第10話 第2皇女アリアンナのお茶会


「いや〜流石でございます!! フリル姫様!! このセドリック感激致しましたぞ! まさかよわい13歳で九九を覚えておいでとは!! 神算鬼謀! 深謀遠慮! 百術千慮とはまさにこの事! いやぁ…… 本日のお勉強はこの辺でお開きと致しましょう」


 うららかな陽射しが大きな窓から差し込んで、気を抜くと眠ってしまいそうな午後の算数のお勉強の時間。

 私の目の前では胡散臭いセドリックが胡散臭いヒゲを右手でクリクリと弄りながらオーバーリアクションで褒めちぎってくる。


 もうここまでくると忖度とかのレベルじゃなくてバカにしてるんじゃないかと思えてくる。


 私が皇女という立場だからか私の事をおバカちゃんと思っているのか、はたまたこの世界の教育水準が低いのか13歳で九九なんてやっている。 まぁ簡単でいいんだけれど…… 今から微分積分とかやられても思い出せないし。


「あっ…… でも姫様、7×8=58ではありませんぞ! しか〜し! もちろんこのセドリック、フリル姫様の言い間違いだと気付いておりますぞ!」


「ハハハッ…… あ、当たり前じゃない! 素で間違える訳無いじゃない…… ハハハッ……」


「ではお嬢様、7×8の正しい答えはなんでしょう?」


 黒いスーツに身を包んだ白灰色の髪をした美少年が私の誤魔化しを許さないように、すかさず詰めてくる。


「うっ……」


「これアッシュ!! フリル姫様の従者として取り上げて頂いたというのになんと生意気な事を……」


 セドリックがアッシュを窘めてくれたが、いつもイジっている事を根に持っているのか!?


「ご、ごじゅう…… よ……」


「56ですな! まぁ姫様は分かっていたと思いますが!」


「チッ」


 あぶなっ!? 流石セドリック!! さすセド! いつも胡散臭いなんて思ってごめんね!


 それはそれとして聞きました奥さん? あの子舌打ちしましたよ、舌打ち! まぁなんて子なんでしょう!! 怖いわー そんな子に育てた覚えはないわ!


「して姫様。 本日はアリアンナ姫様とのお茶会のご予定が入っております。 そろそろアリアンナ姫様のお部屋へと移動致しましょう」


 そうだった。 今日は第2皇女アリアンナ、つまり私のお姉ちゃんにお茶会にお呼ばれしているのだった。


 アリーお姉様はお父様似の柔らかい赤毛で色白でおっとりしていてとっても美人さんなお姉様だ。

 赤毛と言っても前世のアニメなんかによくある様な真っ赤とかではなくて赤茶ぐらいだけど。 

 私の2個上でいま15歳だったかな、前世を覚えている分、私の方が精神年齢は上だろうけれど。



「フリル!! まぁ一段と可愛くなって!!」


「アリーお姉様! 本日はお茶会に呼んでくださってありがとうございます! って、ちょっ!? やめっ…… あっ……」


 考え事をしていたらあっという間にアリーお姉様のお部屋に到着。


 到着と同時に迎えてくれたアリーお姉様はいきなり情熱的なハグ…… からの色々な所をモミモミ…… ほっぺをプニプニ、下あごペチペチ、お腹をプルプル……


 お返しにアリーお姉様の身体をモミモミしようにも余分な肉が見当たらない……


 いや、一箇所有るには有る…… そう、たわわに実った豊満なバストだ……

 う〜ん、しかしこれは揉んで良いものなのか…… 姉妹だし、スキンシップといえばそうなんだけど…… と私が悩みながらアリーお姉様の胸を凝視していると


「あら? そんなに胸を見てどうかしたかしら?」


「えっ!? いやぁ…… アリーお姉様はスタイルがいいなぁ、なんて思って……」


「あら、でも胸はフリルの方が大きいんじゃない? とっても立派よ!」


「あはは……」


 はい、とっても立派なのは胸だけじゃないんですけどね!!

 それにしても、私の美少女バージョンの時は胸までペッタンコになっちゃうんだけれど、あと2年もたてば美少女バージョンもアリーお姉様みたいなスタイルになれるのかしら?


 なんだか無理そうだけれど…… そんな事を考えていると後ろからクックッと笑い声が聞こえてくる。


 アッシュ…… あの厨二病め……


「あら? あの子は?」


「アリーお姉様、紹介致しますわ。 新しく私の従者として迎えたアッシュですわ」


「アリアンナ皇女殿下へご挨拶申し上げます。 フリルディーネ様の従者をさせて頂いているアッシュと申します」


 なにこの子…… 私には見せた事の無いような爽やかな笑顔で丁寧に挨拶してる!


 クッ! 主人として舐められているわね、こうなったら今度本を片手に徹底的に主従関係を教えこんでやろうじゃないの!


「フリルの姉のアリアンナよ。 ふふふ、フリルが自分で従者を連れてきたって聞いたから気になっていたのよ。 美味しいお菓子もあるわ、アナタも一緒にどう?」


「いえ、俺は……」


 アリーお姉様はアッシュの返事も聞かずにテーブルへ向かうと椅子へ腰を下ろす。


 この部屋はアリーお姉様が気に入っているお部屋で、寝室とは別にお茶会を開いたりゆっくり寛ぐ為に造られたコンサバトリーみたいなもので、天井含め大部分がガラス張りになっており、いろんな植物や花を植えてある。

 温室の様になっているけど、室温や湿度は人が過ごしやすい様に魔導具で調整されたいるみたい。


 アリーお姉様のメイドがテキパキとお茶の用意を始める。


「どうぞ、座って」


「はーい、アリーお姉様」


 私が椅子に座ると私の後ろに控えるようにアッシュが立つ。

 するとアリーお姉様がアッシュの方を向いて微笑む。

 

「アッシュちゃんでいいかしら? 質問があるんだけれど、答えてくれるかしら?」


「もちろんです」


 微笑んだままアリーお姉様が聞くとアッシュは恭しく頭を下げて返事をする。

 アリーお姉様は何を改まって聞く事があるのだろうか?


「じゃあ、失礼して…… 『アリアドネーの糸』」


「なっ!?」


 アリーお姉様の身体が薄く光を帯びると、指先から糸のようなものがアッシュへと伸びて行く。

 驚いて見ているとアッシュの胸の辺りに吸い込まれていく…… なにあれ?


 アッシュも驚いたらしく一瞬身体を強張らせるが、胸に入っていく糸を受け入れたらしい。

 少しだけ苦悶の表情を浮かべるも、直ぐにいつもの涼しい顔に戻った。


「それじゃあ。 アナタ──アッシュちゃんはかわいいかわいいフリルの事を主人として敬愛し尊敬し、全身全霊、粉骨砕身、一心不乱に身を粉にして一生を捧げるつもりで働ける?」


「え!? いや…… 」


「ふーん? なら、かわいいかわいいフリルの事を危険から守ってくれるかしら?」


「はい。 それは勿論」


「……じゃあ、フリルの事を絶対に裏切らないと誓える?」


「……はい。 勿論です」


「あら? そう…… 大丈夫なのね、良かったわ!」


 なんか最後の質問だけお姉様の雰囲気が違くて怖かったけれど、何が良かったのだろう?

 にしてもアッシュめ、一つ目の質問を普通に断ってたよね……


 すると質問が終わったからかスルスルと先程の糸状の何かがアッシュの胸から出てアリーお姉様へと戻っていく。


「ふふふ。 この『アリアドネーの糸』はね、決して切れないし何処までも伸びる糸なの。 それをアッシュちゃんの心臓に絡ませておいたのよ」


「し、心臓に?」


 アリーお姉様がそんな中学生男子が喜びそうな能力を持っていた事も驚きだけど、なんでそれを心臓に?


「ふふふ、フラン。 私の『アリアドネーの糸』には切れないのと何処までも伸びる特性以外に3つの能力があるのよ。 その内の1つ…… 心臓に絡んだ糸は私の質問に正直に答えなかった場合……」


「ど、どうなるの?」


 なんとなく予想は付いたけれど…… アリーお姉様は勿体ぶって紅茶を一口飲んだ後言ったわ──


「心臓を潰すのよ」


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