第9話 野生のゴリラとうちのゴリラどっちが強いんだろう
何度か地獄のような練習を重ね、いつの間にか体育際当日になっていた。
「では、解呪専門学校体育際の開催をここに宣言する。」
入学式と同じように学園長が登壇して開会宣言をする。
「よおっし、みんなぁぁぁぁ!練習の成果を他のクラスに見せつけてやろうじゃねぇかぁぁ!」
本日も日射しよりも暑苦しい嘉穂先生の激励を胸に、クラスメイト達は死んだ魚のような目でそれぞれの持ち場についた。
最初の競技は借り物競走か・・・私の出番は大縄飛びだから、まだまだだ。
『冬子ちゃぁん。わし暇じゃよぉぉ。』
『ここは熱いわね。日焼けしちゃうわ』
日射しに焼かれて、成仏してくれ。
二人の五月蠅い怪異とともに、クラスのテントにて待機する。
「はぁ、凪先輩。今日もかっこいい」
「玲先輩もかっこいいよねぇ」
今日も今日とて、女子達は歓声を忘れない。
ほんとに、たいそうなこって・・・
『あんな小僧のどこがいいんじゃ?わしの方が何倍も二枚目じゃろう。そうじゃろ?冬子ちゃん』
横の五月蠅いのはいつも通り無視だ。
『ええぇ、無視かい。冬子ちゃぁん。・・・・・』
・・・ん?なんかいつもの粘り強さがないような・・
そう思ってじじいの方を見ると、遠くを見つめ、空虚な目をしていた。
「?どうかしたのかじじい。」
『・・童子よ。感じるか?』
『ええ。来るわね。』
「来るって何が?」
『・・・・・・怪異じゃよ。』
じじいのその一言とともに、遠くのほうから悲鳴が上がった。
「きゃぁぁぁぁぁ。怪異よ」
「なんで、怪異がここに。」
「それだけじゃない。あれはゴリラの怪異だ」
どういう状況だ・・・ゴリ?なんでここにゴリラの怪異が。
『察するに、あの怪異は犬や猫などの動物たちの念が集まって出来たものじゃな。』
「皆の者っ落ち着きなさい!霊視能力を持たない者はこっちに来なさい。先生方の指示に従って避難しなさい。」
じじの解説とともに、大きな学園長先生の声が響いた。
学園長先生に言葉にみんなが従う、と思いきや全員がパニックに陥っているため誰も先生の話を聞いていなかった。
「早く避難しよう」
ものすごく暴れ回っているゴリラの怪異を尻目にさっさと非難しようとすると、悲鳴が一層大きくなった。
見ると生徒の一人がゴリラの怪異に捕まえられていた。
「おい、じじいあれってやばいんじゃ。」
「待て。わしの生徒に手を出すな。」
先生の声が響き渡り、見ると学園長先生が前に出ていた。
『いやぁすごいのぉ。生徒のために前に出るとは。なかなかの根性の持ち主じゃ。』
ブオンっ。ものすごい音がして、ゴリラの右手が学園長の顔をかすめた。
その拍子に学園長の眼鏡が宙を舞い、一瞬にして学園長の勇気は砕け散った。
よく学園長やってんな。
「おい、怪異よ。俺と勝負だっ」
今度はうちのゴリ・・じゃなく嘉穂先生が前に出た。
『おお、こっちのゴリラと怪異のゴリラはどっちが強いのか見物じゃの』
じじい、楽しむところ間違えてる。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
『ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』
ゴリラ同士の咆哮が重なり合う。
先に動いたのは怪異だった。力と力のぶつかり合いが続く。
「うおっぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
怪異が嘉穂先生によって投げ飛ばされ、小さな霊魂に分散した。
『おお。こっちのゴリラが勝ったか』
じじい。ゴリラじゃない。先生だ。
「うわはっはっはっはっは。正義は勝ぁぁぁぁぁぁぁつ」
どっちが怪異かわかんねぇよ。
「ひ、眼鏡はどこじゃ。校長先生、校長先生!はやくあのゴリラの怪異を!!」
「学園長。あれはうちのゴリラです。そしてこちら眼鏡です。」
冷静な校長先生により眼鏡が渡され、けが人なしの状態でこの騒動は幕をおろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます