第46話 久々に昂りました...

「...聞こえますか?......ふふっ...暴れないでくださいね。暴れても鎖も出口のカギも開きませんから」


はじめ、男は王城の牢に繋がれて居た筈だった。少なくとも男はそう思っていたし、半分正解だ。


「初めまして。私はこの度、臨時で王家直属の拷問を受け持つ事になった者にございます。これから長くなるか、短くなるか分かりませんがどうぞよろしくお願いします」


目と口を塞がれ、手も足も椅子に固定されている男は目の前にいるであろう女に手を出すことも質問する事も出来ない。


いつもみたいに気に入らないからと言って、使用人や”ペット”を殴ることも勿論できない。


「ああ、ですから暴れてはいけません。お身体に傷が付いてしまいます」


女は暴れる男をあやすように話しかける。赤子に言い聞かせるように何度も、何度も、何度も...。


「ふふっ...落ち着きましたか?では説明を始めますね?大丈夫、お身体に触れる際は前もってお伝えしますので、今は私の話を聞いてくださいね?」


疲れて動きが少し鈍ったタイミングで、そう言い放たれた。


実際拘束が緩む兆しは無いし、金具がこすれて非常に痛い。口も塞がれていて息が苦しい。


口から漏れ出る文句は女に伝わらず、女の言葉に耳を傾ける他なかった。


「ここは王家直轄の独居房で基本的に誰も来られません。貴方は公式にはこれから自ら毒を飲んで死んでしまう...と言うシナリオになっております。はい、暴れないでくださいね~。


三分だけ筋肉を弛緩させる魔術を使いますからね。ビックリしないでくださいね~」


暴れた男の四肢が急に力を無くして、だらん...とされるがままになる。


「ふふっ......シナリオ通りならもう貴方は死んでいます。ここに居るわけないのです。毒...飲みたいですか?」


男は首を振ることはできない。全身に力が入らない。


「大丈夫、私の問いに素直に答えてくだされば...毒を飲むようなことにはならないでしょう。


今から目隠しを取ります。私が質問した時以外に言葉を発したり、意味もなく動いたりしたらダメですよ?」


ゆっくり背後に回った女の気配、後頭部にある結び目が解かれて視界が戻ってくる。


「???.........っ!!ん!!!ん”ん”ん”!!!」


牢獄に行けば貴族であれば見学すら出来るよくある独居房。しかし置いてあるものが異質だった。


金属のカートにフレンチを食べるときに使うカトラリー...ナイフとフォークが並んでいた。


カトラリーは均等に、規則正しく綺麗に並んでいる。


しかし、何本か並んだあとの道具は知らない。男が見たことのない物であった。


鋭くとがっていたり、挟めるようになっていたり、ナッツクラッカーの亜種のようなものまで数多く並んでいた。


女が男の目の前に戻ってくるといつの間にか用意されていた椅子に座り、カートから道具を取って布巾で拭き始めた。


「ダメですダメです。落ち着いて?今暴れたら勿体ないです」


女は手に持った××をそっと男の△△の間に差し入れる。少し力を入れたら××が△△を割って入ってしまう。


男の呼吸が乱れて、無意識に身体が強張る。


「偉いです。とっても、偉いです」


女は××を少し傾けたり戻したりしながら微笑む。


「毒、飲みたくないですよね?それにこれ...きっと痛いですから...質問に答えてくれますよね?」


「ん!ん!ん!」


三分経ったのか、男は頭を縦に振って意思表示をする。


「はい♪助かります。


では、一つ目......あの日...そう、聖女を見つけた日です。どうしてあんなに急いでおられたんですか?」


「??んぅ......」


「今から轡(くつわ)を外しますからね。答え以外、口にしないでくださいね」


男...バックス伯爵はてっきり聖女を引っ張り出した件について詰問されるのだろうと思っていた。


「はい♪どうぞ、答えてください。どうしてあんなに急がれていたんですか?」


「げほっ!げほっ!......はぁ、はぁ......。


あ、あの時は借りていた...はぁ...はぁ...借りていた倉庫に賊が入ったと聞いて...慌てていたんだ...」


これは事実だ。借りていた倉庫、倉庫の持ち主は別だが、ある”商品”を置いておく場所だった。


そこに賊が入って...火消しをしなければいけなかった。


「なるほど、それはご愁傷様です。荷は無事でしたか?」


全体の一割ほど消えていたが残りは無事だった。夜のうちにもう一つの”商品”が置いてある別の倉庫に移してある。


「ぶ、無事だ。か、金ならある!どうだ!?ここで私を逃がしてくれたら望む額を...地位も男も用意しよう!悪い話じゃないだろう!?」


「ふふっ......う~そ♪、つ・き♪」


女は再び手にした××で力いっぱい△△を割って入り、そのまま××をねじるように回転させた。





「落ち着きました?大丈夫死にはしません。私が臨時で呼ばれた理由は死なせずに、失神させず、継続的に痛みを与え続けることが出来るからなんです♪


沢山練習したんです♪私の大事な人たちには敵が多くて...口も固い人が多くて...ふふっ。


まだ一回目ですよ?これと同じ部位は...数えられますか?♪


ふふっ♪これが終わったら次は根本を強く縛って、血が流れずらい様にしてあげるんです。


そしたら、先っぽから少しずつ潰したり...削ったり...ふふ♪


大丈夫、死にませんしこれから正直に答えてくれればいいんです♪」


バックスは痛みで返事など出来ない状態なのに女は楽しそうに続ける。


「因みに、貴方がボスの事に関して情報を吐けないのは知っています。誓約魔術が掛かっていて流石に解くのは無理でした。


無理やりしちゃうと頭が焼けちゃいます。半分も情報が取り出せませんし勿体ないです♪」


××を二か所目に当てながら次の質問を投げかける。


「だけど、貴方が他の貴族派閥を誘って違法な商売に手を付けているなら、貴方からそのお友達に蜘蛛の巣を広げられます。


ボスを捉えられなくても...ちょっとずつ、ちょっとずつ囲い込んでいくんです♪


あの倉庫、ある商会の持ち物ですけど...本当の出資者は、だ~れだ?♪」



誓約魔術が掛かっていると、そのことに関して口にしたり書き記したり出来なくなる。


誓約魔術を交わすときに記した契約書にのみ内容が記載されるのだ。


「伯爵が誓約魔術を受け入れる相手なんて、よっぽどの人なのでしょうね。


貴方はまだ、その人に助けて貰えると思ってる...ふふっ。


だから七回も嘘ついちゃったんですよね?分かりますよ」


暇つぶしにボロボロになった△△に塩を一粒一粒落としながら女は続ける。


「貴方から聞いた貴族も、貴方と同じトカゲのしっぽ...。けど、私の主と違って必ずミスをする。


貴重な情報ありがとうございます♪」


バックスは舌を噛まないように再度、轡(くつわ)を口にはめられていた。


「一つ目の倉庫には薬物、二つ目の倉庫には...奴隷♪...奴隷♪...奴隷♪...禁止されている、奴隷♪」


女は止血バンドを歌いながらバックスに付けていく。


「次の質問は...…」






「お疲れ様です♪良かった!片方は”残り”ましたね!ふふっ。正直、想定以上に耐えてビックリしました。


久々に”削ぐ”工程まで行って正直時間ギリギリです。ふふっ、聞くことも多かったですし仕方ない残業ですね。


それにしても~...そんなに怖いんですか?ボス...飼い主さんは?」


バックスの聴覚は傷ついていないため聞こえてはいるが、拷問による痛みで反応できない。


「ふふっ...後は...脳、焼いちゃいますね♪」


「っ!...」


バックスがかすかに反応する。言葉を発することが出来たなら.…..話が違うだろ!?であろうか。


「毒は飲ませません。この怪我も生活は不自由になりますが...治ります。けれど貴方に虐げられてもっとひどい状態の奴隷もいました。


ダメです。許されません。あなたの脳から無理やり情報を引き出します。


貴方はもう、一人では何もできなくなり、意思疎通も出来なくなります。


クスクス...」


丁寧に男の傷口を洗いながら女はさらに続ける。


「聖女を傷つけようとしたのも重罪ですけれど、元々詰んでいたのです、貴方は。


フィリップ様も殿下も、この報告で貴方の評価を少し上げるでしょうね。思ってたより、いい情報を持っていました。


ですから、最後に...ご褒美♪」


女はバックスの耳元に顔を近づけて、確実に聞こえる様にはっきりと”ご褒美”を与える。


「貴方が誓約魔法を結んだ相手...クスクス...知っています。それは......」


バックスはそれを聞くと目から枯れたと思っていた涙が再度溢れだし、力なく嗚咽を漏らす。







「報告は以上です。カスパール殿下、フィリップ様」


「ご苦労だった、イルマ。いつも済まないね」


「勿体ないお言葉にございます」


「それにしても...芋づる式でかなり名前が出ましたね。独房で処分される前にバックスのすり替えが出来てよかったです」


「本当に...ね。今頃エレオノーラはみさと様の所かな?はぁ~...事実確認を急がなきゃいけないけど...あ~イルマと一緒に行ってエレオノーラを見てきてはダメかい?」


「ダメに決まってるでしょう...。今日は私とここに缶詰です」


イルマは二人の居る執務室から退出して離宮の控室へ急ぐ。


さっさと湯あみをして、着替えてから最愛なる主と姉、そして慈悲深い聖女の顔を見に行きたい。

イースと言う子も気になる。姉と聖女様...みさと様が気になさっていた。


「ああ、けれど久々で少々やりすぎてしまいました...少し昂りを抑えるためにも...急ぎましょう♪」


美しい黒髪を揺らし、ほんのり赤らめた艶やかな褐色の肌を携えた侍女は速足で離宮へ急ぐのであった。





-------------------------------------------あとがき-------------------------------------------


書いた後は夜勤明けの帰り道のような、朝の涼しい風に排気ガスの少ない澄んだ空気を肺一杯に吸い込んだような気分になりました。


しかし、苦手な人もいるかもしれないので次の話は例外的に前回のあらすじを入れます。


それにしてもバックスさん...悪さしすぎです...。


彼のその後...ですか?...さあ?


次回、ついにアルマのターンか?!次回もお楽しみに!


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