第18話 悪役令嬢ですから、我儘を貫き通しますわ!①

「そっか...私はもう、元の世界には帰れないんだね。そうだよね?エレオノーラ」


何となくだけど、そう感じたのだ。

カスパール殿下はまるで私がこの世界で暮らしていくことを前提で話しているし、エレオノーラも何かしらリスクを負って私を呼んだらしい。

もし私を元の世界に戻せるとしても、そう何度も連発出来る魔術でも事柄でもないのだろう。


エレオノーラが私から離れて居住まいを正す。

先ほどまでじゃれていたのが嘘だったのではないかと思うほど纏っている雰囲気の変化に驚く。

ふと、公爵令嬢で次期王妃なのだと再確認させられる。


「聖女様。恐縮至極ではございますが、私たちは勝手な行為により、聖女様をこちらの世界に招聘し、心よりお詫び申し上げます。どうぞ、お許しいただけますようお願い申し上げます。

召喚に関しまして、聖女様が元の世界に帰還する方法が存在しない事実をお伝え申し上げます。この点について、再度深くお詫び申し上げます」


そう言い切ったエレオノーラは深く頭を下げる。


「エレオノーラ...」


エレオノーラはどうやら私をこちらの世界に勝手に呼んだことをとても重く受け止めているようだった。


エレオノーラは務めて感情が表に出ないよう、淑女としての仮面を深くかぶる。


そっと顔を上げたエレオノーラはそのあとを続けた。


「わたくしはみさとがどれだけ便利で、飢餓や病気、戦争とは無縁な世界で育ってきたか話だけですが聞いていましたわ。

こちらの世界では今も誰かが飢えて、身売りや奴隷、紛争が堪えません。

ここ、ローエンベルク王国はその一切を禁止、取り締まりを行っていますが、事実全てを排除するには至っておりませんわ。


みさとはあまりわたくしに将来の事を語ってくれませんでしたわ。わたくしばかりいつも...。

もしかしたらみさとにも恋患う方が、将来の夢が...などと考えましたわ。

元の世界でしか叶えられない夢、それはもう叶いません。

わたくしがそういたしました。


わたくしを、いつかのみさとはこう表現しましたわ。


〝悪役令嬢〟


悪役令嬢は自分の我儘で周りを巻き込み、破滅する。

わたくしは破滅したくなくて、みさとに泣きつきました。

けれどその性根は変わっていなかった...。


みさとに恋患う方が居ても、どんな夢を持っていてもわたくしはあの世界にみさとをこれ以上置いてはおけなかった。


元の世界よりもしかしたら不便で、危険が身近にあって...わたくしの傍に居たら危ないかもしれないとも考えました。

けれどわたくしはカスパール殿下もフィリップ様も巻き込んで、わたくしは...みさとがこれ以上虐げられずに暮らしていけるように、わたくしが守りたいという我儘な偽善を貫くつもりです」


カスパール殿下もフィリップさんもアルマもイルマも黙っている。

エレオノーラの漂わせる空気で口を挟むのを拒絶しているようだった。


「みさとがこちらに来た時言った言葉はわたくしの決意でもあります。


恨んでくれていい、怒ってもいい、今はどうか保護させてほしい。


その言葉に偽りはありません。

みさとが元の世界に帰りたくなって...もし怒りを向けるなら...わたくしです。

わたくしのわがままでみさとを勝手にこちらの世界へ呼んだのですから。


みさとがもし元の世界に帰りたいというなら、わたくしが...生涯を掛けて何とかしてみせますわ」


「......そっか」

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