第5話 ひとりぼっちな世界の終わり⑤【中学二年・夏】
「でさ、だれ誘っちゃう? やっぱりサッカー部の森木くん?」
「いや、森木くんはさ……ほら、あの人狙いだし。玉砕するくらいなら、普通にいつものグループで回ったらよくない?」
「でも、せっかくの修学旅行だよ? 思い出作りしたいじゃん」
一学期最後の授業を終えて、クラスの雰囲気は浮き足立っていた。
すでに先生は退室し、教室にはお友達と談笑している生徒たちばかり。
夏休み前に付き合い出すカップルも多くできるんだろうなぁ。
夏休み明けは修学旅行もあるし、せっかくなら恋人といい思い出を……なんて考えるのもおかしくない。
思春期としては健全な考えだろう。つい最近、私も彼女たちが盛り上がるわけが理解できた。
「……お、おい。お前いってみろって」
「む、むりむりっ。できないって」
チラチラとこちらを伺う視線がいくつかある。
気になるなら、直接聞きに来たらいいのに。
もう自由に帰っていいはずなのに、教室から出て行く人はほとんどいなかった。
男子も女子もそれぞれの思惑を抱えながら、全員が様子をうかがっている。
そんな中、私は意に介した様子もなく世間で流行の恋愛小説を読んでいた。
きっとみんな頭に「?」を浮べているんだろうなぁ。
だって、私もここに残っている理由が見当もつかないから。
「…………」
私はみんなから好かれている。でも、私の机の周りに人はいない。
矛盾しているけど、私の現状はそう言い表せる。
観賞用の絵にでもなった気分だ。本当に気分が悪い。
あ~あ、はやく植芝くんとおしゃべりしたいなぁ。
秘密の場所を共有してからここ数日は毎日のように顔を合わせている。
お願い事を叶えるためにも、ちゃんとした手順を踏まないといけないもんね。
伝えた作戦に彼は死んだ表情で「イエス」の意思表示をしてくれた。
私にそんな表情を見せるのはキミだけだよ、植芝くん。
キミはきっと何気なく普通に過ごしているだけなんだろうけど、その普通が私にとってどれだけありがたいか――
「芹園」
「――なにかな?」
パタンと本を閉じて、顔を上げる。
そこにはキミがいるって声でわかったから。
「実は修学旅行なんだが……」
周囲が一気にどよめく。
本当に植芝くんって変な人だよね。
私に話しかけるだけで、こんなにも他人の視線がキミに突き刺さっている。
嫉妬、侮蔑、嘲笑、興味。それだけの負の感情が植芝くんに向けられている。
なのに、周りの空気なんか知らないって感じで、平然と切り込んできてさ。
事前に
……でも、私はそんなところが好き。
他人に干渉を受けない。他人に影響されない。
まるで、私と植芝くんだけの世界ができたみたいだから。
「自由時間、俺と回ってくれませんか!?」
「……うん、いいよっ。私なんかでよければ」
一瞬の静寂が訪れる。刹那、驚愕の声が爆発した。
私に話しかけるのを躊躇していた男子も、動向をうかがっていた女子も、廊下で聞き耳を立てていた生徒たちだって、みんなが私たちを見ている。
「……おい、捕まる前にさっさとずらかるぞ」
「はーい。あっ、また自転車に乗せてほしいな」
「……今回だけだからな」
植芝くんってお願いしたら、毎回そう言って許してくれそうだなぁなんて思いながら、教室を出る彼の後ろに着いていく。
本当は手を取って連れ出してほしかったけど、
「……夏休み明けが今から怖いよ」
目の前を歩く植芝くんと私が考えていることは正反対だ。
まだ始まってすらいないのに早く夏休みが終われって思ってる。
あ~あ、夏休み中はどうしようか。
キミと会えないなんて退屈で仕方がないよ。
もう私は前までの生活には戻れない。
植芝くんという禁断の果実に触れてしまったから。
そうだ、こっそり遊びに行っちゃおうかな。
ふふっ、きっと驚くだろうなぁ、植芝くん。
ご家族のみなさんにもちゃんと挨拶をしたいしね。
「なにか悪いこと考えてるだろ、お前!」
「そんなことないよ~。ほら、もっと早く漕いで! 学校から逃げろ~!」
今日でひとりぼっちな世界はもう終わり。
これからはずっと、ずっと奥深くまで――一緒に沈んでね、植芝くん。
テスト勝負くらいなら、いくらでも付き合ってあげるから。
◇ちなみに夏休み中、植芝くんが田舎に帰っていたため芹園さんは全く会えなかった模様。そのせいで悶々とした気持ちが溜まったまま、夏休み明けに彼と再会します。
次は短編挟むかも。
そして修学旅行へ。行き先は京都。いっぱい縁を結んで、恋占いしようね、植芝くん♡
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