第20話 魔術師エレオノーラ・ド・シルヴァ①

わたくしはエレオノーラ・ド・シルヴァ。

この国の重鎮であるシルヴァ公爵家の一人娘、ローエンベルク王国第一王子カスパール・ド・ローエンベルクの婚約者、聖女みさとの親友で家族、そして...。


「シルヴァ様!シルヴァ総括局長!」


「騒々しいわ、何だというの?あと長いからサヴァス様でいいと何度言えばわかるのかしら」


「はい、失礼しました。

魔導鋼鉄列車のエンジンに関してご相談が...各都市機能維持魔術の点検の前に聞いていただきたいことが...」


「向かいながら聞くわ、図面も術式もすべて頭に入っているわ。セファロ」


「はい、ではエンジン始動時に掛かる負荷に関してなのですが...」


わたくしは都市機能...上下水道から始まり照明、都市を覆う防御機構等、様々な機能を司る重要な魔術式の数々を点検し、合わせて魔力の補充をするためにここ、魔術局の中枢を目指して歩く。

道すがら副局長のセファロが報告されていない問題を報告して、わたくしが指示を出す。


セファロは元平民で今は一代限りだが伯爵である。

元々貴族主義であった魔術局を一新した時に丁度いい人材だったので登用した。

一新した時にいくつか”家”を物理的にも社会的にも潰したため、領地をあげると言ったのだが、研究ばかりでまともに管理できないと辞退された。

それでこそ魔術師だとわたくしは思う。

わたくしには立場がある為出来ない選択肢であるけれども。


「セファロ、”ビニールハウス”の研究はどうなっているの?あれは国の食料自給率に関わる重要なプロジェクトよ。問題が発生しているなら把握しておきたいわ」


「はい、やはり小型化とひいては量産体制に移る際コストがまだ課題として...」


わたくしの仕事は国の運営に必要不可欠な魔術を管理すること。

新たな魔術を作り出し、理論を固めて国の利益、民の利益とすること。


そして、戦争になった時に宮廷魔術師、”国の最大戦力”として敵を滅ぼすこと。


滅ぼさなくても良いのだけれど、戦争になった時点で色々手遅れであるとわたくしは考えている。

カスパール殿下とフィリップ様、陛下が避けられなかったのだ。そのもしもが起きたなら余程のことに違いないのだわ。


「成果を待ってはいるけれど、職員が倒れる前に止めてあげなさいな。わたくしも時間が空けば見に行くわ。他には?」


「よろしくお願いいたします。他には...」


この国は元は魔術を極めんとする言わばインテリサイキッカーの集まり、魔術と言う刃と叡智で自分たちを守ってきた。

先祖は自分たちの知識が必要以上に人や自然を破壊するのを恐れて自衛のために強い力を身に着けてきた。

魔術局はそんな魔術師達が研究に身を置く最前線。

わたくしはそれらを統括している。


わたくしがこの立場に立っている理由は至極簡単な理由からだった。

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