第5話 苺タルトが食べたいのっ!!


「お〜ん……」


「どうしました、お嬢様? これから出荷される家畜のような声を出して?」


「誰が家畜よっ!?」


 次の日の朝、私は現在自分の部屋でクローゼットを漁りながらうんうんと唸っている。

 理由は簡単。痩せた美少女バージョンの時に着れる服がないのだ。


 アッシュは執事の服を着て、何処からか持って来た紅茶とお菓子を摘んでいる。


「アンタどっから持って来たのよ? そのお菓子」


「普通に厨房からですよ?」


「アンタみたいな知らない人が来たら騒ぎにならない筈ないじゃない?」


「もちろん。俺は透明化の魔法を使って居ますからね。お嬢様に見えるのがおかしいんですよ」


「今も使ってるの?」


「ええ、もちろん」


 私からしたらアッシュは普通に見えるけど……もしかしたら、それも設定?


「てか、私も透明化したら服とかなくても良いんじゃない? 透明化もイメージでいけるかしら?」


「どうぞ。イメージです、イメージ」


 優雅に紅茶を啜りながらアッシュが投げやりに答えてくる……まぁいいわ。


 イメージ……


 イメージ……


 透明に……透明に……少しずつ……少しずつ……


「ぶはっ!?」


 私が目を瞑ってイメージしてると突然アッシュが紅茶を噴き出した。


「な、何!?」


「なんてもん見せやがるんですかっ!!」


 言われて自分を見ると服だけ透けて、私のダイナミックなワガママボディが露わになっている。


「ぎゃあっ〜!! エッチっ!!」


「アホですかっ!? 俺は悪魔だ! 人間になんて欲情しませんよっ! オットセイに欲情する人間は居ないでしょう!?」


「誰がオットセイか!!」


 うぅ、コイツ言葉遣いが多少丁寧になっただけで言ってる事ヒドイんですけど!?

 うら若き乙女の裸を拝んでおいて吐いてるし……


「フリル姫様!? 悲鳴が聞こえましたがどうなさいました? ってグハァッ!!」


 私の悲鳴を聞きつけたセドリックが部屋に飛び込んで来たけれど、血を吐いて倒れたわ……どういう事!?


 とりあえず魔法を解除してセドリックに駆け寄る


「ちょっと!? セドリック大丈夫?」


「あれ? 姫様? ハッ!? 先程のオークキングはどこに!? グハァッ!!」


「誰がオークキングだっ!!」


 私は妄言を吐くセドリックにトドメを刺した。




☆☆☆☆☆


 

 結局、美少女バージョンの洋服問題はというと……


「お嬢様、コピーロボットの洋服ってどうなってますか?」


「えっ? どうなってるも何も……あっ! 魔力で作ればいいのか!」


「そういう事です」


 って事で以外と簡単に解決しました。


 なので今日も待望の──

 ティータイムッ!! 昨日言ってた通り今日はタルトを食べたいって伝えておいた。

 

「お嬢様、お茶の準備が整いました。本日は王都で人気のパロプンテの苺のタルトです。合わせるお紅茶はランカ国産のキャンテッロかダァンブラをご用意致しました」


 私の専属スイーツメイドのココがいつものように説明してくれる。


「パロプンテのタルト!! 美味しいのよね! 」


 パロプンテってお店は、ちょっとモノによって味にバラツキがあるお店なんだけどタルトは人気商品でとても美味しい。

 マズいものはヤバいマズいし、食べると混乱したり痺れたりするモノまである。

 一部の嗜好家に需要があるらしいけど……


「お茶はダァンブラを貰うわ。味の濃いパロプンテのタルトにはクセのないダァンブラのが合いそうね」


 ココが丁寧に紅茶を淹れてくれる後ろでアッシュがタルトを摘み食いしている……

 どうやら本当に他の人には見えていないみたいだ……それはそれとして──


「そこ! つまみ食いするんじゃないっ! 止まりなさい!」


「えっ!?」


 おっと、ココがビクッとして周りをキョロキョロしちゃったわ。


「あーごめんごめん。ココの後ろにデカいネズミがいたのよ」


「まぁ!? フリルお姫様のスイーツをつまみ食いするなんて、なんて命知らずなネズミさんなんでしょう!」


 なんて言って笑っている……命知らずて……いくら私でも少しぐらいスイーツを分け与える余裕はあるわ。そう、少しぐらいならね。

 ココはメイドとしての技能は申し分ないのだけれど、少しおっとりしてるというか不思議ちゃんが入っている子だ。


「まぁ、パロプンテのタルトは美味しいから仕方ないわね!」


 新鮮な卵と牛乳を使った風味豊かなカスタードに自家製のジャムを重ね、その上にまるで宝石のような赤色が美しい苺をぎっしりとしきつめた、贅沢ないちごタルト。

 それを一口食べると……季節ごとに厳選した苺と、しっかりしたサクサク歯応えのバターの風味豊かなタルトがマッチしている。

 カスタードクリームは甘さ控えめで、タルトと甘酸っぱいイチゴをまとめ上げていく。僅かに口の中に残る甘み、それを芳醇な香りとコク、爽やか渋みが特徴のダァンブラで流していく……


 う〜ん美味ッ!!


 フフフッ。固まったままのアッシュは暫く放っておこうかしら




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