第7話 思ってたんと違う
目の前には机の上に上半身だけでている、それはもうナイスバディな赤髪の女がいた。
『ちょっと、何よこれ。つっかえっちゃったじゃない。』
目の前の女はどうにか机から出ようと奮闘している。
「じじい。」
『む?なんじゃ?」
「あのさ、式神っていうのは私の想像上生き物っていうか、可愛いものなんだ」
『ふむ。こちらの式神もかわいいじゃろう?』
「いや、なんつーか。思ってたんと違うっていうか。人間?みたいじゃん。この人」
『ちょっと!人間だなんて失礼しちゃうわ。私は鬼よ!れっきとした妖怪です!」
私達の会話を聞いていたのか女、もとい鬼は少し怒った様子で訂正を入れてきた。
よう、、、かい?もっと駄目じゃね?
一瞬にして頭がパニックになる。式神=清らか。じゃあ妖怪は・・・?
てか私なんで妖怪召喚しちゃってるの?え?どういうこと?
混乱しすぎてじじいを見ると、なぜかじじいは目を輝かせてこちらを見ている。
『やはり、お主は解呪者なんかより、呪術者を目指す方がよっぽど合っているぞ!』
うん。ここで何かじじいに聞くのは面倒くさいことになりそうだからやめとこう
『ねぇ、ここから出るの手伝ってくれない?』
鬼に言われ、慌てて机から引っ張り上げる。
『ふぅ、ありがとう。あっ、やっぱり!なんだか懐かしい感じがして来てみたらあなただったのね』
『おお、やはりお主か。久しいのぉ。童子よ。』
「ちょ、ちょっとまって。あんたら知り合い?」
知り合いと会ったかのような反応の二人に、なんとなくイヤな予感がして間に割って入る。
『おお、知り合いも何も。わしらは旧友じゃよ。昔は飲み友だったんじゃ』
『ふふ。昔はもう一人いた友人と三人でよく夜が明けるまで飲み続けたわね。二人とも急にいなくなっちゃって寂しかったのよ。』
『・・・そりゃぁ悪かった』
返答を返すじじいの顔が一瞬曇った気がしたが、私の今の顔は曇っているどころではなくゲリラ豪雨でも起こっている勢いで歪んでいるような気がする。
「ちょっとまって、ひとまずあなたは私の式神になるって事なの?」
『うーん。私は妖怪だから式神にはなれないわ。その代わり、あなたとオトモダチになりに来たの。』
ああ、終わった・・・・オトモダチ・・どこの漫画の世界戦だよ・・
ちょっと待って。こんだけ騒いでたら生徒会の人に・・・
はたと気付いてブルーシートの外を覗おうとする。
『何を心配しているか分からんが、あやつらの心配はせんでも大丈夫じゃ。わしがこの空間自体の時を止めているからな』
じじい。そんなことできたのか。ますます、じじいの正体が分かりかねる。
「でもここを出るときに見られて、妖怪をつけてるってばれたら・・・」
『その心配はいらないわ。かなり能力の高い人か、私が認めた人じゃないと、私の姿は見えないから。』
なら、安心とはならない。が、まずはこの問題を置いておいて、お互いのことを知るところから始めるべきだろう。
「とりあえず、まずは自己紹介から。私は冬子。一応解呪者。」
『ずいんぶん、あっさりしてるのね。まぁいいわ。私は酒呑童子。さっきもいったけど古よりいる鬼で、昔はこっちの世界でも名を馳せていたのよ。』
酒呑童子はそう言って自慢するかのように胸を張ってきた。自然と自分の胸に目を移してため息をつく。
『そういえば童子よ。冬子ちゃんに呼ばれて出てきたということじゃったが、今までどこにいたんじゃ?』
『う~ん、そうねぇ。説明するより見てもらった方が早いわね』
ん?見てもらった方が早い?
そう思うやいなや、酒呑童子は胸と胸の間から見たことのある四角い機器を取り出した。
なんか、既視感のある道具・・・まさかと思うけど、すま・・・
『お~童子よ、お主すまーとふぉんなぞ持っておるのか』
『当たり前じゃない。時代についていくのは大変なのよ?スマホがあればすぐに情報を得られるし、可愛いネイルだって、新しい髪型だって決めるのに役立つんだから』
あ、その髪の色染めてたんだ。
『それに私、お店のオーナーしてるから、バイトの子と連絡するのにスマホ必須なのよねぇ』
あ、環境に適応出来るタイプなんだ。
『あ、あったあった』
ほらと言って見せられたスマホの画面には、様々な種類のお酒を背景に立たずむ酒呑童子が写っていた。
『私この近くにあるバーでママやってるのよ。一度始めたら楽しくって、いまじゃここら辺のバーで一番稼いでいると言っても過言じゃ無いわ。』
そう言ってどや顔をする酒呑童子を見ながら私はただただ頭を抱えた。
人間界に溶け込んでいる妖怪を一体どうやって式神だと偽ればいいんだ。こんなんじゃすぐばれる。いや、それどころか妖怪を従える悪女として有名になってしまう・・・・
『・・・・ねぇ。冬ちゃん。私といるのがバレちゃうのが怖い?私とはオトモダチになれない?』
急に問われて酒呑童子を見ると、微笑んではいるが彼女が何かに怯えているということに気付いた。
「・・・・・はぁ。近くでバーを経営してる酒豪のママさんをどうやったら怖がれるんだよ」
『でも、私は妖怪だし・・』
「そんなこといったら、じじいだって似たようなもんだろ。幸か不幸か分からないけど、私には「解呪者」としての力はないんだ。式神だって召喚できなかったとしても怪しまれたりなんかしないよ。」
こうなったら当たって砕けろだ精神で述べた言葉に、なぜか酒呑童子が固まった。
しかし、私はそんな酒呑童子の気持ちを理解することが出来る。
彼女が恐れているものは「孤独」だ。本当の自分を誰にも理解してもらえない「孤独」。私も長い間姉と比較され続け、私自身を見てくれる友達なんて出来たことがない。私には家族やじじいがいるが、彼女には今までそういった「本当の自分」をさらけ出せる場所なんて無かったのだろう。そんな彼女をどうして突き放すことができようか。
『ふふ。ありがとう。じゃあ私達は今日からオトモダチね。私のことは童子って呼んで!』
「分かったよ。じゃあよろしく。童子。」
『うんっ』
返事をして笑う彼女の顔が、その時は何故か子どものように見えた。
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