第12話 鬼のパンツはトラの毛皮で出来てるから結局トラが強いって話し


「おにーのパンツはいいパンツー つよいぞー つよいぞー」


 ふと前世の童謡が頭をよぎって口ずさむ。

 あれれー? うーむ、歌詞がよく思い出せないなぁ……


 何だっけ? たしか5年とか10年とか履いても破れない強いパンツって歌だったと思うけど……


「おや、フラン姫様。 オーガのパンツに感心が?」


「あるわけねーだろ!」


 あらやだ、思わず素で鋭いツッコミをいれてしまいましたわ。

 セドリックがオヨヨと涙目になってしまっているわ。


「いや、別にオーガのパンツに興味がある訳じゃないんだけど、オーガとかオークとかの人型の魔物って一応服というか腰蓑みたいなの着けてるじゃない? あれってどうしてるの? ちゃんと洗っているのかしら? そもそも衛生とか気にしているのかしら?」


「なるほど、流石フリル姫様! 魔物の衛生状態にまで気を配るとは! はて? 以前何処かで裸のオークキングを見た気が…… うっ頭が……」


 駄目だコイツ、いつか殺そう……


「では、アッシュ。 姫様の為にオーガの腰蓑を取って来てください」


「は? なんで俺が……」


「シャラッープ!! シャアラァッープ!! ノンノン! 口答えは良くないですよ。 アッシュ、アナタは新人従者。 私はフリル姫様の教育係アーンド侍従長! ワカリマスカ?」


「くっ、イラつく奴しかいないのかこの城は!?」


 セドリックが胡散臭い髭をピーンと指で伸ばしながらアッシュにマウントを取っている。 まぁ面白いからほぉっておこうかしら。


「さぁ、行って来るのです! オーガのパンツの一枚や二枚直ぐに持って来なさい! ハリアッ!!」


 シッシッっと手を振られ渋々といった感じでアッシュが出ていくとセドリックがスッキリした顔で戻ってくる。

 最近ストレスでも溜まっているのかしら? ちょっと暇を出そうかしら……



「では、姫様。 アッシュめが帰って来るまでの間、鬼に関する昔噺しをいたしましょうか」


「昔噺し? おぉ、面白そう。 ちょっと聞いてみたいかも」


 するとセドリックは何処からかフリップを取り出して来てセットし始めた。


「では、失礼しまして」


 そう言ってセドリックはフリップをめくり始める。


「むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました」


 おぉ、昔噺しだ! 始まり方は一緒なのね!


「お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました」


 おや? これはもしや桃から生まれた子が鬼を退治する話しなのでは?


「お婆さんが川で洗濯をしていると、川上からドンブラコ、ドンブラコと……立派な赤子が流れて来ました」


「赤子!? そのまま流れて来たの?」


「赤子を掬い上げたお婆さんは『おや、これはいいお土産になるわ』と家へ持って帰りました。 そしてお爺さんが帰って来ると、『美味しそうな赤子が取れたんですよ。 一緒に食べましょう』と言い、大きなナタを振り下ろしました」


「こわっ!? これお爺さんとお婆さん人間じゃないでしょ!?」


「すると、赤子のお尻がパッカーンと2つに割れました。 それ以降人間のお尻は2つに割れて生まれるようになりました」


「それまでお尻割れてなかったんですの?」


「フフフ、姫様。 昔噺しや神話なんてそんなものですよ。 ツッコむだけ野暮ですよ」


 たしかに、脇から産まれたとかって逸話もあるぐらいだから尻が割れた逸話があってもいいのかしら……


「その後スクスク育った赤子は、ある日お爺さんとお婆さんに言いました。 『私はオウガ島に行って悪いオーガを退治してきます』 そしてお婆さんに気味悪団子を作ってもらうとオーガ退治に向かいました」


「あっ、結局育てたんですわね。 それにしても気味悪団子! ま、まぁ…… そこまでツッコむ程でもないかしら……」


「しばらく行くと青黒い肌のヘルハウンドがやってきて言いました。 『ドンブラ子さんドンブラ子さん気味悪団子を一つくれたらお供しますよ』 」


「ドンブラ子! 名前ドンブラ子なんですの!?」


「そして気味の悪い団子をクチャクチャ食べるヘルハウンドを連れてしばらく行くと、今度は赤い帽子のレッドキャップがやって来て言いました。 『我が名はレッドキャップ。 ドンブラ子よ、その気味悪団子と引き換えにお供をしてやろう』」


「まぁ、強そうですわね。 レッドキャップ」


「またしばらく行くと、今度はサンダーバードがやって来て言いました『ドンブラ子さんドンブラ子さん気味悪団子を一つくれたらお供しますよ』」


「普通! サンダーバード普通! 出て来る順番間違えてませんこと?」


「ヘルハウンド、レッドキャップ、サンダーバードをお供にしてオウガ島に辿り着くとオウガ島では付近の村や町から奪ってきた食べ物や酒で宴の最中でした。 『よし、抜かるなよ』とドンブラ子が合図をすると、ヘルハウンドはオーガの尻を喰いちぎり、サンダーバードはオーガの眼をクチバシでくり抜いて食べていく。 そしてレッドキャップは『我が名はレッドキャップ、又の名を血魔繰魔将! この双槍の餌食になりたければかかってこい!』と息巻いています」


「けつまくりましょう? 一気に弱そうになりましたわ! そしてやっぱり1人だけキャラが濃い!」


「さらにレッドキャップは必殺技を繰り出します。 『双槍操術霜蒼葬送切創斬そうそうそうじゅつそうそうそうそうせっそうざん!!』」


「そうが多い!! 必殺技にそうが多いですわ!」


「そして、ドンブラ子も剣を持ってオーガ達を斬りまくります。 ドンブラ子の持つ剣は異質でした。 それは武器というにはあまりにも悪趣味だった。 おぞましく、血塗れでそして不謹慎だった。 それはまさに婆ァだった。 『ケツを割られた借りをしっかりと返して貰うぞ、婆ァ脊髄剣!!』」


「お婆さ〜ん!! ケツ割ったのしっかり根に持たれてるゥ!! そんでもって色んな方面から怒られろ!!」


「オーガ達を殲滅したドンブラ子達はオウガ島で新たな帝国を作りました。 そしてドンブラ子はドン・ブラコ…… ドン・ブラッコ…… ドン・ブラックと呼ばれる様になり、現在の黒の帝国の始祖になりましたとさ。 めでたしめでたし」


「なんかどっかに黒の帝国ってのがあるって聞いた事あるけど本当の話しなんですの?」


「さぁ? 信じるか信じないかはアナタ次第……」


「やかましいわボケ!」



 私がセドリックの下らない話を聞いている間に、皇都周辺のオーガの集落が壊滅したらしいって報告があったらしいわ…… それにしても何か忘れてる気がするのだけれど……


 そうだ!! 鬼のパンツはトラの毛皮で出来ているから結局トラが強いって事だよね!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る