第4話 イマジナリーフレンド

医者や新しい家族に〝声〟に関して正直に話しても気分が落ち込むだけだった。

医者には「頭を強く打っていましたし、事故のショックで...」と云々かんぬん...。

新しい家族に関しては腫物扱いしてくれた頃はまだよかった。

三つ目の家に移った時に関しては声の大きさやチャンネルのオンオフを自身でコントロール出来るようになっていた為黙っていた。


学校や家やバイト先でも自分なりに周りの目を気にしていた。

どうしても一度見られたら奇異な目で見られてしまうからだ。


初めは本当に煩くて叶わなかった。

そもそも自分の頭がおかしくなったのが原因だと思っていた為、反応するのも馬鹿馬鹿しいと思っていた。

意思疎通が出来た時もまともに話せる人が周りにもう居なくなっていて半分自棄になっていた。


当時〝彼女〟を...エレオノーラを一言で表すなら、とても我儘なお嬢様と言ったところだ。

当時エレオノーラは第一王子、カスパール・ド・ローエンベルクの婚約者を探す王妃主催のお茶会で一目ぼれしたらしい。

エレオノーラは何度も幼いながらに王子と関わり持とうと必死になった。


しかし、まっっったく相手にされない。


それもそのはずで自分が婚約者に選ばれるために、他の令嬢を次のお茶会や舞踏会に行かせないように親から圧力を掛けてもらったり、少しでも王子に良いように見られようと近づく下の爵位の令嬢を取り巻きと一緒に囲んで容赦なく精神的につぶしたりと聞いたときは開いた口がふさがらなかった。


王子の婚約者候補は基本的に伯爵家以上の上級貴族の御令嬢となる。

そしてエレオノーラはその中でもっとも爵位の高い公爵家の御令嬢だった。

他のライバルが両親の権力でどうにかなってしまう立場にあって、溺愛されて甘やかされて育ったエレオノーラを止める人などいなかったのだ。


そしてそれらの所業を教えられたのでもなく自然に当時六歳で行っていたのだからこれはいわゆる将来有望な悪役令嬢である。


それらの悪役令嬢のような行動を恐らく王子が捉えていたのだろう。

エレオノーラが話しかけても素っ気なく、基本的に避けられていたようだ。

その話を自慢七割(誇張されている)、愚痴三割で毎日聞かされていた私は流石におかしな頭が考えた脳内設定にしろ酷すぎるので話半分でアドバイス、もとい説教をしたのだ。


それはもう反論されてもこちらには正論と言う名の剣と、声でしかこちらを攻撃できないエレオノーラからの攻撃を全てはじくチャンネルのオンオフ機能があるのだ。

当時嫌われかねない詰め方もしていたかもしれない...。


しかし相手が公爵令嬢だろうが何だろうが声しか聞こえない上に、愛されたいのに全く努力の方向が間違っているのを聞いていると黙っていられなくなったのが本音だ。


説得に説教、理詰めにまた説教を重ね朧げにエレオノーラが自分がかなり嫌われていること、このままでは婚約者になっても愛されないのではないか?と気付くのに五ヶ月も時間を要した。


そこからも大変だった。


王子からの良い印象がゼロ、悪い印象数えきれないと言う絶望的な状況から、まずは何とか知り合いとしてお茶が出来るようになれるように印象の大革命を起こす相談をされたり、公爵家と言うとても尊い血筋であることから保有している魔力量がずば抜けて高く、魔法が制御できずに屋敷を破壊してしまうのだと言う相談相手を間違えている相談まで乗った。


もう、魔法に関しては本当にわからなかったのでそれこそ創作物を参考にアドバイスした。

これに関してはエレオノーラには言ってはいないがいつか謝ろうと思っている。


正直脳内設定にここまで付き合う必要も無かったのだが、相談に乗らないと煩いし成長してからは寂しいと悲しげに呟くと言う卑怯な手を使い始めたため放っておけなかった。

私自身も親しい人もおらず、趣味に割けるお金もなく、家に居るだけで害がありそうだったので出来るだけ寝に帰るだけにしていた為空いた時間を埋めるのに相談話は丁度よかった。


認めたら折れそうだったので意識しないようにしていたが寂しかった。


いつしかエレオノーラの失敗話や愚痴、相談や相談した結果その後上手く行ったかどうか聞いて一緒に笑うのが私の唯一の楽しみになっていった。

一八歳になった彼女は王子に恋をして、自分を磨き、時には氷の令嬢として貴族の世界を渡り歩き、持ち前の明るさと邪魔するならパイルバンカーで打ち砕く勢いで私に無いものを手にしてきた。らしい。


そしていつからか私の話をエレオノーラは強請った。大声で騒ぐと脅迫もされた気がするが...。

それから私は度々エレオノーラに相談した。

内容が重いし楽しい話題も無いため毎回渋るのだが、話すと彼女は私の代わりに怒ってくれるのだ。


一緒に笑い、怒る。

そう、私は彼女に救われていた。


決して触れ合えなくても、声しか知らなくても、例えおかしな頭が現実を直視しない様に作り上げた架空の友人、イマジナリーフレンドであっても、それでも私の一番大切な友人で家族はエレオノーラだけだった。


だから、つい言ってしまった。


疲れた、と。





-------------------------------------------あとがき-------------------------------------------


次のエピソードで辛いのは一旦終わります。


エレオノーラとみさとのお説教のお話や大革命、魔法、恋愛相談の内容はまた別のエピソードで触れていきます。


まだ本編に入っていないのでここでは書けなかったのです。


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