第8話 よくデザートは別腹って言うけれど、それってオレキシンがどーたらこーたら……
「ちっ、ありゃあマジもんの化け物だぜ……」
バイケンが低い声で呟く。
「アレを食べてる間に逃げられりゃあいいんだがな…… 嬢ちゃん、その子を連れてゆっくり気付かれない様に逃げれるか?」
「う、うん。 やってみる。 オッサ…… バイケンは?」
「俺は嬢ちゃん達が逃げれる様に援護をするぜ…… どうやら手遅れみてぇだしな……」
そう言ってバイケンは背中を見せると、鋭い棘が何本も突き刺さっている。
「そんなっ!?」
「ご丁寧に毒まであるみたいでな…… さっきから震える程の動悸と寒気が止まらねぇ…… 少し時間を稼ぐのが精一杯だ。 上手く逃げてくれよ」
そう言ってバイケンは怪我をしているとは思えない動きでマンティコアへと近づくと居合の斬撃を繰り出す。
「ちぃっ!! こんな時に限ってカスばっかりだぜ……」
バイケンが何をブツブツ言っているのかわからない、けれどこのまま逃げたらバイケンは死んでしまうだろう。
──私にも魔法が使えるならっ!
イメージする。 私が直接敵を撃ち倒す技なんて思い浮かばないけれど…… きっとバイケンのオッサンが万全の状態なら…… まずは傷を治すイメージで……
え〜っと…… 対象をバイケンに…… 身体を健全な状態に回復! そんでもって、もう傷つかない様に状態を固定! そして、あの魔獣を斬り倒す力を付与!!
「ちっ!! かてぇ!! 刀が通らねぇ……」
マンティコアがボスを食べるのを中断して棘のある尻尾を高速で振り回す。
「がぁっ! いっ…… たくねぇ? 当たったはずだが? それに背中の痛みも消えてる……」
不思議そうに身体を見回すバイケンと一瞬目が合う。
私が頷くとバイケンが薄く笑った様に見えた。
「嬢ちゃん…… 本当に女神様じゃあねぇのかよ? 何やら力も湧いて筋も見える見える…… 松に鶴! 芒に月! 桐に鳳凰! 三光!!」
バイケンの刀が薄らと蒼い光を纏うと幾本もの美しい線を引き、魔獣を切り刻んでいく。
「いくぜ、こいこい!! 雨四光!!」
光る斬撃が降り注ぎ、横薙ぎの一閃がマンティコアの頭と胴体を斬り離す──
老人の薄青色の目は虚ろになり、口からはブツブツと呪詛にも思える呻きをあげ、別たれた首の断面からは赤黒い血が床を汚していく。
そうした後に魔獣の胴体はゆっくりと倒れ伏していく。
「お嬢! 助かったぜ! あんな傷を一瞬で治して、毒まで…… しかも
お嬢? ちょっとだけ呼び方が変わったけれど、バイケンが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「お嬢、まさか最近巷を騒がせている聖女様ってのはお嬢の事か? まぁ今なら本物の女神様だって言われても今なら信じちまうがな!」
聖女? そんな事言われた事ありませんけど?
「ま、まぁ良かったですわ! ちゃんと回復魔法が発動して! 初めてだったからドキドキしちゃった」
「初めて!? 初めてであんな魔法を!? そういや詠唱も聞こえなかったような…… まぁ、この不肖バイケン、お嬢には心から感服したぜ! 良いところのお嬢様なんだろうが、良かったら仕えさせてくれないか? お嬢の剣となる事を誓うぜ!」
「いやぁ…… え、遠慮しときますわ……」
「えぇ!? なんで!? 俺ぁお嬢に命助けられたんだ!! 恩返しさせてくれよ!!」
いやいや、オッサン侍らず趣味はないわ! まぁ、このオッサンも一部に需要がありそうなイケおじだけれど…… 私は美味しいものを食べたいだけなのよっ!?
☆★☆★☆★☆★☆★
「なんでぃ…… 本当にこんなんで良いのかい?」
「いいのいいの! 私は美味しいものを食べたいだけなの!!」
人攫いのアジトで保護した少女と、さらに奥の部屋にも数人の少女を発見し、その子達を衛兵に引き渡して来た後だ。
どうやらここ最近多発していた誘拐事件を衛兵隊だけでは追えずハンターズギルドに懸賞金を掛けて依頼も出ていたようだ。
何人かのハンターが依頼を受けていたようだけれど、ソロでアジトを発見したオッサンは中々優秀なハンターみたいだ。
そして私は今、バイケンのオッサンと共に王都にあるラーメン屋でラーメンを食べている。
まさか異世界でラーメンを食べれるとは!! しかも、ガッツリ家系ラーメン!!
お礼お礼五月蝿いバイケンに美味しいご飯を所望したらここに連れて来てもらったのだ。
「んーおいひぃ!」
「お嬢…… 見た目によらず結構たべるんだな…… もう6杯目……」
確かに…… 通常モードならまだしも美少女バージョンであんまり食べると周りにびっくりされるかも……
「まぁ、腹八分目って言うしね。 ご馳走様!! デザートは何があるのかなっ?」
「えぇ!? デ、デザートまで食べるのかっ!? その華奢な身体のどこにそんなにはいるんだ!?」
「デザートは別腹、別腹!! アイス! ケーキ! パフェ!!」
「お嬢…… ちょ、ちょっと待って…… さ、先に今回の依頼の報酬もらって来てもいいか?」
「おっけー」
そう言ってオッサンはバタバタと走って出て行った。
オッサンが帰って来るまでにもう一杯いけるかも……
☆★☆★☆★☆★
帰ると部屋でアッシュが倒れていた……
どうしたぁ? 私が居なくて寂しくて死んだんか? ん?
「お、おい…… お前の兄姉はなんなんだ…… 1日中連れ回されたり、話し相手になったり、食べさせられたり…… AIじゃ対応出来ないから俺がずっと動かして受け答えしてたんだぞ!!」
「あーー…… 今日はお兄様達来たんだねぇ。 どんまい!」
「クソっ!! 透明化してフォローする方が大変だ! 早く俺を正式に雇って紹介しろ! 下さい!」
「そうそう、丁寧な言葉を使ってねー。 あんまり強い言葉を使うと弱く見えるわよ? ふふん」
「クッ! なんか腹立つ!」
まぁでも、そろそろ私の専属執事として正式に雇用しようかしらねー
「ところでアッシュ。 あなた本当はどこの子なの?」
「どこの子とは……?」
「えっと…… ほら、いい加減ちゃんとした出自を教えてくれないと……」
「えっ!? 大悪魔だって言ってるけど……」
「あーー、ほら…… ねっ? 恥ずかしがらずにさ?」
あっ、なんか涙目でプルプルしてるわね……
そんなに言いたくないのかぁ…… そう言えば凄く魔法に詳しかったり、自分の事悪魔とか言ったり…… 親に気味悪がられたりして捨てられちゃったのかしら? う〜ん、それなら可哀想だしぃ? 自分から話してくれるまで待つべきかなぁ? ふぅ、私ってば大人だなぁ〜
「ま、まぁ悪魔…… ふふっ。 そうね、悪魔ね…… プッ…… し、信じてあげるわ…… グフっ」
「もういっそ殺してくれ……」
プククククッ! 笑いを堪えるのも大変だわっ! なんだかブツブツ言ってるし、あれ? くちびるから血が出ている様に見えるけど平気かしら? まぁ悪魔なら平気ねきっと! うふふふふ。
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