第19話 魔神シェムハザード 2


 ハァハァハァハァハァハァ……


 うぅ……お腹痛い…… まだ100メートルぐらいしか走ってないのに……


 うしろを振り向くと、アッシュが魔物達と戦っているのが見える……


 あれ? 100メートルも走ってないかも……


 うぅ、くぅ…… 今日ほど自分の身体を恨めしく思った日はないわ、頑張って走っても歩幅は小さいし、身体は重いし…… 本当に転がった方が速いかも……


 てか、ヤバいヤバい! アイツら遊んでいるわ! アッシュが相手しているのはせいぜい4、5人だった…… あの場にいた…… きっと100人以上いた他の魔物は見てるだけ…… 私の事を追っても来ていない。 アッシュを嬲って遊ぶつもりだ…… どうしよう、どうしよう!!


 誰か! バエルちゃん! お兄様! 誰か助けて!!


「お嬢! あのトカゲはどうしたんだい?」


 バエルちゃん!


「ア、アッシュが…… ハァハァハァ、わたしを逃す為に……ハァハァハァ……」


「そんなにヤバい相手だったのかい? なら、お言葉に甘えて逃げようかねぇ…… 逃してくれれば……」


 バエルちゃんはそう言うとわたしの後ろに向かって蜘蛛の糸を吹きつける。


 お尻だけじゃなくて口からも吐けるみたい、って感心してる場合じゃない!

 振り向くと糸に絡め取られた魔物が2体、必死に糸を解こうとしている。


「ひぃ!?」


 その後ろから更に何体もの魔物がやってきていた……


 バエルちゃんも頑張って戦っているけれど、多勢に無勢、魔物達に囲まれてしまっている……


 バエルちゃんが痛ぶられているのをニヤニヤと眺めていた魔物がわたしに気付くとわたしを捕まえようと迫ってくる……


「いやぁ!!」


 あまりの恐怖に目を瞑って震えていると、身体を掴まれ持ち上げられてしまう……


「omo!?」


「おもっ!?」


 なんか魔物に失礼な事言われた気がして目を開けると、バエルちゃんの姿は人型の状態へと戻っていてグッタリとしている。

 それを魔物が肩に担いで戻って行くところだった。


 わたしも何故か魔物3人に担がれて騎馬戦みたいになって連行されて行く。

 

 魔物のボスみたいなイケメンの所まで連れて行かれると、地面に投げ出される。

 隣を見るとバエルちゃんも地面に横たわっている。

 

 ──凄い傷だらけになって…… ごめんね、バエルちゃん


「おや? もう追いかけっこは終わりかな? 本当に遊びにもならないね」


 そう言った魔神の足元にはボロボロになったアッシュの姿があった……


「アッシュ!!」


「大丈夫。 まだ生きているよ。 彼は中々強かったからね、僕の部下を20体ほどやられてしまったし。 だからね、今スカウトしてるんだ」


「うあ゛あ゛ああぁぁあ!!」


 魔神はゴリゴリと音を出してアッシュの腕を踏みつけている……


「なかなかいい返事を貰えなくてね。 君からも頼んでくれないか? 僕に仕えろってね」


「へっ、お前等魔神どもが悪魔をただの奴隷としか見てないのは知ってるぜ! 誰がそんな奴等に仕えるか! まだ人間の皇女に仕えてた方がマシさ! ぐあぁ!!」


「おや? なるほどそのブタはどっかの皇女なのか。 なら君には選択肢をあげよう。 このままここで食肉として解体されるか、君の国の女性を…… そうだな200人ほど毎月差し出すんだ。 まぁ考えるまでもないだろうけど」


 女性を200人…… 魔神だし、やっぱり食べるのかしら? 私の事を食べようとしてたぐらいだから…… 男性より女性の方がお肉が柔らかいからかしら?


「女性を200も…… 一体どうするつもり? まさか食べ……」


「食べはしないよ。 人間なんて食い出がない。 僕達魔神は基本、君達人間に恐れられているけれど、恐怖や痛み以外にもちゃあんと持ち合わせているよ、慈悲の心を。 これはね、慈悲だよ。 僕なら力で人間を根絶やしにするなんて簡単だ。 けれどそれじゃあ味気ない。 だろ? 遊び相手がすぐに居なくなったらつまらないだろ? だから考えたんだ、僕の子供を作る。 そして少しずつ少しずつ世界に浸透させるのさ…… 僕の遺伝子を! ククククク…… アーハッハッハッハ!!」


 えー…… ヤダ、急に笑い出してキモい。 要は世界中を自分の子孫にしたいって事でしょ? どれだけ時間がかかると思って…… 魔神て寿命あるの?


「わ。私はアンタの子供なんて絶対に……」


「お前は食料だ」


 くっ、わかってたけどムカつく!!


「アッシュとかいったか、僕に仕えれば世界を好きなようにに出来るぞ?」


「世界中がお前の子孫とか…… そんな世界に生きるぐらいなら死んだ方がマシだ!」


「そうか…… まぁ、無理強いはしないさ。 死にたいなら殺してやろう……」


 ヤバい! アッシュを殺す気だ! でもアッシュに意識が向いてる今がチャンスだ!!


「やあぁ!!」


 私は駆け出す! 奴は気付くだろうけど、私みたいなか弱い女の子の攻撃なんて油断してるはずだ!! そこをガオンしてやる!


「ブタが、なんのつもりだ?」


 殺った! 私の右手に纏わせたガオンは確実に魔神の頭を削り取った!!


「ほぅ、おどろいたな。 まさか空間ごと削り取る魔法を使えるとは」


 亜空間に消えた筈の頭部が蜃気楼のように揺らめくと何事もなかったように元に戻っている……


「きゃあっ」


 ぐえっ!! 痛い!! 咄嗟に魔力を纏って防御した筈なのに蹴られたお腹に凄い衝撃が……


「以外と頑丈だな…… まぁ、この僕が本気を出すと大地が割れてしまうからな。 なかなか繊細な力加減が必要なんだぞ? ゴミを殺さないってのは。 ククククク」


 ゴホッ、ゲホッゲホッ……


「しかし、ブタのクセに僕に攻撃するなんて。 少しだけ死なない程度に痛めつけてやろうか」


 ヤバい! あの化け物がコッチに歩いてくる…… どうしよう!? 痛いの嫌だ…… 逃げたい…… お城で甘いもの食べていたい…… シュークリーム、ショートケーキ、マカロン、ドーナツ、クレープ、etc……


「……なんだ? お前等、先に死にたいのか?」


 甘いものを考えて現実逃避していたわたしが目を開けると、魔神の身体には無数の白い糸が絡まり、さらに倒れたままのアッシュが魔神の足に手を伸ばし掴んでいる。


「お嬢様…… 逃げて……」


「お嬢様、早く……行け……」


 アッシュ、バエルちゃん……

 わたしが現実逃避しちゃあ駄目だ!

 2人共ボロボロになってまでわたしを逃がそうとしてくれてる……


 お城で甘いもの食べて過ごしたいけど、それは皆んな居なきゃ楽しくない!

 アッシュも! バエルちゃんも!


 あんな魔神なんかに女性達も好きにさせない! 


 わたしの前世の知識を含めて最強の攻撃を喰らわせてやる!!


 出来るかどうかわからないけれどッ!!!


「あぁぁぁあ!!!」


 わたしは右手に力を込めて魔神を殴りに行く!!


「ちっ! なんだ!? 何かヤバイ・・・ぞ!! あの右手…… 絶対に受けちゃ駄目・・・・・・なやつだ!! 回避しなければ!」


「させるかよ!」


「お嬢様……やっちゃって下さい!」


 アッシュとバエルが魔神シェムハザードを抑えててくれてる! 絶対に決める!!


「どりゃああああああ!!」


 ポスッ…………


「な……なんだ? 何もない……クックック、アーハッハッハッハ!! ただのこけ脅しか!! 雑魚が!! イキりやがって!! この僕を一瞬でもビビらせるなんて許せねぇ!! お前等まとめてぐちゃぐちゃにしてやる! 後悔しながら死ねぇ! 超暗黒重力崩壊グラビオンカタストロフィー!!」


 魔神シェムハザードから黒色の魔力が噴出し辺り一帯を超重力の魔法で押し潰していく。


 そうして、わたし達はぐちゃぐちゃのぺしゃんこになって潰れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る