りゅーりゅーしんく!~好きな人の憧れの人に抱かれて始まる(歪で)楽しいキャンパスライフ!~

燈外町 猶

プロローグ・「酔ってなきゃダメ?」

綯子とうこ……酔ってるの?」


 カーテンの隙間から溢れる月明かりは彼女の意地悪な瞳を照らし、それは真っ直ぐに私を捉えている。酔っているようにはとても見えない。

 それでも私は、その行動の意味を理解するために、そう問わざるを得なかった。


「どうかな」


 最高に楽しい宅飲みだったのに。

 持ってきてくれたジュースも、お手製のおつまみも美味しかったのに。

 アルコールに浮かされた彼女は、普段はお堅い黒猫が甘えてくるようで本当に可愛かったのに。

 底が見えない程深いと思っていた私達の溝は、実はスキップで飛び越えられる程度だとわかったのに。

 堅苦しく絡みづらいと思っていた綯子の性格は、実は私なんかよりもずっとフレンドリーだと知ることができたのに。

 また一つわだかまりが無くなったキャンパスライフは、より一層輝くと胸が高鳴っていたのに。


「酔ってなきゃダメ?」


 今は全く別の意味で心臓が暴れ回っている。

 どうして綯子は私に覆いかぶさり、妖しげな笑みを浮かべながらそんなことを言うのだろう。


「……」


 逃れるように逸らした視線の先ではデジタル時計が、まだ零時にもなっていない事実を教えてくれている。

『明日、二人でモーニングを食べに行こうね』と約束したカフェが開くまでまだ十時間以上ある。夜は長い。朝は、遠い。


「答えて、文花ふみか

「っ……」


 突然下りてきた彼女の唇が私の耳元で催促のために蠢く。初めての感触に、自分でも初めて聞く声が出た。


「……ううん、やっぱりいいや。文花、何も答えないで。あなたはあなたらしく流されていて。私に全部、任せて」


 淡々と、されど喜色を隠せていない声でそう言うと、綯子は冷たい指先で私のパジャマをゆっくりと押し上げ、捲っていく。


「文花……」

「ん、んっ……」


 淫らな水音を立てる熱い舌先のせいで、脳が蕩けるような感覚に陥る。両手のひらはいつの間にか強く強く繋がれていて、抵抗は無意味だと無言で躾けられている気分になる。


 どこか非現実的な魅力を持っていた彼女の体はじっとりと汗ばみ、現実的な艶かしさを帯びていく。


 未知に竦む私の体は、好奇心を餌に開かれる。


 淀みなく快感の最奥地へ連れていかれ、痛みの手前で引き返される。それが何度も何度も、繰り返される。


『文花ちゃんっ』

 やがて、脳内が真っ白になった一瞬の隙に——

『これからよろしくね!』

——愛しい人の、無垢な声音が脳裏に響いた。


「文花、今だけは……私を見て」


――ああ、またか。

――こんな状況になっても、私は……。


 彼女の言う通り私は、またもや、ふたたび、飽きもせず、凝りもせず、今夜もこうして――流される。

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