第5話 はい嫌われたー。じじいの所為だ。

「じじい。いい加減元気出せ。」

じじいは明らかに落ち込んでいた。


周りの空気はいつもより淀み、心なしか顔も険しい。極めつけは、数分ごとに吐き出される特大のため息と口数の少なさだ。


昨日帰宅してからずっとじじいはこんな感じだった。

ここまでじじいが落ち込むのは珍しい。普段はテンションの高さがうっとうしいが、落ち込まれるとそれはそれで落ち着かない。


それにそんなに落ち込んでいるなら家にいればいいのに、相変わらずじじいは私の登校についてきた。


「はぁ、一体何が原因でそうなったんだ?」


何度目か分からない質問にじじいが答えることはなく、仕方がないので無言で歩き続けた。

朝からなんで私がじじいに気を遣わなければならないんだ・・・

言いようのない怒りがこみあがって来るのを感じるも、発散はできないまま学校に到着する。


自分の席に着いてすぐ、急にスピーカーからジジジッというような機械音が聞こえた。

「んんっ 会長の行進です」

・・・いや、院長回診か!しかもなんだ行進って。運動会か。

二つの単語が合わさることによって、幼稚さが限界突破するというとてつもない衝突事故を引き起こしている。何故だ。アナウンス係。何故そのアナウンスをした。


「失礼する」

いつもの聞き慣れた声に我に返る。

見ると、生徒会のメンバーがぞろぞろと中に入ってきていた。


そのまま、生徒会長である黒羽香奈子こと私の姉が真ん中に立ち、話し始める。

「諸君。まずは昨日も言ったことだが、入学おめでとう。我々とともに、学校を創り上げる新たなメンバーになってくれたことに感謝する。本題に入る前にまずは、我々の自己紹介からするとしよう。」


「では僕から。東雲凪。生徒会長の秘書兼書記をしている。よろしく」


東雲凪と名乗る男は瞳に冷酷そうな光を放ちながら自己紹介をした。

すらりと伸びた手足に、シルバーの髪。物語の王子様といえばというような容姿をした男だった。そのため、ものすごく無愛想な自己紹介だったはずなのにキャッキャと騒ぐ女子が多かった。


「じゃあ次。俺は九賀玲。副会長をしています。よろしくね。」


先ほどの凪さんとは違い、黒髪にこちらも長い手足。恐ろしいほど美しく儚いようなその容姿は人間かを疑わせるほどだった。

この時の女子の歓声は先ほどの凪さんの時よりも大きく、やはり物腰が柔らかい方が好かれるのだなと感じた。


「最後に私は黒羽香奈子。生徒会長だ。みなよろしく」

そういった姉はやはり美しく、この三人がいるからか教室内の華やかさは格段に違っていた。


「では、学校生活の説明に入ろう。この学校はみなも知っての通り「解呪専門」学校だ。そのため、みなにはこれから解呪について学んでもらうことになる。そして、学ぶ際のルールについてだがこれといったルールは特にない。みなそう硬くならずに安心して授業を受けると良い。みなには是非とも解呪者としての技術だけでなく、友人と学びを通して『絆』を育んで欲しい。」


『絆』

その言葉を聞いた瞬間、横にいたじじいの雰囲気が一気に変わった。

それはより悪質なものになり、じじいの本質が嫌でも「呪いの怪異」であるということを分からせられた。

「じじい、おいっ、どうした」

小声で語りかけてみるも、私の声は届かない。

まずい。そう思った時だった。


シュッという風の音がし、次の瞬間にはじじいが綺麗さっぱりいなくなっていた。


「おい。貴様」


ひっ。

その声はまるで地獄の底から上がってきているようだった。

前を見ると、凪先輩がこっちを見て私をにらみつけている。

心なしか、玲先輩の目も笑っていなかった。


「会長の妹か。噂には聞いているぞ。能力が無いんだってな。だとしてもだ、怪異に気付かなかったのか?」


「いや、、これはっ」

何か弁明しなければ・・・・


「言い訳は結構だ。他の者に危害が加わってたらどう責任を取ったんだ?能力が無いのに出しゃばって、会長の顔に泥を塗るな。」


私の心がいまや悲鳴を上げていた。

自分が役立たずということはもうとっくの昔に気付いていたことだった。けれど、改めて言われると結構心に・・・・来てない。

あれ、何も思ってない。

いつの間に私はここまで神経が図太くなったんだ。


いまやそのことに対する疑問で、私の胸はいっぱいだった。


その沈黙を反省と受け取ったのか、その後凪先輩は特に何も言ってこなかった。

しかし、帰り際に「この学校はリタイア者も多い。やめるときは簡単にやめることができる」というのを私の方を見ながら言ってきた。


それができるならとっくにしてるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

という私の心の叫びは届かないまま、生徒会の説明は幕を閉じた。

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