第8話 初めての授業。

「ようっし、みんな式神を連れて・・・あぁーまぁ連れてないやつもいるが、大丈夫だっ。とにかく一度教室に戻るぞ。」

先生はばつが悪そうに私の方を見てから、また生徒を連れて教室へと向かっていく。


ふぅ、なんとか気付かれずにすんだ。

『へぇ、学校ってこんな感じなのね。私来るの初めてでなんだかどきどきしちゃうわ。』

『そうか?慣れてくれば他の建物とそう変わりないがな』


横で五月蠅くわめいている二人を一瞥しながら、私も他の生徒について歩く。

先ほどブルーシートから出たときに、凪先輩は式神を連れていない私に向かって鼻で笑ってきた。ほかの生徒会のメンバーも全員とは言わないが、明らかにその視線に同情・嘲笑・侮蔑の感情を宿して私を見てきた。

そしてそれは、他の生徒も同様だった。


まぁとくに私は気にしないがな。

「よし、お前ら。いったん自分の席に着けー」

先生の声に従って、全員が自分の席にすぐに着席する。その横には様々な姿をした式神がついていた。


『はぁそれにしても、冬ちゃんごめんね。わたしのせいで。さっきから他の人の冬ちゃんを見る目と言ったら。不愉快だわ。』

「別に。もう慣れたから大丈夫。それにじじいが二人いるよりもましだから、気にしないで。」

『もうっ、それはどういう意味じゃよー。わしは二人いても三人いてもクールびゅーてぃーな紳士なことにかわりないじゃろっ』

私に向かってウィンクをしてくるじじいの目をこれほどまでに縫い付けたくなったことはない。

童子さんは、そんなじじいを見て若干引いていた。

『あんた、そんなキャラだったけ?』

『わしはいつだって真面目なタイプじゃろ?』

真面目という言葉を辞書で引いてから言ってくれ。


「よし。じゃあ今日は式神について説明するからよく聞けよー」

そう言って先生は黒板に様々な絵を描き始めた。


「すごい」

どこからともなく漏れたその言葉に激しく同意する。

すごい・・・すごい下手だ。

一体何を書いているのかここまでわからないのは、ある意味才能かもしれない。

『いやーりっぱな絵を描くのぅ。真ん中に描かれている男なんて、立派な筋肉じゃ。』


じじい、分かるのか・・・?

「ようしっ、描けたぞ!これは犬の式神だ」

そう言って先生が指し示したのは、先ほどじじいが男とか言ったものだった。


間違ってんのかよ。


「お前らが今日使役することになった式神だが、それぞれに相性の良い能力があるんだ。そして、そいつらは怪異と戦う際にお前らをサポートしてくれる。式神は攻撃を受けても死んだりはしないが、一次的に消えてしまうから、過度に使いすぎるのは要注意だ。式神の状態を見つつ、戦うように。あと、なんかあったかな・・・・まぁ、こんなもんかっ。なんか質問あるやついるかー?」


先生は黒板に描いた絵にチョークで描き足したり、塗りつぶしたりして、随分大雑把な説明をした。


「まぁ、実際に戦闘実習してみればわかることだ。あれだよ、ほらよく言うだろ。頭で考えるより、体で覚えろってな!!!がっはっはっはっはっは。」

あんまり聞いたことねぇよ。

うん。あれだな。先生は生粋のバ・・・じゃなくて脳筋思考なんだろう。


「そんなことは置いといてだな。」

置いとくな。けっこう重要だろう。

「入ったばかりであれだが、この学校の行事の一つに「体育際」があるんだが。それがもうすぐなんだ。だから明日から授業のほかに体育際に向けた練習するから、みんな楽しみにしとけよー」

「先生」

先生の情熱のこもった声と対照的に冷めた声をあげた生徒へと、全員の視線が集まる。

あれは・・・

「おっ。お前は初日にも質問をくれた熱心ガールじゃねぇか。なんだぁ、なんでも答えるぞ」

「あの、入って数日で体育際というのは、少し早すぎる気がするのですが。」

「うーん。そうかぁ?この行事を決めているのは生徒会だからなぁ。なんだっけな。早い段階で体育際をすることで一つの行事を通して、全員の団結力を高める事が狙いとかなんとか。まぁ俺に答えられるのはこれくらいだなっ。これで大丈夫か?」

これまた大雑把な説明に、質問をした女子生徒は納得したようなしてないような顔で引き下がった。


「じゃあ、今日は入学して二日目だからな。式神の召喚式も終わったし、お前ら帰っていぞー。」

うん。あっさりしすぎだろ。


そんなこんなで召喚式は幕を閉じたのだった。

ただこのときの私はまだ分からなかった。この「体育際」が、後に繋がる大騒動の始まりになるということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る