分裂ご奉仕―恋する邪神は愛が重すぎて増殖する―

「おはようございます、あなた。」

『おはようございます、あなた。』


「あぁ、起き上がらないで。」

『まだ寝ころんだままでいいんですよ。』


 …まだ寝ぼけているのかもしれない。

 ぼやけた視界に、恋人が二人いるように見える。


「そんなに眼をこすらないで。夢じゃありませんから。」

『それとも。そんなに不思議ですか?』

「『愛しい恋人が、二つになってしまったことが。』」


「だってせっかくのお休みですから、特別な日にしたくて。

 平穏を繰り返して、つまらない女だと思われたくないですし…」

『…それに、知っているんですよ?』


『液晶の中で卑しく腰を振る女を見ている事…

 あるいは道で、肉を晒して歩く女を見ている事…

 わたし以外の女を、見ていますよね?』


「ぎくっ、てしましたね。ふふっ…

 あんまり身構えないでいいですよ。悪いのはあなたじゃありませんから。」


「悪いのはわたし。

 あなたをわたしで満たせなくて、あなたに目移りさせた私のせい。

 だから、増えてみました。」


「冷めない恋の秘訣は」『尽きない刺激の過供給』

「わたしが二つで」『愛情だって二つ分』

「今日はわたしと」『わたしで』「あなたをドキドキさせちゃいます。」


 ごそごそっ…


「えへへ…ベッドにもぐりこんじゃいました。」

『わたしも…抱き着いたり、してみたり…』


 むぎゅっ…

 …どくん…どくん…


『あったかい、ですね…あなたの体温、熱くなってます…』

「ドキドキして、くれてますか?

 私はもう、ものすごく…ほら。」

『感じてください。わたしたちの心音。』


 …どくん…どくん…どくん…


『あうっ、ううぅ…

 抱き寄せられたりなんて、したら…わたし…』


 どくどくどくんっ…


「ず、ずるいっ!

 わたしも抱きしめて、わたしより強く…あ、あと撫でたりもしてくださいっ!」


「ふふっ…ふ、ふふっ…

 わ、わたし、幸せすぎてぇ…」

『うわぁ

 わたし、あなたに撫でられるだけであんな顔になっちゃうんですね…

 とろとろにとろけて、崩れてしまって…

 ああもう、唾液まで零しちゃってる…』

「心臓が、どんどん…膨れ上がって…早くなってぇ…」


 どくどくどくどくっ


 ───ぱぁんっ!!


『えっ…?』

「…ごめんなさい…心臓、破裂しちゃいました…

 えっと、怒らないでくれると嬉しいです…

 わたしのドキドキ、伝えたくて

 ちょっと張り切りすぎちゃって…』


『ところでわたし、忘れていませんよね?

 わたしたちが本当にするべきこと』

「え、ええ。

 どきどきするんじゃなくてさせないと、です。」

『二人じゃ足りないなら…』


 ぱさっ。

 恋人の髪が一束落ちる。


 うじゅる…うじゅる…

 床に落ちた、髪束だったはずのそれがぐずぐずにくずれて、形を変えていく


「もっとたくさんのわたしで、お相手しますね」

 

 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ…

 恋人の姿を、象っていく。


『このわたしは、わたしよりずっと大きく…できました』

「見てください

 あなたの全身を包めるぐらい大きなわたしです。

 胸を枕にして、お腹をベッドにしちゃえます。

 あなた専用の、あったかふわふわベッドです」

『ちゃあんとあなたの希望通り、枕を大きくしてますよ♡

 あなたの頭が埋もれちゃうぐらい…ふふっ

 ほら、一緒に。わたしに飛び込んじゃいましょう

 せーの…』


 ぽふっ…

 …むにぃぃ…


「きもちいい、ですよね。私の躰」

『あなたの理想の恋人の躰ですよ。気持ちいいに決まってます、よね?』


 どくんっ…どくんっ…


「大きなわたしの心臓が揺れるたび…ゆりかごみたいにベッドも揺れて…」

『まるであなたを赤子のように感じます

 …赤子をいとしいと思うなんて、初めてです。』

「両腕を抱いて、わたしにあなたを寝かせて…あなたの全身に、わたしを絡ませます。

 全身、余すところなくです。なので…」


 うじゅる…ぐちゅぐちゅぐちゅっ…


「今度は小さな、幼いわたしです。」

『ぷにっとしていて、我ながら可愛らしい女の子ですね。

 あのわたしは…そうですね、足が空いてますから…』


 くちゅっ…ぴちゃ…ぴちゃ…


『くすぐったいですか?

 …へぇ。足を舐められるなんて初めてで…

 またわたし、あなたの初めてをもらえたんですね♡』

「…わたし、ちょっと、興奮しすぎてませんか」

『だって、跪いて脚に奉仕するなんてはじめてなので…

 幼いわたしが、あなたに足蹴にされている様で、なんだか…昂っちゃいます…♡』

「ああ、ちょっと、わかっちゃいます…♡

 もちろん、あなたがそんなことしないのはわかってます。

 でも、ね。女の子は、大好きな人になら何をされたって悦んじゃうんです。」


 ぴちゅっ…くちゅっ…


「…ええ、そうです。

 わたしは、わたしたちはあなたが」

「『大好き♡』」

「なんです」


『分裂してわたしたちは、切り離した自我の一部。

 本当はあなたをきらいなわたしだっているかもしれないのに。

 わたしの断片全部が、あなたを大好きなんです。』

「きっと幾億と別たれたって、あなたへの気持ちは全部同じです。」


「だからまだまだ…無数の私で、尽くさせてください。」


 うじゅる…うじゅる…


『このわたしは、もう片方の脚に…』


 うじゅる…うじゅる…


「つぎのわたしは…指が空いてますね…」


 うじゅる…うじゅる…


「あなたが寝ているベッドはわたしで…あなたを包むブランケットもわたしとわたし」

『そしてわたしたちの舌が…あなたの全身をはい回って垢をそぎ落としていくんです。』

 あなたの身体、全部に。わたしの痕をつけちゃいます。』


 ちゅっ…ねとっ…れろぉ…


 ぐちゅっ…ぐちゅっ…


『あふっ、うぅ…♡

 あ、あんまり動いちゃだめですよ…』

「あなたの体全部にわたしがいるんですから

 ちょっと動くだけで当たっちゃいます…

 わたしだって、触られると恥ずかしい場所があるんですよ…?」


 うじゅる…うじゅる…


「あとは…唇だけですね…♡」

『どうしてそこを開けてるのか、わかりますよね?


『女の子は、尽くすだけじゃ苦しいんです。

 見返り、なんて言いませんけど。確かな証が欲しいんです。

 私は愛されているんだという証明。

 誰よりも何よりも、あなたの唯一無二である保証が。』


「聞かせて。あなたの気持ち」

『言ってください、あなたの恋人に。』


 …想いを恋人に伝えた。


「っ~~~~~~!!!」


「あふっ…うぅ…

 んあっ、はぁ…はぁーーーっ…

 ふぅ…ふぅ…♡」


「どう、しよう。わたし、わたしたち、もう…

 我慢、できない…」


 ぐじゅ…ぐずぐず…


「星屑にも満たない、霞の様に希薄な命、なのに。

 あなたが、愛しくて…」


 ぐちゅっ…ぐちゅっ…


「わたし、あなたと一つになりたい。

 わたしの中にあなたを迎えたい。」


「見えていますか?

 今あなたの目の前に現れた巨大な肉の管。わたしの縺輔s縺ゥ縺。

 ここであなたをわたしの胎内に迎えます♡」


 ぬちゃあぁぁ…

 彼女の作り出した、肉襞のうねる管が粘液を垂れ流しながら口を開ける。


「そしてあなたは…わたしから産まれ直すんです♡

 わたしと同じ、永遠の時間を漂う宙の雲として。

 わたしと共に、終わらない生を過ごす存在として。

 あぁ───縺。縺後≧縺。縺後≧縺。縺後≧」


 彼女の声に、酷いノイズが走り出した


「わたしは、あなたが大好きです。

 あなたも、わたしを想ってくれている。なら…

 …今のあなたに、執着する意味はない、ですよね?」


「さぁ、わたしの縺ォ縺偵※縺ォ縺偵※縺翫?縺後>」


 ぐちゅっっ、じゅぶぶぶっ…


 管が頭を覆い、吸い上げられる。うねる肉の襞に吸い上げられていき…


 …べちゃっ

 胎にたどり着く管の途中で吐き出された。


 顔を上げると、彼女が今にも吐き出しそうな表情で

 瞳の下に涙を貯めて、震えていた。


「…ちがう。わたし、こんなこと…

 あぁ、あ…ごめんなさい。違うんです。

 すこし、おかしくなっちゃっただけなんです。」

 

「わたしが好きなのは。わたしが恋をしたのは、今の───」


 ぐちゃぐちゃ…ぐちゃっ…

 彼女の体が崩れて、違う何かに変わっていく。


「…あ、あぁぁぁぁぁ…!!

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 少しだけ、一人にしてください。追いかけないでください。」


 うじゅる…うじゅる…

 ついさっきまで隣に感じていた恋人の温度が消えていく。

 

 冷めた空気の部屋に、自分一人だけが残された。

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