに売らせていたのかもしれない。真相は分からない。クインに聞けばいいだけだろうが。


「今日は何か買いに?」

「あぁ、仲間の分も買おうとな。強壮薬の量は二日に一回ぐらいで………袋は三つある。小銅貨九枚だ」


 小銅貨九枚を受け取り、袋に強壮薬を入れて渡す。


「ありがとう。じゃあな!」

「あぁ、じゃあな」


 その後は二人ぐらいが強壮薬を買い、夜になりそうだったので、家に帰った。

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