第18話 魔神シェムハザード


「たしか、ここら辺アドル領かしら」


 城で漏れ聞こえてきた話しによると、アドル領にある星辰遺跡が魔神の復活した場所らしい。


 それはそうと、私はアッシュを右手でしっかりと掴みながら直立の体勢をとる。


「ピーンッ!!」


「……今度は何してるんですか?」


 アッシュが呆れた様に聞いてくるので、やれやれ、一体誰のせいでこんな事しているのか……


「フラグが…… フラグが立ってる……」


「えっ? フラグ? なんですか?」


 ちっ、流石に異世界人にこのネタはわからないみたいね……


「アンタが祈るしかないなんて言うから、きっと良くない事が起きるわ。 端的に言えばその上位の魔神ってのがいるわ」


「なっ、縁起でもない事言わないで下さい。 奴らは本当にヤバいんですって」


「悪魔にも縁起の概念があるのね? そこらへんの設定大丈夫?」


「設定って何です? ほら、そろそろ着きま…………危なっ!?」


「うわわわわぁぁあ!?」


 何か光の弾の様なものが凄いスピードで私達の横を通り過ぎて行き、それを避ける為にアッシュは体勢を崩したのか地面に向かって急降下していく!


 地上の森に突っ込んでいった所で衝突に備えて目を瞑ったけれど一向に衝撃はやって来ない……


「はわ!?」


 目を開けて見ると、辺りに白い糸状のものが張り巡らされていて私達を優しくキャッチしていた。


「お、お嬢様大丈夫ですか?」


 バエルちゃんが心配そうに覗き込んでくる。

 蜘蛛女って設定だからちゃんと糸の魔法使うのね…… グッジョブよバエルちゃん!


「ちっ、ヤツらもう戦争の準備をしてやがった……」


 いち早くバエルちゃんが作ったネットから地上に降りたアッシュは辺りを警戒して舌打ちをする。


 すると森の木々の間から人とも獣ともつかない猿の様な異形の魔物がゾロゾロとやってくる……


「ひいぃ!? な、なんですのあれは?」


「魔神の眷属ですね……もうこんなに召喚していたのか…… 早いとこ大元の魔神を倒さないとヤバいかもしれません!」


「な、なら、ここは私が! お嬢様、封印解除をお願いします!」


 えー!? バエルちゃんこんな魔物と戦えるの? 封印解除? 何それ?


「ふ、封印解除って?」


 何やら両手から蜘蛛の糸みたいなのを出して魔物を足止めしているけれど、糸にくっついて動けなくなっている魔物を足場にして次々とやってくる……


「私の禁書を手に取って封印解除と念じるだけです! 早く! お願いします!」


 ジリジリと近づいてくる魔物達にバエルちゃんの語気も強まってくる……


「封印解除!」


 焦りながらも亜空間収納からバエルちゃんの禁書を手に取り叫ぶ。


 するとバエルちゃんがムクムクと変身し始めて、主に下半身が大きな蜘蛛へと変わっていく……


「あ、あの時の蜘蛛女だ……」


 えっ? じゃあ本当に悪魔!?


「クククククッ、何よ能無しの雑魚が沢山いるじゃない。 ここは私が遊んであげるわぁ! さっさとお行き、お嬢!」


 バエルちゃんはそう言うと、お尻から白い糸を出して周辺の樹々に付けていく。


「行きますよ、お嬢様」


「ちょっ、ちょっとバエルちゃん蜘蛛! 蜘蛛になってるけど!? ってか1人で大丈夫なの? いっぱいいるけど……」


 巨大な蜘蛛の魔物の出現に興奮したのか猿の様な魔物が飛びかかっていくも蜘蛛の糸に絡め取られ強制的に睡眠状態へとされていく。


「アハハハッ! ここは森、私の独壇場ホームよ! 既に"巣"は作り終えたわぁ。 おいで我が子達…… 食事の時間よ!」


 すると暗がりから蜘蛛の魔物がゾロゾロと這い出て来る……

 や、やっぱり蜘蛛はちょっと気持ち悪いかしら……


「さぁ、早く」


 アッシュに抱えられる様にして森を抜けると、開けた丘に遺跡と思われる崩れた建築物が見える。


 そこに1人の長髪の男性を先頭にズラリと異形の魔物達が並んでいる。


「アッシュ、あれ!」


「……えぇ、見えてます。 正直ヤバいですね……」


「ほら、やっぱり。 上位の魔神?」


「それはまだ、なんとも…… ただ……あそこに並んでるヤツら、一人一人がさっきの猿モドキとは違ってかなり強い……」


「おや? 羽虫が飛んでると思ったら、悪魔だったのか?」


 先頭の長髪の男が振り向いて話し始める。

 

 驚くほど整った顔立ちで、お兄様達やアッシュを見てイケメンに慣れている私でも、思わず息を呑むほど……

 長い銀糸の様な髪はサラサラで貴公子然とした佇まいだ。


「ふむ。 なかなか強そうな悪魔じゃないか、どうだ? 僕の仲間にならないかい?」


「…………お前の名前は?」


「フフフ、そうか暫く眠っていたからね最近の悪魔は僕の事を知らないか。 いいよ、教えてあげる。 僕の名前はシェムハザード。 元始の魔神が1柱だよ」


「なっ!?」


 なるほど、イケメンの名前は分かったけれど、名前を聞いてからアッシュがガタガタと震え出した。 そんなにヤバい相手なのかしら? ちゃんと話し出来そうだけれど……


「お嬢様…… 最悪の中の最悪です。 ヤツには絶対に勝てない…… なんとか逃げてヤツが飽きて気紛れに去るのを祈るしか……」


「ふむ。 君はなかなか正確に実力差を捉えているようだが…… なぜブタなんかに仕えているんだい? 僕はね美しくないモノは人でも、物でも嫌いなんだよ。 逃げてもいいが…… そこなブタ、お前は駄目だ」


「お嬢様、とりあえず俺の封印を解いたら森まで走ってバエルと一緒に全力で逃げるんだ!」


「ア、アッシュは?」


「適当に時間を稼いだら逃げます……」


「わ、わかったわ! ちゃんと逃げるのよ!」


 ヤバい! あのイケメンの目…… 本当に私をブタとしか見てない…… 怖い! 早く逃げなきゃ!!


「フフフフフ、それで走っているつもりなのか? 転がった方が速そうだがな。 お前達、あのブタを捕まえて来い。 ただし殺すなよ?  後で解体ショーでもしよう」


 ひぃっ!? アッシュ! 封印解除!


「行かせない!!」


 アッシュが前に見た角の生えた姿に変わると、私を追って来ようとする異形の魔物達と戦い始めた……


 早くバエルちゃんと合流しないとっ!!




 

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