第1話・「これからよろしくね!」
高校三年間をぼっちで過ごした私にとって、友達を作ることは偏差値を百上げるよりもよっぽど難易度が高い。
それは現状が証明していた。
大学生になってから三日が経過しているが、未だ同い年と思しき人物と会話を交わしてすらいない。
なんでみんな当たり前のようにグループ作ってるの? 元々友達だったの?
私変じゃないよね?『あっ、あの子もぼっちなんだぁ』と思って仲間意識抱いて安心してたら、その子、別の授業では楽しそうに談笑する仲間が既にいた時の絶望感を味わってるのは私だけじゃないよね!?
あぁ、よくない。流されて生きてきたツケが回ってきている。自主性を放棄し、思考停止して他者に追従してきたツケが。
この後悔だって何度も味わっている。
それでも私は変われなかった。
だからきっと、私はこのままだ。
なぁに、三年間ぼっちの記録が四年間ぼっちに塗り替えられるだけさ。なんてことない——
「
「!?!???!?」
その——いつも遠くの方で——聞き親しんだ声が耳に飛び込んできた瞬間、辟易に支配されていた脳内が爆速でリフレッシュされ、私のキャンパスライフが華やぐことを確信した。
「ね、そうだよね、私、岡島
「あっ、あ……」
ヒメだ。本物のヒメが、私の目の前にいる。
惰性(と、ほんのちょっとの希望)で訪れた退屈な部活動紹介オリエンテーションが、ヒメとの交流という最高なひと時に生まれ変わってしまった。
なんてこった!
「あ、あぁ〜岡島さん、久しぶり? あ、岡島さんもこの学科だったんだぁ〜」
私は惚けてみせて、なんの気もないように挨拶を交わす。
きっと勝手に彼女のことを知っていた自分が後ろめたかったのだろう。
そう、ヒメがこの大学を受けているのは知っていた。プライバシー配慮に欠ける担任が、聞いてもいないのに同じ指定校推薦枠を獲った生徒について教えてくれたからだ。
「知ってる子がいると安心だよ〜! これからよろしくね!」
「こ、こちらこそよろしく」
私が……ヒメにとっては知ってる子なんだ。そして……私がいるとヒメは安心なんだ……!!
すごい……なにこの高揚感!
いつも遠くで見ていただけの子が今目の前にいる。
いつもライブで見ていた推しがひょいとステージを降りてファンサしてくれているみたいだ……!
「? どうしたの? 文花ちゃん」
か、か、かわ……ぃ〜〜〜! 至近距離隣でのヒメの可愛さ極限値超えちゃってるんだけど!?
◇ヒメこと岡島皓幸のここがすごい!
問答無用で私の視線を奪い去る圧倒的可愛さはもはやカウントしないにしても……
優しい! 私みたいなポケーっと生きてる三軍女子の消しゴムを拾ってくれたあと、『可愛い』と言ってくれたあの日を私は忘れない……!
元気いっぱい! 体育の授業も体育祭も文化祭も大好き! いつもクラスの中心にいて、みんなを自然に導いてくれる最高のリーダー!
裏表がない! ヒメの悪い噂を聞いたことがいっっっさいない!! その平等すぎる精神のおかげで僻みすら生まれないの強すぎる!
スタイルが良さがとんでもない! 手足がすらっとしていて締まるとこ締まってて小柄だけど貧相じゃない、一流アイドルみたいな体型! 私の『こんな風になりたい』が詰め込まれたパーフェクトボディ!!
彼女の周りに特筆すべき点が赤ペンで次々と現れてるんだけど!? こんな幻覚見せるのもう兵器レベルじゃん!!
「ねぇ、文花ちゃん。今のどう思う?」
「へっ? あっ、ん? 今の?」
「うん! 演劇部!」
「あ、あー、うん。そのー」
私がヒメに見惚れている間に、どうやら目当ての部活動紹介があったらしい。
ヒメのアクセント的に、『どう思う?(すごくいいよね!?)』って意が込められている気がする。
「良かった、かな。私的は。あはは」
それでも確信なんてなく、かなりぼやかしながらそう返すと、
「本当!?」
ヒメの——通常時ですら眩しいくらいにキラキラしている——瞳がひときわ強く輝いた。
「そしたら文花ちゃん、一緒に見学行こうよ!」
「…………けん、がく?」
「うん! 私、ここの演劇部に興味があって……。文花ちゃんが一緒にきてくれたら、すごく心強いから……」
心強い……。心強い。心強い! 私がいることでヒメのプラスになる!!
ここで動かなかったら生まれてきた意味ない!!
「私で、良ければ」
「やったぁー!」
ご尊顔やお指でひとしきり喜びを表現されたヒメ様は、「よし、行こう!」と言って立ち上がり一流のスリが如く手を
「っ!!!!」
あまりにも長い間ニンゲンと触れ合っていなかったせいで、たったのこれだけで体がフリーズ。
確かにパーソナルスペースを弁えない人は苦手だ。しかしヒメの場合は特例。嫌悪感は一切ない。されど喜びが少量に思えてしまうのは、戸惑いがあまりにも大き過ぎるからだろう。
「あっ、ごめんね文花ちゃん。こういうの嫌だった?」
私の過敏な反応を察知したヒメは、即座に力を緩めてくれる。遠のいていく体温が惜しくて、世界の動きがスローモーションになる。
なのに。それほどまでに離れたくないのに。
「あ、はは。ごめん」
改めて繋ぎ直してもらうための行動が取れない。自己を主張しようとすると、心臓が潰れるような痛みが奔る。
それから私は、先を歩くヒメの背中とか、後頭部とか、うなじとかその他諸々をまじまじと見つめながら、現実感の薄い幸福感に酔ってふらふらと、演劇部室への追従を始めた。
りゅーりゅーしんく!~好きな人の憧れの人に抱かれて始まる(歪で)楽しいキャンパスライフ!~ 燈外町 猶 @Toutoma
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