第9話  「能力」とじじい

次の日学校に行くと、いつもと何かが違った。

その理由は簡単だ。いつもは朝会の時にゆっくりとやってくる嘉穂先生が、すでに教室にいて、なおかつ頭にはハチマキを巻いていたからだ。


 すごく、すごくイヤな予感がするんだが・・・


そしてその私の勘は後ほど当たっていたことが明らかとなる。


キーンコーンカーンコーンキンコーンカーンコーン

 あ、チャイムだ・・・・

「ようしっ、みんなおはよぉぉぉぉ」

 あ、鼓膜いったかもしれない。

「昨日も話したが、もうじき体育際だぁっ。競技は毎年生徒会によって決められているから、俺たちはその競技の練習をするだけでいい!!さっそく昼から体育際の練習をするから、みんな校庭にあつまるようにっ!いいかぁ、来なかったやつは俺が頭をグリグリしてやるからなぁ!あっはっっはっっはっは。・・・よし、授業を始めるぞ。」

 怖えよ。感情の起伏が怖えよ。そして、その筋肉で頭グリグリされてみろ。頭蓋骨粉砕骨折するだろ絶対。


そんな私の心の中での突っ込みは届くはずもなく、授業が淡々と進められていった。

「今日は「能力」について説明するぞー。解呪者は呪術者や怪異と戦うために、様々な能力を持っている。通常、解呪者になるための必須能力に「霊視能力」がある。これは怪異や呪術者の使う呪いを視ることができ、やつらと戦うために必要だ。ちなみに解呪者の中には視えないが、直感的に感じることができるやつもいるから、必ずしも視えるやつのみが解呪者になるとは限らないからな。」

『ふむ。授業は真面目にするんじゃのぉ』

『それにしても、あの筋肉すごいわねぇ』

外野がうるせぇ。

でも今日の授業は私にとってはかなり重要だ。霊視能力以外の力を持たない私にとって、他の能力を知っていて損はない。

まぁ、今後「能力」が発現するわけないと思うけど・・

「ちなみに。俺が持っている能力は「触可能力」だ。これは怪異や呪いに直接触れることができる。その他に、自分の中にある「気」を使って攻撃するような「通常攻撃能力」もある。「通常攻撃能力」の方が一般的で、「気」をどんな攻撃に変化させるかはその人によって変わる。わかりやすく言うと、生徒会の書記の凪は「風」に変化させるし、玲は「火と氷」。それ以外にも生徒会長の香奈子は「火・氷・風・草・水」と5つの力を使うな。この5つの力を使えるのは今のところ世の中を見ても香奈子だけだな。あと歴代で言えば伝説の解呪者「清田花惠」はどんな力にも変化させることができたそうだ。」

先生の説明にそこかしこで感嘆の声があがった。

そのすべてが姉に対する憧憬の声であることは理解している。

『・・・・・』

『冬ちゃん・・・』

童子さんの声に横を見ると、明らかに心配そうな目で私を見ていた。

「大丈夫だよ」

小声で返事をするのが精一杯だった。

まぁ、とくに気にして無いんだけどね。

「先生」

入学してから、何度か聞いたことのある声がまたもや聞こえ、全員の視線がそっちに無く。

「おお。なんだぁ。熱心ガール」

「ねっ・・まぁいいか。あの先ほど言葉の中に出てきた「呪術者」ですが、怪異との違いを詳しく教えていただけると助かります。」

「ああ、言ってなかったか。すまんすまん。」

先生はその生徒に向かって笑顔で謝った。

「みんなが目指してる「解呪者」だが、その反対となる存在もこの世の中には存在するんだ。それが「呪術者」だ。怪異は知ってるだろ?怪異はこの世ならざるものであるが、呪術者はこの世に存在するものだ。そして呪いを生み出すのに、特別な力や能力はあまり必要ない。何かを怨む思いがあれば呪いを作り出すことが出来る。だから、呪術者の方がやっかいだ。怪異は消せるが、呪術者は呪いは消せても特定しない限り、存在しつづけるからだ。これで分かったか?」

女子生徒はありがとうございますと言って、ノートにメモをとり始めた。

先生の言葉にじじいの方を向く。

心なしかじじいの瞳がここではない別の場所を視ているような気がして、背筋が冷えた。

じじいは、自称ではあるが「最強の呪術者」だ。もし、それがほんとうなら・・・

私が「解呪者」になったときに、このままの関係でいられるのだろうか・・・

・・・・・・なんてな。今もこうしているんだから、変わりないだろ。

心ではそう思っているのに、何故か背筋は冷えたままだった。

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